ケース14. コンコルド効果〜理想に立ち返るピボット〜
▶︎後悔先に立たず。理想に向かう舵取りをするには?
「これだ!」と一度熱を込めたことが、「このままでは難しいかも‥」と懸念が頭を過ぎっていても、途中で方向転換することには頭を悩ませるのではないでしょうか?
経営の視点:
・発信した戦略を切り替えることが難しい
・不確実な市場環境によって悩まされる
現場の視点:
・自分のこだわりを変えることに抵抗がある
・時間やお金を使ったことで損をしたくない
多くの人が集まる組織には、その組織ならではの固定観念や慣習が根付き、慣性の法則が生じてしまうことで、方向転換が難しくなります。
また、個人でも時間をかけてきたことであるほど、周囲からアドバイスを受けていても、やり方は変えることは難しいのでないでしょうか。
今回はコンコルド効果という概念に用いて、理想に立ち返って、方向転換をするための対処法を考察します。
▶︎コンコルド効果
イギリス・フランスの共同事業である超音速旅客機コンコルドの開発事業において、途中で多額の投資に対して採算が取れないことが想定されていたにもかかわらず、30年超継続してしまい、開発会社が大きな損失によって倒産に至った事例が由来となっています。
望まない結末の予測ができているにも関わらず、投資した時間やお金の大きさに比例し、取り返そうとの執着が芽生える心理効果の危険性を示しています。
ギャンブルや課金型のソーシャルゲームなどで生じやすい中毒性の原因であり、ポイント制度や年会費などによる顧客ロイヤリティ向上の要因でもあります。
ビジネスシーンにおいては、新規事業の注力or撤退の判断や既存事業の変革の決断といった場面において打破しなければならない障壁です。
それでは、コンコルド効果に囚われずに、合理的に意思決定するためには、どのような対処法があるのでしょうか?
▶︎合理的な判断基準とモニタリング機能を設ける
合理的な意思決定のためには、管理会計を活用して、組織の現状を把握して未来を予測するための情報を集めることが重要です。
例えば、新規事業を始める場合、営業利益が赤字からスタートすることは珍しくありません。
投資による執着が生じるコンコルド効果を踏まえると、継続判断を合理的に行う基準が必要です。
下記の3つのプロジェクトの継続判断では何が基準となるでしょうか。
Aは営業利益が40万円の黒字に対して、BとCは40万円の赤字です。
赤字のBとCでは継続判断が必要となりますが、より内訳を分析すると、Bは限界利益(売上-変動費)が+10万円であり、Cは限界利益が-10万円です。
この差分を捉えると、Cは継続しても売上に応じて変動費が増加して赤字が大きくなっていくことに対して、Bは売上高を増やして限界利益が固定費回収を上回れば営業利益を黒字にできることを示しています。
Bを継続するには量的拡大が急務であり、Cを継続するには抜根的にコスト構造を見直さない限りは危険と言えます。
このように事業の詳細を数字で分析していくと、損得の線引きと改善点が明確になります。
プロジェクト計画のステージごとに継続判断基準を明確にするステージゲート法といった定性情報を集約して意思決定する手法もあります。
事業運営においては、個人の主観に依拠せずに定量情報と定性情報を収集・分析していく仕組みを設けることによって、実態を読み取りながら舵取りができます。
その際に、収集する情報に誤りがあれば、望んでいない方向に進んでしまうことから、経営企画や事業企画、営業企画といった俯瞰してモニタリングを担い、課題を分析する機能が重要なのです。
また、個人でも確度の低い商談や、重要度が低い資料に時間をかけてしまい、後になって後悔した経験はあるのではないでしょうか。
目的に照らし合わせた費用対効果を常に見直しながら、必要性を考える思考の癖を持っておくと良いでしょう。
自発性に基づく役割外の行動である組織市民行動の負の側面も、必要性を誤認することから生じます。
※組織市民行動に関する記事
▶︎哲学と歴史から価値観を磨き、理想を持つ
倫理観に反した事業の諸問題がニュースで取り上げられることがありますが、こういった事例も、一度始めたことの投資対効果に執着したことによって、規範が損なわれてしまっている可能性があり、コンコルド効果の危険性が内在していると考えられます。
グローバル企業がリーダーに求める要素に、論理的·理性的スキルに加えて、直感的·感性的スキルがあります。
例えば、オックスフォード大学では、文系·理系を問わずに歴史と哲学が必修科目とされており、価値観を磨く教育を重視されています。
不確実な市場では不条理に満ちているからこそ、美意識がなければ、損得勘定に囚われてしまい、あるべき姿からかけ離れてしまうのです。
山口周さんの『経営におけるアートとサイエンス』では、美意識を土台とした上でビジネスを追求すべきと説かれていますが、自分が関わる事業やプロジェクトを、作品として捉えると、今の延長線上が理想の姿に近づいているのか、苦し紛れの継続なのかを見つめ直すことができコンコルド効果から抜け出すことができるでしょう。
「為せば成る 為さねば成らぬ何事も 成らぬは人の為さぬなりけり」の名言で有名な上杉鷹山は、当時、世襲制が常識であったことに反して、「適材適所なしに善政はできない」と地位に関わらずに人材登用を行い、大赤字であった財政を建て直す改革を成し遂げています。
また、登用の際には理想を説くことを重視され、理想に共感する部下からの諫言を受け入れる姿勢があったとされています。
意思決定力はセンスが問われますが、常に理想を自問自答できるかで、成し遂げられることも歩める人生も変わるのではないでしょうか。
これまでのやり方に執着することなく、英断するには強い動機を自ら駆り立てることが必要なのです。
そして、理想を持つには歴史や哲学から学び、価値観を磨くことが有効と考えられます。
山口周さんは、『ニュータイプの時代』において、量的成果を追いかけるオールドタイプから、常に仕事の目的や意味を追求して、本質的価値を言語化・構造化できるニュータイプが重要度が増していくと説いています。
※リフレーミングに関する記事
▶︎理想に向かう舵取りを考え抜く
組織変革や自己変革といったピボットには、勇気が必要です。
自分基準では主観に囚われてしまい、お金や時間をかけたことに対してはコンコルド効果が生じやすく、変革の壁にぶつかります。
組織や顧客、市場の変化に目を向けると、自分の納得感ではなく、何が必要なのかを立ち返らなければならないと気づくのではないでしょうか。
ゆでガエルに陥っている組織では、コンコルド効果から自己正当化が働き、競合比較分析でも、「棲み分けができているから大丈夫」とリスクを軽視する分析がされてしまうことがあります。
自己研鑽でも、目標を追いかけたり、資格の勉強をする時など、手段が目的化してしまうことがあるでしょう。
コトに熱中するほどコンコルド効果を自覚して、理想に向かう舵取りを考え抜く自問自答のプロセスが必要なのです。
※本noteでは、人の可能性を拓く組織づくりのための新しい気付きを届けることを目的に、組織論とケースを考察していきます。 他記事はぜひマガジンからご覧ください!