ケース6.組織市民行動〜善意が報われる役割責任の設計〜
▶︎役割を超えた貢献が生まれる組織には何が必要か?
誰かのために、何かのためとの善意の行動が報われていないと、徒労感を感じるのではないでしょうか?
経営の視点:
・事業目的のために自発的に行動してほしい
・公平性のために評価できる行動や成果には線引きがある
現場の視点:
・周囲から良く思われたい、良い仕事をしたと思いたい
・ただの奉仕活動になってしまうと虚しい
チェスター・バーナード氏が掲げるように、組織として成り立っているということは、多かれ少なかれ集まっているメンバーに協働意欲が存在します。
実際、誰かの役に立ちたい、感謝されたい、といった純粋な気持ちから、良かれと思って自らの役割の範囲を超えた貢献を生まれることはあるのではないでしょうか?
しかしながら、その貢献が報われていないと感じると負の感情が生じてしまいます。
そこで、役割を超えた組織貢献の最適化を、組織市民行動(OCB)という概念に用いて考察します。
▶︎組織市民行動
組織市民行動は、下記の3つが特徴とされており、制度や指示がなくとも自らの役割を超えた貢献活動を指します。
例えば、自らのナレッジを体系立てて周囲にシェアしたり、セールス部門のメンバーが経理確認がしやすいようにオペレーションを整えたり、広報やマーケの発信を手伝ったり、現場メンバーが採用活動に携わったりすることが、組織市民行動に行動に該当します。
組織市民行動は下記の5つの要素から構成されており、善意に基づく行動と言えます。
昨今では、欧米式のジョブ型が日本でも注目をされていますが、組織の成長においては想定外の事態が起こり続けるため、常に規定された役割外の余白が生じていきます。
その役割を指示命令系統に沿ってアサインしていくのでは、対応が追いつかないことから、組織成長が早いほど、組織市民行動が重要となります。
しかし、自発的な行動は、裏を返すと独断の行動でもあることから、今必要ではない活動に時間を使ってしまいメインミッションが疎かになってしまうリスクがあります。
このように、善意によって行われる組織市民行動は組織と個人のwin-winとならず、lose-loseになってしまうことがあるのです。
それでは、負を抑えて報われる組織市民行動を推奨するためには、どのような工夫が必要なのでしょうか?
▶︎成果にフォーカスすることでリーダーシップを引き立てる
Netflixのculture deckには、「オフィスでゴミを見つけたら、そこが自分の家であるかのように社員が拾って捨てる会社」を目指しているとの記載があり、目の前の問題に当事者意識を持てる文化づくりをしています。
そのために、行動を制限する制度や方針を掲げすぎないように、自由と責任をキーワードとしています。
また、セムコにおいても、規則や成功事例がありすぎると人はミスを恐れてチャレンジをしなくなる、むしろ情報をオープンにすることで、経営に対するメンバーの参画意識は上がるとして、余白と刺激をキーワードとしています。
Netflixもセムコも共通して、自主性を発揮させる環境を用意しつつも、同時に重視しているのか成果主義の文化です。
プロセスを問わず、成果を評価することで、今何をすべきなのか考えが研ぎ澄まされていくことで、事業目的に向かった行動が促進されます。
成果を追求していくと、自責でwin-winの成果を出そうと、リーダーシップが醸成されていきます。
保守的な文化では、新しい取り組みが否定されがちでリーダーシップが抑制されてしまいますが、役割外の行動によって生み出された成果を測定して評価することによって、リーダーシップが発揮されやすくなり、報われる組織市民行動が生まれやすくなると言えるでしょう。
▶︎役割の定義を明確にして、役割外は加点評価する
ドラッカーは、仕事が”適切に”設計されているのか常に確認することが重要と説いています。
目的と戦略から課題を捉えて組織構造を設計した上で、人と状況に合わせてアサインをしていくべきと。
自発的に行われる組織市民行動は、それを繰り返すうちに、「当たり前にやるべきもの」と認知されてしまうことがあります
仕事の範囲が徐々に拡大することを「ジョブクリープ」と呼び、最近ではコロナ禍の変化に対応しようと善意によって行われてた役割外の貢献が当たり前になり、善意のある人の仕事が増えてしまったとの現象が起きています。
ジョブクリープ現象は、特にハイパフォーマーに発生しやすいとの研究結果が示されています。
仕事ができるほど、職場の問題に気付き自発的に問題解決に取り組むことができるものですが、常に周囲から期待され、役割外の活動が当たり前の行動と見なされていくことがあります。
そして、次第に周囲が気付かずうちに、ハイパフォーマーに物理的および精神的負荷が集中して、パフォーマンスの低減や、最悪のケースでは退職リスクに繋がることがあります。
研究の中では、「ハイパーフォーマンスは栄光であり、呪いでもある」と表現されており、善意の行動が報われるように組織としての配慮が重要なのです。
組織市民行動は、+αとして自発的に行われるものであり、当たり前の役割として義務化されると動機付けが低下しまいます。
そのため、役割と役割外の貢献との線引きを明確にして、貢献は+αとして労うことが重要と言えるでしょう。
また、役割外の活動が、ドラッカーが説くように目的と戦略に関連した課題解決に繋がって組織にメリットがあるのであれば、善意に頼り続けるのではなく、組織構造を見直して役割として用意すべきではないでしょうか。
スターバックスでは、カスタマーエクスペリエンスを高めるために、マニュアルを最低限に留め、顧客の期待を超える行動が自発的に行われることを推奨し、プラスαの行動を奨励することで、期待以上の行動が生み出されやすい文化をつくっています。
▶︎自発的な行動の価値を追究し続ける
ドラッカーの著書『経営者の条件』には下記の一節があります。
善意によって自発的に行われる組織市民行動は、ただの行動を推奨するだけでは、組織目標に繋がらず奉仕活動に終始してしまい、評価もできずと、報わられない貢献となってしまいます。
自発的な行動によって、組織にどのようなメリットがあったのかを振り返り、その価値を追究し続けることで、個人が報われる努力ができるようにベクトルを合わせつつ、組織として進化をしていけることが望ましいのではないでしょうか。
アメリカの心理学者アダム・グラント氏の著書『GIVE&TAKE』では、ギバーであることは長期的に成功につながるとされている一方、自己利益をないがしろにしてしまうと下記のように燃え尽きてしまうリスクがあるのです。
個人の視点ではその行動が本当に今必要なのか、マネジメントの視点では行動の成果を正当に見れているのかを追究していくことが重要なのです。
※本noteでは、人の可能性を拓く組織づくりのための新しい気付きを届けることを目的に、組織論とケースを考察していきます。 他記事はぜひマガジンからご覧ください!