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リサーチ6.SaaS Plus a Box ×コミュニティ〜運動習慣をDXするPeloton

人生100年時代が謳われるほど長寿化が進む現代で、課題とされていることが健康寿命。
日本においても少子高齢化の一途を辿り、国民医療費が45兆円を越え、増加傾向にあり、健康寿命の向上の重要度が増しています。

対して、運動習慣の高い北欧では健康寿命が比例しているとされており、シンガポールでも政府の推進で「Healthy 365」という運動した分だけポイントが貯まり換金ができるアプリが展開されたり、運動習慣を高める動きが見られます。

このような社会トレンドから民間企業においても、予防医学の文脈でライフスタイルの改善を通じて生活習慣病を防ぎ、健康的な生活を実現するためのヘルスケアテックが成長しています。

ヘルスケアテック領域は、GAFAやBATHも注力されており、Apple Watch、Googleが買収した「Fitbit」、Amazonのフィットネスバンド「Amazon Halo」など、呼吸の状態や心拍数といったバイタルデータを取得することができるウェアラブルデバイスを筆頭に、さまざまなサービスが勃興しています。

今回は、Saas Plus a Boxのビジネスモデルとコミュニティ形成のマーケティング戦略で運動習慣を推進するPelotonという海外スタートアップを参考に日常のDXの可能性を考えます!

▶︎Saas Plus a Box

SaaS Plus a Boxとは、ハードウェアとソフトウェアのセットを提供するビジネスモデルです。

SaaS Plus a Boxでは、顧客にハードウェア製品とソフトウェアの利用権をセットで提供します。
ハードウェアの販売により初期の収益を得る一方、ソフトウェアのサブスクリプションにより継続的な収益を確保することができます。

身近な例では、Appleはハードウェアである「iPhone」を販売し、その後「iCloud」や「Apple Music」のようなサービスを提供していますが、このようなビジネスモデルに該当します。

SaaS Plus a Boxのメリットとデメリットは下記のように整理できます。

<メリット>
①端末代金+サブスクで初期段階から収益が安定している
②スイッチングコストが高くなり、解約されにくい
③付加価値提供のためのプロダクト開発の幅が広く、顧客満足度を追求しやすい

<デメリット>
①ハードウェア生産のために初期コストが高い
②ハードウェアのメンテナンスが必要になり、
カスタマーサポートの負担が大きくなる
③継続的なアップデートが必要になる


このように、SaaS Plus a Boxはカスタマーエクスペリエンスの追求によってユーザーと長期的な関係性を築くビジネスモデルとして注目されています。

▶︎Peloton(ぺロトン)

運動習慣をDXするSaaS Plus a Boxを提供しているスタートアップがPelotonです。

Pelotonはアメリカ最大手書店チェーンのBarnes & Noble, Inc.でEC部門責任者を務めたJohn Foley氏が感じていた下記の運動習慣に関する課題から創業されています。

①仕事や家事が忙しくフィットネスジムに行く時間の捻出が難しい
②人気のインストラクターのレッスンはすぐに埋まりやすく高額

運動のきっかけをより手頃な価格で身近にとすべく、フィットネスバイクをSaaS Plus a Box化されています。
※John Foley氏は上場後にPelotonのCEOを退任し、家庭用ラグマットD2CブランドErnesta(アーネスタ)を再起業。

フィットネスバイク自体は他社が平均5万円程度とすると、Pelotonは約24万円と高価格帯となっていますが、SaaS Plus a Boxとして「売って終わり」ではないことに特徴があります。
月額料金のサービスとして、エクササイズ番組を24時間ストリーミング配信したり、7000以上のレッスンをオンデマンド配信しています。
2018年には音楽配信会社を買収しています。
これらのアップデートによりユーザーは「買って終わりではない」高付加価値の体験を得続けることができ飽きることなく取り組むことができます。


Pelotonは、John Foley氏の経験からカスタマーエクスペリエンスにかけるこだわりが強みとして表れており、上場目論見書では下記の10個の機能を持つ会社として自社を定義して垂直統合で付加価値を追求しているほどです。

①テクノロジー
②メディア
③ソフトウェア
④プロダクト
⑤エクスペリエンス
⑥フィットネス
⑦デザイン
⑧リテール
⑨アパレル
⑩ロジスティクス

たとえば、アパレルにこだわることで運動時の満足度を高める選択肢を増やしたり、ロジスティクスをこだわることで、自社の配達員が顧客に対してフィットネスバイクのセットアップ、ハード・ソフトの使い方まできめ細かく説明すると付加価値を生み出しています。

また、Pelotonという言葉には、マラソンや自転車競技などの走者の一団、集団、グループ、仲間といった意味がありますが、Pelotonはコミュニティ形成のマーケティング戦略も強みの一つです。
John Foley氏の「宗教を代替するようなコミュニティの創造がミッション」とのこだわりによって Appleのように熱狂的なファンを拡大しています。
専属のインストラクターがインフルエンサーとなることで、ユーザーの間では、「ペロトンする」との動詞が使われているほど日常化しており、コトラーの「本物のブランドになるには文化ブランドになることが不可欠だ」を実現しているとも言える展開です。

サブスク型のオンラインレッスンを市場に浸透させていきながら、事業の成長に応じて、各地域にリアル店舗を配置したことで、オフラインの「ペロトン・コミュニティ」も生まれつつあります。

SaaS Plus a Boxの展開によって、従来の施設型フィットネスの収容人数の物理的な限界によって収益の最大限の限界、アクセスの不便さが起因した幽霊会員の発生が改善され、ユーザーが続ければ続けるほど収益につながり、カスタマーエクスペリエンス追求に投資ができ、NETFLIXのようにユーザーデータを利活用することで顧客満足度を高めるサービス改善が進み、さらにユーザーが継続できる付加価値を提供し続ける好循環を実現しています。

現在はNASDAQに上場していますが、それまでの過程では、Tiger Global Management、Fidelity Investments 、TCV、True Venturesなどから、数百億円と巨額の資金調達をするほど評価されていました。

このように、PelotonはSaaS Plus a Boxがオンラインとオフラインの両面でユーザーに触れることから日常に大きな影響を与えることを感じられる事例です。

▶︎まとめ

従来の生活用品がSaaS Plus a Boxによって進化し続ける世界観では、より人のニーズやウォンツに合わせた付加価値が追求されていくことが予測されます。
特にヘルスケアテックの領域では、さまざまなサービスが生まれています。

デジタル空間が急激に利便性を増していくトレンドに加えて、リアル空間のDXをも推進していくSaaS Plus a Boxの動向に要注目です!

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