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リサーチ4. 創薬×AI〜創薬の進化を加速させるExscientia〜
新薬の開発には、通常数百億円から1000億円以上のコストがかかり、9〜16年の長期間が必要とされています。
しかし、AIの活用により、この開発コストを大幅に削減できる可能性があります。
例えば、候補物質の探索から化合物の合成まで、通常1000回もの試行が必要だった作業が、AIの効率化によりわずか100回で済むようになるといったイノベーションが期待されています。
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そのため、製薬業界ではいかにして迅速に成功の確度の高い創薬プロセスを実現するのかに、学会の論文や自社の研究結果といった過去のビックデータをAIで処理する取り組みが注目を浴びています。
今回は、大手製薬企業と連携し、従来の創薬プロセスよりも迅速に、効果的な医薬品の開発を実現するExscientia という海外スタートアップを参考にMed Techの可能性を考えます!
▶︎多様な技術変革を遂げる医療現場
医療業界では下記のようにテクノロジーの活用によるイノベーションが進んでいます。
①ロボティクス
手術支援やリハビリテーションの分野でロボティクスを活用して、正確性と効率性を高める治療が実現されています。
②バーチャルリアリティ(VR)や拡張現実(AR)
VRを使用したストレス緩和や恐怖症治療、ARを使用した解剖学の学習支援などが行われています。
③SaaS
カルテや医療画像などの医療データをリアルタイムで共有し、アクセスできる環境を実現しています。
④バイオセンサー技術
心拍数や血圧、血糖値など患者の生体情報をリアルタイムで計測し、健康状態のモニタリングや予防医療に役立てることができます。
⑤ビッグデータ分析
医療データの膨大な量から、病気の予測や治療法の最適化などを行うために、ビッグデータ分析が導入され、より効果的な治療法や予防策の発見が可能となります。
以上のように、医療業界ではテクノロジーの活用によって、医療の質が向上しています。
特にインフラを担う大企業と、技術革新を有するスタートアップの連携が顕著な市場であり、イノベーションのジレンマを突破するMedTechが台頭してきています。
▶︎Exscientia
AIを用いて既存の医薬品データベースや疾患の情報を解析し、医薬品候補を特定することで創薬プロセスを自動化する技術を有するとして注目をされているスタートアップの一つがExscientiaです。
AI創薬プラットフォームであるCentaur ChemistTMにおいて、AIの機械学習を活用することで複雑なパターンや相互作用を分析し、有益なデータを蓄積して、より良い医薬品候補を選び出すことによって、新しい薬の創出を加速することができる技術を提供しています。
現在は低分子創薬に用いられています。
製薬業界では、遺伝子組換え、細胞融合、細胞培養などのバイオテクノロジーを利用したバイオ医薬品の開発が進みつつありますが、これまでは化合物の組み合わせよって開発される低分子医薬品が主流とされて一般的に普及されているため、Exscientiaの取り組みは製薬業界のスタンダードを変える技術を有しています。
がん治療、神経変性疾患、免疫学などのさまざまな疾患領域においても活用されています。
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たとえば、大日本住友製薬と提携して、強迫性障害(OCD)の治療薬を開発において、業界平均で4年半かかるとされる探索研究を12か月未満で完了させた事例があります。
その他にグローバル製薬大手のバイエル薬品やメルク、世界最大の非営利研究機関であるSRIインターナショナル、などとも提携されています。
データの量が重要な成功要因となる前提条件に対して、アセットを有する大企業との連携によって、自社だけでは実現できないスピードで事業を展開することができています。
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Exscientiaは2012年に、創薬研究の分野で30年以上の経験を持つバイオテクノロジーの専門家であるAndrew Hopkins氏と、AIとデータ解析の専門家であるShane Maloney氏によって、オックスフォードで設立されました。
2021年4月には、ビジョンファンドやブラックロック、ファラロン、デンマークのノボ・ホールディングス、アラブ首長国連邦の政府系ファンド、ムバダラ・インベストメントから5億2500万ドルの資金調達を果たし、競合にあたるAllcyteを6100万ドルで買収しており、業界のキープレイヤーとしての立ち位置を強固にしています。
現在は技術提供、ライセンス収入によってマネタイズを確立しており、NASDAQに上場しています。
▶︎まとめ
未知の病気に立ち向かうために、現代の医療は絶えず進化を目指しています。
新薬の開発は疾患の予防や治療において大きな影響を与える可能性があり、多くの人々の人生の幸福感を大きく変えることができます。
しかし、新薬開発には多額のコストが必要となり、さまざまな障壁が立ちはだかっています。
開発期間が数年にわたるということは発案者が初期段階の従事者と途中で離脱する可能性もあることから、属人化させないことも重要です。
AIの活用によって、従来の医療従事者が長い歴史の中で膨大な時間をかけて投じて得られた知見が効率的かつ効果的に活かされることで、その障壁を乗り越えることができます。
だからこそ、テクノロジーの活用は社会の可能性を広げることができるのです。
一方、基本的にAIは過去のデータを経験値として予測する仕組みであるため、新たな発見のためには人の力があり必要であり、これからの医療の質の向上のためには、テクノロジーの活用と共に、それを使いこなすことができる人の力の重要度が増していくことでしょう。
あらゆる人や生き物の幸福を支える医療の加速度的な進化を促進するMedTechの発展に要注目です!