キムテヒョンという芸術性と感性が限界突破してるアイドルの話
noteで一番最初にキムテヒョンさんとの出会いから沼落ちまでの一連の流れの記事を投稿したのですが、あの内容だけだと「彼の顔が好きなだけのファン」だと思われかねないので(実際顔は超好きです優勝です)、今回はキムテヒョンさんの恐ろしいまでの芸術性の高さと感性の豊かさに完膚なきまでに叩きのめされた話をしようと思います。
【キムテヒョンとSigur Ros】
以前BTSメンバーがNAVER MUSICの特集で「夏に聴きたい曲」というテーマで好きな曲を選んでいる記事を見かけた。
私はアーティストが推してるアートや影響を受けた音楽などの情報を知ることが好きなので、この手の企画は毎日でも更新してほしいくらいに大好物だ。
そこでこの記事において、大半のメンバーが解放感のあるキラキラしたポップチューンや夏らしいバラード曲を挙げる中、キムテヒョンはSigur Rosの「All Alright」と答えていたのである。
私はこの選曲を見た時、この子は相当感性が豊かなのだろうなと思った。
Sigur Rosはアイスランド出身のアート系ポストロックバンドだ。
幻想的で美しい重層音が特徴的で、ボーカルのJonsiの歌声は聴いていると今にも天に召されてしまいそうな神々しさがある。
MVもファンタジー感のある独特な雰囲気です。
特に人気の高いMVはこの「Hoppipolla」。
おじいちゃんおばあちゃん同士の「戦いごっこ」をテーマにした傑作MV。
木で作った剣やお鍋の蓋の盾で戦ったり、ピンポンダッシュといったイタズラをしたり、みんなで水たまりに入って飛び跳ねたりする。
見た目は老人、心は子供というその設定は妖精が現実に存在していると信じられており、妖精に関する法律まで存在するアイスランドらしい幻想的な世界観だ(北欧ならではの暖かそうなお洋服も可愛い)。
このようにアイスランド出身ということもあって、どちらかと言うまでもなくSigur Rosというバンドは冬のイメージなのである。
それをこのキムテヒョンはAll Alrightについて「夏の夜明けに散歩しながら聴きたい」とか言うもんだから音楽オタクはもう戦慄です。
何その情景が浮かぶ美しい回答。
私は昔からSigur Rosが大好きだが、夏ソングのプレイリストを作れと言われたらSigur Rosは選ばないと思う。
まずそういう発想に至らない。
もしかしたら彼はSigur Rosがアイスランド出身のバンドだということを知らないのかもしれない。
しかし私はこの記事をきっかけに彼の固定概念に囚われないその柔軟な感覚や、芸術に対するある種の審美眼のようなものを感じてインタビュー記事を漁るようになった。
【キムテヒョンとArctic Monkeys】
去年のWeverse Magazineのインタビューにおいて「ARMYに伝えたい曲はありますか?ご自身の気持ちを分かち合えるような曲は?」と言う質問で、彼はArctic Monkeysの「No.1 Party Anthem」と答えていた。
Arctic Monkeysはイギリス出身のロックバンドだ。
UKロックならではのシニカルな歌詞と尖ったサウンド、そしてボーカルのAlex Turnerの卓越したセンスとカリスマ性により彼らの楽曲はデビュー前から話題となった。
1stアルバムは初週で30万枚以上も売り上げ、英国内でデビューアルバムの最速最多売り上げを記録した。
弾丸リフでギター少年達に影響を与えた「Brianstorm」をリードトラックに引っ提げた2ndアルバムは国内外で評価され、彼らは世界的バンドの仲間入りを果たした。
そしてキムテヒョンが選んだ「No.1 Party Anthem」は2013年に発売された5作目のアルバム「AM」に収録された名バラードだ。
私はさっそくインタビュー記事の続きを読んでみた。
V「僕はこの曲を聴く時…、何だか胸にこみ上げるものがあります。僕は普段はロックバンドの音楽をたくさん聴く方ではないんですけど、この曲はいつの頃からか、バンドの演奏が与えてくれる感情が胸にすごくぐっと来たんです。歌を聴きながら、本当にすごく鳥肌も立ったり、何だかじーんときたりもして、本当にいろいろな感情を抱きます。それだけでなく、この曲を聴いた瞬間に、本当にかっこよく生きたいなという思いまで込み上げてくるほどです」
