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ケース35. プラトー現象〜自律的成長を促す内省支援〜

努力をしているはずなのに、いつの間にか成長実感が得られなくなっていたり、かつて活躍していた他者の成長が止まっていることに、モヤモヤを感じたことはないでしょうか?

経営の視点:
・任せている役割を十二分に遂行できるパフォーマンスを発揮してほしい
・期待に対する差分を補う成長には自分で責任を持ってほしい

現場の視点:
・役割を全うするために成長の実感が得られないと不安になる
・期待に応えるための成長の支援をしてほしい

成長企業ほど成長欲求の高い人が集まり、個々人が自らのキャリア開発や達成欲求のために自己成長に努めるものの、本人の意欲に関わらず、「最近、成長を感じられない…」との壁にぶつかることがあります。

今回は、プラトー現象を用いて、自律的な成長を促進する内省支援について考察します。

▶︎プラトー現象

学習を続けているにもかかわらず成長が止まってしまう状態

プラトー現象は誰にでも起こる現象だと言われており、組織開発と人材開発の分野で注意されている現象です。

以下の要因があげられます。

①フィードバックの欠如:努力が正しい方向に向かっているか分からない
②適応の停滞:同じやり方を繰り返し、成長に必要な負荷が不足している
③内発的動機の低下:目標の曖昧さや達成感の欠如している
④挑戦機会の不足:リスクを避けるマインドが芽生え、変化を求めなくなる
⑤ワーキングメモリーの制限:覚えたことが短期記憶で定着させられずに、新しいことを覚えられる脳の容量が不足している


上記の個々人のプラトー現象を打破できなければ、組織においても個々人の成長が停滞してしまい、結果的に組織全体の生産性が低下することになります。

それでは、プラトー現象を打破するためにはどのような打ち手が講じられるのでしょうか?

▶︎成長期待と成長実感のギャップを埋める目標管理

成果が目に見えなくても、積み重ねによって確実に成長していることがあります。
しかし、人はできるようになったことよりも、まだできていないことに目が向きやすいため、自己理想や周囲の期待と成長実感のギャップに苦しみ、「自分は停滞しているのでは、、」と不安を感じやすくなります。
こうして、プラトー現象に陥ります。

プラトー現象の難しさは、停滞の原因が必ずしも努力不足ではない点にあります。
たとえば、下記のような要因が絡み合っています。
・成長の指標が曖昧で、どこを目指せばいいのか分からない
・努力の方向性が適切かどうかを判断する材料が不足している
・周囲と比較してしまい、成長の実感を持ちにくい

こうした状況を打破するために、目標の細分化が重要です。
成長の停滞を感じる背景には、「自分なりに取り組んでいるが、それが正しいのか分からない」という不透明さがあります。
これを解消するために、以下のアプローチを取ると効果的です。

①期待値の定量化
目標が曖昧だと、どれくらい成長しているのか測ることができません。具体的な数値や行動目標を設定することで、進捗を可視化できます。
例:
・3ヶ月後に○○のスキルを習得し、△△の業務を自走できるようになる
・1ヶ月以内に□□の指標を○%向上させる

②役割ごとの成長モデルを設計
「このポジションでは何が求められるのか?」を明確にし、今の自分とのギャップを整理することで、成長のロードマップを描くことができます。
・グレード1: 基本的な業務遂行能力(例:マニュアルに沿った対応ができる)
・グレード2:問題発見・解決能力(例:業務フローの改善提案ができる)
・グレード3:戦略策定能力(例:事業目標に基づいた計画立案ができる)

③プロセスの明確化と共有
「どのような取り組みが成長につながるのか?」をチームで共有することで、方向性のズレを防ぐとともに、フィードバックの機会を増やします。
・週1回の1on1で進捗と課題を確認する
・成果ではなくプロセスを重視し、小さな成功を言語化する
・メンター制度を導入し、適切なアドバイスを受けられる環境を整える

どのような目標を掲げるかによって、日々の思考や行動は変わります。
しかし、成長の道のりは直線的ではなく、試行錯誤を伴うものです。
やり方が間違っていることに気づかないまま進んでしまうと、後で後悔することにもなりかねません。
そのため、目標設定の段階で期待値を明確にし、定期的なフィードバックを行うことが大切です。

たった一度の目標設定が、人生を大きく変えるきっかけになることもあります。
プラトー現象に陥ったときこそ、「自分は成長していないのでは?」と焦るのではなく、「成長を測る視点を変えてみよう」と捉え直すサポートが重要です。

スタンフォード大学心理学教授キャロル·S·ドゥエック教授は、グロースマインドセットという人間の基本的資質は努力次第で伸ばすことができる信念と、フィックストマインドセットという努力しても伸ばすことができないという心の在り方を提唱していますが、壁にぶつかったとき、努力次第でどうにかなると思うか、自分にはできないと思うかで、自身の成長スピードは大きく変わります。

▶︎外部の刺激でリフレクションのきっかけをつくる

現状に満足しすぎてコンフォートゾーンに留まり続けたり、過去の成功体験に囚われて「もう十分できる」と思い込んでしまうと、成長が停滞するリスクがあります。
最初は順調に進んでいるように感じても、やがて日々の変化が乏しくなり、マンネリ化が生じ、気づかぬうちにプラトー現象に陥ることがあります。
プラトー現象の厄介さは、自分が停滞していることにすら気づきにくい点にあります。

成長の停滞は、一定のスキルや地位を得たことで「これで十分」と無意識に思い、挑戦を避けてしまうことによって引き起こされます。

このような状況に陥ったときは、自己を客観的に振り返るリフレクションが重要になります。
リフレクションは、古代ギリシャの哲学者プラトンやソクラテスの時代から続く「気づきを得る手法」として重宝されてきました。
しかし、リフレクションには「人は自分の見たいものしか見ない」という限界があります。
つまり、自分の認知フィルターを通してしか物事を見られないため、思い込みや先入観から抜け出せず、同じ視点のまま堂々巡りになってしまうのです。

リフレクションを効果的に促進するためには、外部から新しい刺激を意図的に取り入れることが有効です。
同じ環境・同じ人間関係・同じ思考回路のままでは、マンネリ化から脱することはできません。
そのため、社外メンターをつくることや社外の学習機会、イベント参加など、自分の境界線の外に出る機会を増やし、その気付きを問いかけるサポートがプラトー現象の打破につながります。
驚きや違和感を覚える場面では、自分の常識が通用しないことに気づき、思考を根本から見直す必要に迫られます。

プラトー現象に陥ると、成長の停滞を「自分の限界」だと誤解してしまいがちですが、自ら機会を設け、環境を変えて新しい視点を取り入れることで、再び成長を加速させることができるのです。

▶︎人の才覚を活かす評価の仕組み

自律的な成長を促進するためには、「いま自分はどの段階にいるのか?」を認識し、適切なフィードバックや挑戦の機会を意図的に設計することが重要です。

プラトー現象は、一時的な停滞に過ぎません。
むしろ、これまでを総括し、次のステージに進むための準備期間とも捉えられます。


『GRITやり抜く力』では、下記の一説あります。

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どんな分野であれ、大きな成功を収めた人たちには断固たる強い決意があり、それがふたつの形となって表れていた。
第一に、このような模範となる人たちは、並外れて粘り強く、努力家だった。
第二に、自分がなにを求めているのかをよく理解していた。決意だけでなく、方向性も定まっていた。
ーーー

組織は人の集合体である以上、個人の成長が組織の成長に影響を及ぼすため、自律的な成長を支援するための組織開発・人材開発の取り組みが重要と言えるでしょう。

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