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仙台と鹽竈神社と気仙沼

我々夫婦は数年単位で『日本全国ダーツの旅』に出る転勤族だ。
ダーツの投げ主が所さんでも我々でもなく夫の会社である点は少々腹立たしいが、文句をいっても仕方がない。

そんな転勤生活を少しでも楽しもうというきっかけだったかどうかは忘れたけれど、夫婦で47都道府県を全制覇する夢を共有していることはたしかだ。

2024年11月18日~24日の7日かけて、福島を除きぽっかり空白だった東北5県を一気に攻めようと企てた。
…とはいえ当日まで決まっていたのはそれだけ。どんなルートで、どこで何をして、どこに泊まるのか、ノープランでのスタートとなった。

∽∽∽

最初に降り立った東北の地は宮城県。
「仙台=牛タン」との安易な発想ではじめて「ゆで牛タン」を食した。
見たこともない分厚さで肉々しいのに箸でも切れるぐらい柔らかく、お上品なスパム(褒めている)のようであった。寒さで冷えた体にお出汁のきいたスープもしみた。
焼き牛タンも飲み込むのに苦労しない、程よい弾力。大根おろし、わさび、柚子こしょうといろいろな薬味で牛タンの表情も変化する。好みは大根おろし×わさびのコンボ。さっぱりとした薬味でお肉の旨味が引き立つ。
もうしばらくそのへんの焼肉屋では牛タンをオーダーできないだろう。

また食べたいゆで牛タン

これだけで満足すればよいものの、近くにカキ小屋があると知った我々は調子に乗ってこのあと生ガキと焼きガキをいただきました。

その後伊達政宗像をきっちり拝み、次に向かった陸奥国一宮・鹽竈(しおがま)神社もまたとてもよかった。
ちょうど紅葉がきれいだったこともあるけれど、紅葉を抜きにしてもやさしい空気で満ちていてすごく落ち着いた。そこだけ寒さがまろやかになるような。
もしもひとりだったら、そして寒波がやってきていなければ、2時間ぐらい平気でうろうろしていたと思う。

全国に少しずつ足を運んでいくうち、一宮めぐりも楽しみのひとつにくわわった。寺社仏閣、とくに神社の空気はわたしを癒してくれる。だがしかし神社といっても全国にたくさんある。だからひとまず一宮を目指すようになった。
一宮はほかの神社にくらべて緑豊かなところが多い。自然のエネルギーが毛穴からしみこんでくる感じがする。そういう意味でマイベスト一宮は千葉県の安房神社だが、鹽竈神社は安房神社に匹敵する。わたし個人の感想なので、みんなもそう感じるとは限らないけれど。

鹽竈神社

この鹽竈神社は「松島や ああ松島や 松島や」でおなじみ日本三景の松島にほど近い。しかし我々はその松島に目もくれず北へ向かい、岩手にちょっと寄りながら気仙沼を目指した。(岩手の話はまた今度。)
翌日の動きを想定し、その日は気仙沼あたりに泊まるのがよいだろうと判断したからだ。とくに観光目的でもなにもなかった。

ホテル周辺は、もっとも近いコンビニでも徒歩10分だとフロントのおじさんにいわれた。実際に外に出てみると、街頭も飲食店も多くない。ふだんなら少し入店をためらうような、小ぢんまりした居酒屋が間隔を広々と空けて点々としている。
旅行でこの街を訪れる人は少ないだろうと考察を楽しもうとしてみるものの、いっそう冷える夜道である。早くどこかに入って寒さをしのぎ空腹を満たしたい。

夫と「もしだめだったら、ホテルでカップ麺でもすすろう」と共通認識をもったうえで入店した居酒屋で、ぶったまげた。

まずはビールを注文。ビールが運ばれてくるまでのあいだに食べものをどうしようか悩んでいると「今日のお通しはカツオのお刺身ですー」とママ。
メニューにもカツオのお刺身があるから、親切にお知らせしてくれてありがとう程度にしか思っていなかった。
だがしかし、テーブルに運ばれてきたお通しがとんでもなかった。

カツオのお刺身(お通し2人前)

2人前のお通しでこの量とは、これもまた人生初体験である。
ママ!こんなのうちの近所のスーパーで買ったら大変な金額になるって!利益出てるの!?

…とはいえ実はわたし、お刺身がさほど得意ではない。
マグロやカツオは血の味がするし、ぶりやはまちは脂の味が苦手だ。
正直、このお通しだけでもういろいろと苦しくなりそうな予感がした。
が、杞憂だった。
なにこの雑味のないカツオは!まったくクセがない!魚だけど生肉!いや生肉よりクセがない!信じがたい!これ本当にカツオかね!?と箸を進めるうち、このわたしでも薬味なしでペロッと平らげてしまった。

ママと少しずつ会話するなかで、自然と震災の話題になった。
幸いにもわたしは被災するほどの地震をこれまでの人生で経験していない。だけど日本人として3.11のことはちゃんと知っておきたい。
10mもの津波はまるで「壁」だったと。何もかもを押し流し、さらに引いていくときもすべてを吸い込んでいく。
ママのお店は食器やグラスは割れたものの、建物は奇跡的に無事だったそうだ。それでも電気ガス水道はストップするし、余震も続くし、本当に怖かったと。
当時のことをまざまざと思い浮かべて表情が曇っていくママをみて、これ以上は…と掘り下げるのをやめた。

ホテルでもうすこしだけ呑みながら明日の計画を練ろうと、お酒を買うために結局寄ったコンビニ。でもカップ麺は買わなかった。
おなかも胸もいっぱいになった宮城県である。



今日も読んでくれてありがとうございます。
あなたが最近胸いっぱいになったできごとはなんですか?

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