彼は自身が芸術に触れて感動した時に「鳥肌が立った」とよく口にする。
最新の研究によると、実は音楽を聴いて鳥肌が立つ経験が出来る人は人口の一部の人だけで、その割合は全体の3分の2から半数であるという(別の研究では237人の内、悪寒を感じる人が10人と4.19%の結果になっている)。
音楽を聴いて鳥肌が立つ人は立たない人に比べると、脳の中で音を処理する部分と感情を司る部分のコネクションがより強く、更に脳の神経線維が密集していて審美的な反応を示しやすい傾向にある。
つまり、音楽を聴いて鳥肌が立つ人は感受性が豊かで個性的な脳を持っているということらしい。
(ちなみに私も美しい音楽や映像に触れるとめちゃくちゃ鳥肌が立つタイプの人間なのですが、彼のソロ曲「Stigma」のラストの高音ボイスを聴いた時はマジで感動で鳥肌が止まらなかったです)
そして、更にインタビューを読み続けていたその時である。
V「実は、この曲がどんな曲なのかはよくわかりません。この曲の歌詞もよく知りませんが、メロディやバンドの演奏だけでも、僕に与えてくれる感情は本当に確実なものだと思います。」
歌詞知らないの!?
直感で音楽を聴いているタイプの人でした。
やはりSigur Rosも彼らがどこ出身とか全く知らずサウンドやアレンジの雰囲気だけで「夏に聴きたい」と言っていたのかもしれない。
しかしこの発言、私はどこかで見た覚えがあった。
それは宇多田ヒカルが20年以上前のインタビューで発したある言葉だった。
「私が1番感動した音楽はモーツァルトの「レクイエム」とかクラシック系なのね。何語で歌ってるのかわからないんだ。でもなんかわかるのね、意味が。勝手に考えているんだと思うんだけど。
これは1999年、雑誌「Olive」で当時15歳の彼女が発した言葉だ。
「死者へのミサ曲」であるモーツァルトの鎮魂歌を彼女は「何語かわからないけど感動した」と語っていた。
平凡な音楽オタクの私は、曲を初めて聴いたらその後にまず曲のクレジットや歌詞を調べるという作業を行い、様々な情報を得た上でもう一度試聴し、自分なりに分析をしたのちに人に勧めたり伝える、という一連の流れを取る。
しかしアーティストの彼らは「初めて曲を聴いたその時の直感的な感想が完成形」であり、その気持ちがその後も継続していくのだろう。
これは曲を生み出す者にとって必要不可欠な感覚と感情のように思える。
私はこの後もキムテヒョンのインタビュー記事、WeverseやInstagramでの発言や投稿から彼の様々な「お気に入りの曲」を見てきた。
彼はとても幅広いジャンルの音楽を聴いている。
そんな多忙の中いつこれほどまでの多ジャンル極まりない音楽を聴いてる暇があるんだというレベルで、数多くの楽曲をインターネットを通してファンに伝え続けている。
以前SpotifyのV's Favorite TracksというプレイリストでGo Go Penguinの曲を選んでいるのを見た時は頭を抱えた。
こんなハイパー音楽オタクしか知らないようなUKピアノトリオをなんで現役のアイドルが知ってるんだよ…(しかも選んでいたのは知る人ぞ知るリミックスアルバムの中の一曲)。
私は恥ずかしながら彼の圧倒的ビジュアルに打ちのめされて長い年月をかけて沼落ちしたファンだ。
しかし気付けばそれ以上に、彼の芸術性の高さや他人に媚びない探究心のようなものに魅了されるようになっていた。
更にはキムテヒョンは音楽だけではなくアートにも造詣が深いということで、私はその後彼のアートに関してのインタビューを調べた。
【キムテヒョンとゴッホとバスキア】
キムテヒョンはゴッホ、バスキア作品が好きだとメディアで公言している。
まず、サブカルオタクが必ず通る道、
「フィンセント・ファン・ゴッホ」。
「狂気の天才」「炎の画家」とも呼ばれるゴッホは西洋美術史において最も有名で影響力のある芸術家の1人だ。
