ケース11. マクナマラの誤謬〜意義を見失わない行動目標〜
▶︎意義を見失わない目標設計とは?
数字を追いかけていく中で、その意義を見失ったことや疑問に感じてしまったことはあるのではないでしょうか?
経営の視点:
・経営目標の達成確率を高めたい
・人数規模が拡大するほど目標設計はシンプルにしなければバラツキが生まれる
現場の視点:
・自分に合うやり方で目標達成を目指したい
・平準化されたKPIに納得感が持ちづらい
経営目標のKGIを達成するために最も重要なプロセスをKPIとして定めることで、組織力を発揮させていくことが組織戦略において重要となります。
しかし、現場がそのプロセスに意義を感じていなければ実行力を最大化できず、最悪のケースでは気付かぬ内に間違った方向性に組織が進んでしまっていることがあります。
今回は事業目的の実現に向かうための行動目標の設計について、マクナマラの誤謬(ごびゅう)という事例に用いて考察します。
▶︎マクナマラの誤謬
マクナマラ氏は、フレデリック・テイラーの科学的管理法を参考にし、「測定できない物を管理することはできない」を信条とするデータ分析の天才と謳われていました。
ベトナム戦争において、アメリカ兵の死亡数と敵兵の死亡数の比率に着目し、敵の戦死者の数を「ボディカウント」と行動目標として設定して、アメリカ兵の死者数よりも多く敵兵が死亡している限り、軍は勝利への道を進んでいると号令をしていたことによって敗北に導いてしまったことが、マクナマラの誤謬とされています。
戦略上の問題が生じた要因は下記2つ。
①現場で部隊対抗の競争が始まり、殺人に対する意欲を必要以上に高めたことによって民間人の殺戮を助長してしまったこと
②数値では測れないベトナム人の愛国心やアメリカ市民の反戦感情を考慮せずに反感を高めてしまったこと
最終目標の達成のために、把握できる数字だけに囚われて人の心理を考察しなかったことによるミスリードの事例の一つとなります。
ビジネスシーンにおいても、KPIマネジメントを効率至上主義でミスリードしてしまうと、理想とはかけ離れた結果や思想に組織が陥ってしまうことがあります。
マクナマラの誤謬を回避するためには、どのような視点が必要なのでしょうか?
▶︎意義のある数字を追いかける目標管理
KPIが設定されることで、目標達成への行動が明確化されるため、目標達成までのプロセスを現場に示すことができ、モニタリングができます。
KPIを通じて成功体験を積むことで、自己効力感を高め人の成長を促進することもできます。
※自己効力感に関する記事
KPIマネジメントでは、特定の方向に導くために人の動きに制約をかけることを踏まえて、どのような心理で行動が生じるのかを注意しなければなりません。
例えば、インサイドセールスのKPIに架電数が定められていると、自社のソリューションにマッチしていない顧客へのアプローチが無意味に行われてしまったり、商談数を定めていても顧客像が浸透していなければミスマッチな商談のアポが取られてしまったり、期待値がズレてしまうことがあります。
いずれも意義が浸透していなければ定量の成果だけを追いかけてしまいます。
2010年の経営破綻から再生したJALでは、顧客満足度を高めることを目的に、定時到着率をKPIに定め、そのための現場の行動が促進されたことが事業の再成長につながったとされています。
プロセスの意義づけ次第で現場の行動は変わるのです。
数字目標の意義が浸透しなければ、組織は数字の奴隷となってしまい、本質的に社会や顧客へ提供すべき価値が軽視されていきます。
KPIを定める際には、その行動プロセスにおいて意義を落とし込み、本来描いている事業目的に進んでいるのかモニタリングしていくことが重要と言えるでしょう。
▶︎採用は理想の組織像を忘れてはならない
採用計画は事業目的の達成のために経営戦略から落とし込まれ予算と共に定量目標が定められます。
フォーキャスト式に現状から積み上げで立てられるよりも、理想の組織像からの逆算でバックキャスト式に計画が立てられることが望ましいものですが、実際には容易ではありません。
なぜなら、人の投資には、定性要素が多く、かつROIを測定できるリードタイムが長いことからリアルタイムに振り返りができずに、質よりも量が優先的な判断材料となり、理想の組織像と乖離が生じて都度修正が必要となるからです。
難易度が高いからこそ、組織づくりの入り口である採用活動においても、定量だけに囚われない事業目的に即した行動目標をポリシーとすることが重要です。
Googleでは、「自分より優秀で博識な人材を採用せよ」であったり、「熱意があり、自発的で情熱的な人物を採用せよ」、「最高の候補者を見つけた場合のみ採用せよ」といった採用ポリシーが掲げられており、採用の質を重視されています。
プロセスにおいて、採用の量ばかりを追いかけて、理想の組織像へのこだわりが実行されていなければ、当初描いていた組織像とは異なった状態になってしまいます。
また、人の志向性や感情、人間関係などを想像しないと、早期退職や組織崩壊のリスクが生じます。
※プロスペクト理論を用いて組織崩壊のリスクを考察した記事
事業目的に即した組織像を描き、その実現に向けた採用ポリシーを実行できなれければ理想の組織像とはかけ離れてしまうのです。
▶︎目的達成のプロセスにこだわる
目標設定は、特定の方向性に組織のリソースを集中させることで組織力を発揮することを可能としますが、一方で現場の視野を狭めてしまうことに注意が必要です。
目標設定の意義付けを怠ると、非倫理的行動を助長し、協力意識やモチベーションを損なうなど、組織的問題を引き起こす可能性があります。
経営の神様と称される稲盛和夫氏はフィロソフィーを、松下幸之助氏は水道哲学を、仕事の意義を説きながら数字を追求して、組織を日本を代表する会社に導いています。
二宮尊徳は、「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」と資本主義の在り方を説きました。
数字目標を追いかける上では、そのプロセスの意義づけの浸透度合いを常にモニタリングしていくことが事業目的の実現に必要なのではないでしょうか。
※本noteでは、人の可能性を拓く組織づくりのための新しい気付きを届けることを目的に、組織論とケースを考察していきます。 他記事はぜひマガジンからご覧ください!