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アンドラーシュ・シフ ピアノリサイタル:神様は実在していた
憧れのサー・アンドラーシュ・シフのピアノリサイタルに行ってきました。
場所は「彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール」。
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シフはバロック・古典派をレパートリーに多く持ち、常に知的なユーモアを忘れないハンガリー生まれのピアニスト。英国からはナイト爵位を授与されています。
演奏だけでなく、インタビューのやりとりやマスタークラスの講師姿も素晴らしいため、私にとってはYoutubeで長時間を捧げてしまう音楽家のひとり。シューベルトの即興曲を教えてくれる動画、300回は観ました。
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舞台の扉が開くと数メートルの距離に巨匠が現れて、ああ、本当に実在する人だったんだな、同じ時代に生きているんだな、としみじみ。
タッチもペダルも見逃さない席を確保したので、時々メモを取る以外は1秒たりとも目を離しません、もったいなくて。
プログラムは予め決まっておらず、当日シフ本人が発表しながら演奏していくスタイル。通訳なしの日本語で、「これから、〇〇弾きます」と都度説明してくれます。
使用ピアノはベーゼンドルファー、演奏曲は以下の通り。
J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲 BWV988 から「アリア」
ハイドン : ピアノ・ソナタ 変ホ長調 Hob.XVI:52
モーツァルト:ピアノ・ソナタ第15(18)番 ヘ長調 K.533
ベートーヴェン :ピアノ・ソナタ第17番 ニ短調 op.31-2「テンペスト」
休憩
シューベルト: ピアノ・ソナタ第18番 ト長調 D 894 「幻想」
1曲目は演奏前の解説がありません。しかし、シフが鍵盤に手を置いた瞬間「あ、 ゴルトベルク が来る!」と伝わってきてびっくり。
私が最も聴き込んだシフの演奏がゴルトベルク変奏曲だから、単純な連想が働いたのかもしれません。もしくは、手を置いた位置と記憶の中の楽譜が呼応しただけかもしれません。
それでも、最初の一音の前にある「静寂」も含めたシフの演奏を、きちんとキャッチできたのだと信じたい。
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期待以上の2時間半は続きます。
力みのない背中から指先に向かってエネルギーが流れていく様を眺めるのは、砂時計の砂がしっとりと落ちていくのを見るのような心地良さ。
安定した体幹が奏でる、大地のような低音。
突然、遠い記憶の中に放り込まれるような鮮烈なピアニッシモ。
植物が成長するタイムラプス動画を見ているような有機的なクレッシェンド。
和声のバランスの制御にいたっては、脳みそが4個は必要な離れ業だと思います。どう考えて行動したら、己の体をあんな風に研ぎ澄ますことができるのだろう。
そんな疑問に対する解があることに期待を寄せて、ロビーで販売していた本を買ってみました。哲学書のような佇まい。
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さらにアンコールは以下の通り。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/166035301/picture_pc_824ec73dc1adb2b05d36047c58e515bc.jpg?width=1200)
数か月前に骨折した足で、舞台袖とステージ中央を何度も行き来する巨匠の姿に心配を覚えつつ、もっと聴いていたくてアンコールの拍手を止められない。
バッハ・イタリア協奏曲の清廉さと、ヘ長調の持つ温かみでそろそろ締めかな、と思った後のショパンは嬉しい驚きでした。最後は解像度高く柔らかな紡ぎ歌でフィナーレ。
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数日前のニュースによると、シフが1999年に創設し自ら指揮する室内オーケストラ「カペラ・アンドレア・バルカ」は2026年に活動を終了するそうです。これに伴い、アジアツアーは2025年3月が最後とのこと。
アジアツアーの東京近郊の公演はもう空席がないかな?と思ったらまだありました。思わずポチッ。。
あと3か月、購入した本を熟読しながら巨匠との再会を待ちます。