実は彼の作品は当時の美術関係者や評論家の評価は著しく低く、生涯で描き上げた作品は2000枚以上にも上ったが、生前に売れた絵は1枚だけだった。
黄色と青色を使った作品が多く見られるのは、貧乏ゆえに使える色の数が限られていたからという説がある。
その画風は絵の具を塗っているというよりは乗せているという表現が正しいくらい厚塗りだ。
彼の死後、彼の弟テオドールとその妻のプロモーション活動により作品の数々が認められ、ゴッホは世界的に有名な画家となったのである。
とにかくもうゴッホは精神的に不安定な画家ランキングぶっちぎり一位というイメージが強い。
画家になる前は画商や伝道師など様々な職につくも、その気性の荒さからトラブルを起こす、すぐ解雇されるを繰り返した。
画家となってからも、当時共同生活をしていた後期印象派の代表的な画家ゴーギャンに同居を解消しようと言われた時に「嫌だ!離れたくない!離れるくらいなら死ぬ!」と言って自らの耳をナイフで切り落とすという異常行動を起こしたり(諸説あり)、絵の具を飲み込もうとするなど、とにかくメンタルをやられながらも死ぬもの狂いで描きまくった画家である。
誰しも一度は見たことがあるであろう、そしてキムテヒョンが「一目惚れした」と語る代表作「星月夜」はゴッホが精神病棟に入院中に窓から見えた風景にインスピレーションを受けて描いた作品だ。
この頃ゴッホは幻覚症状に苦しめられていた。
病棟の窓からは本来見えるはずがない村が描かれていたり、空は禍々しく渦を巻いている。
下から上まで描かれている"糸杉"は天と地を接続する「死の架け橋」として表現したのではないかとも言われている。
最終的にゴッホは拳銃の銃弾によってその一生を終えた。
これが自殺なのか他殺なのか、真実は未だに解明されていないという。
私もゴッホの作品は好きだが、闇深く破滅的なゴッホが好きだと公言するアイドルは今まで見た記憶がない。
おそらくゴッホより普通にラッセンが好きなアイドルの方がなんとなく多いと思う(永野の画像は貼りません)。
さらにキムテヒョンが展示会まで見に行ったという「ジャン=ミシェル・バスキア」。
アート界においてアメリカ史上初の成功した黒人アーティストと言われるバスキアは、ヒップホップ黎明期にNYブルックリンでウォールアートの火付け役になった異端児だ。
ミュージシャン、映画監督としても有名なヴィンセント・ギャロと共にバンドを組んだり、ポップアート界の旗手アンディ・ウォーホルと共同制作を行なっていた経緯もあり、今でも若者達から絶大な支持を得ている。
しかし彼の生涯は波瀾万丈なものであった。
暴力的な父と精神的な病を抱える母、そして両親の離婚後に17歳という若さでホームレスとなった彼は地下鉄やスラム街地区の壁などにスプレーペインティングを始める。
彼の作品には政治的なメッセージの他、貧困をテーマにしたものや、黒人差別に対する怒りや悲しみが現れたものが多く見られる。
のちに信頼していたウォーホルの死をきっかけに薬物に手を出した彼は薬物依存症に陥り、オーバードーズによって27歳という若さでこの世を去ったのだ。
その短い生涯で書き残したドローイングは3000点以上、絵画は1000点以上にも上った。
キムテヒョンはゴッホやバスキアの壮絶な人生
を知っているのだろうか。
芸術というものは、皮肉にもアーティストの負の感情が最高値まで高まった時により美しく、人の心を打つものを生み出せてしまうように思う。
彼はそういったアーティスト達が負のエネルギーから命を削って作り出した渾身の作品を自然と"綺麗だ"と感じているのではないだろうか。
例え過去やバッグボーン等を知らなくても、彼らの強い思いや心の叫びを感じ取れる能力というものがキムテヒョンは他の人よりも長けているように私は感じる。
【キムテヒョンの作る音楽】
まさに今回紹介したラインナップを敬愛しレコード収集と美術館巡りが趣味という、無駄に芸術に関する趣味嗜好だけキムテヒョンと完全一致の友人がいる。
彼は「分裂してVさんに転生した俺の半身勝ち組過ぎる…」とか訳の分からないことを言っていたが、それと同時にこうも語っていた。
