ケース34. ゼークトの組織論〜人の才覚を活かすリソースアロケーション〜
組織が大きくになり分業化が進む中で、それぞれが持ち場で一生懸命に努めているはずが、成果が上がらないことに疑問を感じたことはないでしょうか?
経営の視点:
・それぞれ配置した役割で最大限に成果を出してほしい
・最適な配置かを判断することは難しい
現場の視点:
・用意された役割は当たり前にやっている
・一生懸命に貢献したことは評価してほしい
個人差はあれども人には達成欲求があるため、合意を前提に役割として受けている仕事はしっかり果たそうとします。
しかし、その貢献の良し悪しを客観的に評価していなければ、気付けばその努力が誤った方向性に費やされていることが往々にしてあります。
そこで、今回はゼークトの組織論を用いて、人の才覚を活かすリソースアロケーションを考察します。
▶︎ゼークトの組織論
ゼークトの組織論では、人材を「利口・愚鈍」と「勤勉・怠慢」の切り口でかけ合わせ、下記の4つのタイプに分類します。
この中で、最も組織に悪影響を及ぼすのは、C.無能な怠け者ではなく、D.無能な働き者というのがゼークト氏の主張のポイントです。
まず、A.有能な怠け者(利口・怠慢)は効率性重視で自分で動かずに他者に任せて、全体を俯瞰した判断で成果を上げられることから「指揮官」に向いているとされ、B.有能な働き者(利口・勤勉)は勤勉であるが故に任せることが苦手で自分で実行する傾向があることから「指揮官」のサポート役としての「参謀」が適しているとされています。
そして、C.無能な怠け者(愚鈍・怠慢)は判断力や行動力は備わっていないものの、指示次第でパフォーマンスをコントロールしやすく、特に組織運営に欠かせないルーティンワークでバリューが期待されることに対して、D.無能な働き者(愚鈍・勤勉)は勤勉であるが故に、正しい判断力や行動力が備わっていないにも関わらず、率先して行動して、良かれで余計なことをしてしまうことによる後始末の損害が生じるとされています。
当然、D.無能な働き者(愚鈍・勤勉)は善意の存在であるため、ゼークトの理論は人を選別するためではなく、人の才覚を最大限に引き出すための着眼点として組織開発の分野で着目されています。
また、人の能力は経験学習で変化していくこと、組織に必要な能力は取り巻く外部環境や内部環境によって変化していくことが前提であるため、D.無能な働き者(愚鈍・勤勉)の「正しい判断力や行動力が備わっていない」はあくまで、特定の状況下に限るため、組織開発の観点では、D.無能な働き者(愚鈍・勤勉)をB.有能な働き者(利口・勤勉)にするための工夫が重要となります。
それでは、ゼークトの理論を踏まえてD.無能な働き者(愚鈍・勤勉)の才覚を活かすために、どのような工夫ができるのでしょうか?
▶︎目標管理で期待する能力開発を明示する
勤勉でありながら期待とズレたパフォーマンスになってしまう要因は、役割を受け持つ段階で自己評価が高くなりやすく、自分のやり方でやるとの慢心が生じやすいことにあります。
そのため、目標設定やアサイメントの段階で何を成果として求めているのか基準値を明確にして、能力開発を促すことが重要です。
組織が大きくなるほど受け手側は全体像を捉えることが難しくなり、自分の評価に繋がるようベストを尽くそうとする余りに自己判断で行動してしまいがちです。
「自分の仕事にベストを尽くす」と自己の中で完結よりも、「自分の仕事を常に改善する」と組織との連携に責任を持たせることが岐路となります。
DeNA Qualityでは、”全力コミット:2ランクアップの目線で、組織と個人の成長のために全力を尽くす”が掲げられており、全力コミットする前提には個別最適で留まらずに組織視点を持つことを意識づけられています。
人は期待によってパフォーマンスが高まるため、目標設定やアサイメントの仕方が才覚を活かす度合いを変えるのです。
▶︎方向性を軌道修正するための中間総括
D.無能な働き者(愚鈍・勤勉)に陥りやすい要因は、報連相の欠如にもあり、役割が特殊になるほど、「自分しか分からない」との驕りから、その傾向は強くなります。
どれほど一生懸命であろうとも、そのベクトルが誤っていれば、時間を浪費してしまうことに注意しなければなりません。
その対策として、半期、四半期、月次、週次など役割に応じた中間総括の場を設けることが必要となります。
いつまでにどれほどの成果が必要なのか、その目標に向けて現状はどうなのかを総括する場を設けることで、自己判断を防ぎ、軌道修正によって、D.無能な働き者(愚鈍・勤勉)の勤勉さを活かして、B.有能な働き者(利口・勤勉)としての才覚を活かすことができます。
特に目標に対するGAPを把握することで、能力が追いついているかを判断できる、難しい場合はアサイメントを適材適所に変更する撤退基準を設けられることが総括のメリットです。
たとえば、人事制度の評価期間を3ヶ月単位で運用する企業が増えていますが、フィードバックの頻度を調整することで努力の方向性を調整しやすくなります。
人は自らが宣言したことを一貫したいとの心理が作用するため、総括を通じた軌道修正で、その後の行動を変えることができます。
▶︎状況に応じたリソースアロケーションで人の才覚を活かす
ジム・コリンズ氏の『ビジョナリーカンパニー3 衰退の五段階』では、どんなに偉大な組織であっても没落する可能性はあり、下記の五段階から生じるとされています。
第一段階:成功から生まれる傲慢は、下記のように無意識的にも過去の成功に縋ることから始まります。
ゼークトの理論は、意欲がある人の「組織の役に立ちたい」「貢献したい」の気持ちを尊重し、リソースアロケーションで努力のベクトルを軌道修正することで組織のパフォーマンスを高められることを示しています。
人の才覚を活かすには、現実を直視しながら柔軟性を持つことが大事なのではないでしょうか。
※本noteでは、人の可能性を拓く組織づくりのための新しい気付きを届けることを目的に、組織論とケースを考察していきます。
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