「韓国のアイドルは皆明るく元気で芸術に関する趣味においても品行方正というイメージがあって、あまり自分が共感できるキャラがいないと思っていた。だからサブカルに精通しているVさんは貴重な存在だ」
確かに従来のアイドルは「夢を売る」ことが仕事であり、アイドルというと「理想を演じる役者」というイメージを持つ人も多いだろう。
しかしキムテヒョンは「等身大の自分」であり続けている。楽しい時は笑い、悲しい時は泣く。
彼はいい意味で自分の感情に嘘をついていないように思える。
例えば彼が作詞作曲に参加した「Blue & Grey」。
かつてここまで自らの心の裡を明かし絶望にも近い思いを歌詞に込めて吐露した現役アイドルはいただろうか。
この曲が作られた時に彼は、私のようなしがない一般人なんかには到底想像が出来ないくらいに辛い状況にいたことは間違いない。
しかしこの曲は、ゴッホやバスキアが描いた作品のように光り輝いている。
静かに寄り添うように紡がれたその言葉の数々に励まされ救われた人は世界中に数多くいるだろう。
そしてこの曲は最近のライブのセットリストにも組み込まれ歌われている。
アルバム内だけの思いを吐き出した一過性の曲ではなく、悲しい思い出であるだろうこの「Blue & Grey」は彼にとって忘れてはいけない感情なのかもしれない。
そして、つい最近公開されたWeverse Magazineによる、キムテヒョンの楽曲制作に対する姿勢に関する記事も非常に興味深いものだった。
V「恋しさが好きです。恋しさは僕一人でいる時の考えを綺麗にしてくれます。この恋しさは公演に対する恋しさかもしれませんし、メンバーへの恋しさや、大切に思う気持ちかもしれませんが、そういう綺麗な思いが一つ一つ集まって曲になります」
ソングライターは曲作りに対して「何が創作意欲や原動力となるか」が人によって異なる。
「圧倒的な『悲しみ』や『絶望』が無いと曲が作れない」と発言した音楽家もいれば、「自分にとって曲作りは排泄行為」と答えたシンガーソングライターもいる。
キムテヒョンはこのインタビューで「恋しさという綺麗な思いが集まって曲になる」と答えている。
メディアの前に立つアーティストというものは、世界的に成功を収めて有名になればなるほど「世界平和」や「環境問題」などといった大きなテーマの歌詞の曲を作る傾向があるように感じる。
影響力を持った者が大衆を意識した楽曲作りになるのは当然のことだろう。
しかしキムテヒョンが作詞した楽曲は「僕」と「あなた」の二人くらいしか登場人物がいないのだ。
彼ほどのワールドスターともなれば世界規模の大きなテーマを持った楽曲を歌ってもなんの違和感もないのだが、誰にでも起こりえる日常を切り取ったような歌詞の楽曲がほとんどなのである。
この「あなた」は彼にとって「特定のある1人の人物」や「自分自身」のことなのかもしれないし、もしかしたら彼のファンである「ARMY」全体のことを指しているのかもしれない。
しかし歌詞の中においては壮大なスケールの話ではなく「僕」と「あなた」の距離感は非常に近く、四季を感じるどこか温かみのある世界の曲が多い。
これは彼が表現したい「人との繋がりという名の恋しさ」なのではないだろうか。
この誰もが親しみやすさを感じ共感することが出来て、手を差し伸べられるかのように安心感のある世界こそが彼の作り出す音楽の魅力なのだろう。
【最後に】
私は芸能人に対して自分の理想やイメージを押し付けるように、勝手な分析で「彼はこういう性格だ」と決めつけるようなことはしたくないが、きっとキムテヒョンは繊細な心の持ち主なのだと思う。
しかしだからこそ他人の心の機微というものに直ぐに気付くことが出来るし、優しさだけではなく「恋しさ」を持って他者と交流ができる。
これこそが彼の最大の魅力であり、だからこそ彼は交友関係が広く、木々に次々に留まる鳥達のように周りに人が集まり、性別問わず世界中の誰からも愛されるのだろう。
堅苦しく終わるのもあれなので、最後は推しに愛でも叫んでおきます。
テヒョンさん、これからも自分らしく笑顔が素敵なあなたでいてね〜。
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