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事業成長を加速する採用候補者体験の考え方

転職市場の流動性が高まれども、事業の成長性を左右するような経験を有する優秀な採用候補者の希少性は高いため、War for Talent時代の獲得競争では、採用候補者の志望度を高める体験設計の工夫が勝負の決め手と言っても過言ではありません。

体験設計は、単純に他社と差別化となる”どんな設計にするのか”や”何のための設計にするのか”よりも、ターゲットとなる採用候補者のニーズを捉えて”誰のための設計にするのか”の視点を持つことがポイントになります。

今回は“誰”を明確にすることで感情の起伏を想像しながら効果的なアプローチを考えるためのジャーニーマップに基づく採用候補者体験の考え方を整理します。

(0)ジャーニーマップ作成のポイント

ニーズを捉える上で名詞よりも動詞を使うことでストーリーが描きやすくなります。
たとえば、他社との比較検討に悩んでいる採用候補者のクロージングのために、何が必要かを考える際に、「オファーレターが必要」と名詞でアイデアを出してしまうと、すぐに思いつく解決策にアイデアが留まり、そこから先の発想も「担当面接官のメッセージがあるオファーレターが必要」、「キャリアパスが明示されたオファーレターが必要」と『〇〇なオファーレター』と”誰のための設計にするのか”ではなく、どんな設計にするのか”になってしまいます。

一方、動詞を使うことで、「他社に対して年収で大きな差がついている前提を覆す判断材料を提供することが必要」と着想を広げられ、「評価基準と昇給レンジを説明して3年スパンのイメージで安心を届ける」、「入社後の機会と共に働く人との相性を踏まえて、どのような実績をつくることができ、将来のキャリアに活きるのかの希望を届ける」などのニーズに合わせたアプローチをストーリーで描きやすくなります。

(1)採用広報

優秀な採用候補者ほど多忙でありながらも、界隈でのネットワークがあったり、在籍企業のアルムナイがあったりと、人的ネットワークによる口コミで情報アクセスが強い傾向があります。
そのため、効果的なブランディングがなければ、他社の情報に埋もれてしまい、そもそもの接点を持つことすら難しいことが実情です。

また、無闇にエントリーが増えると必要以上に採用工数が増加することから、ターゲットに合わせた集客が必要であることから、採用候補の段階でニーズに合わせた設計が重要となります。

<採用候補者のニーズの例>
・現職で熱中できていた成長期を再び味わいたい
・現職でポジションの滞留が起きて昇格までの時間軸が長くなることが見込まれるため、昇格のチャンスがある機会を知りたい
・変化が少なくマンネリ化している状況を打破して新しい経験を積みたい

<狙う感情の起伏>
・関心:今以上のチャンスがある機会を見つけたかもしれない

<選考企業のアプローチ例>
・有識者の評価が掲載された成長性を示すリリースを目立たせる
・noteでどんなポジションがなぜ空いていて、どんな人に来てほしいのかを発信する
・誰の何を解決してどんな面白みのある職なのかを社員インタビューで言語化する

(2)説明会/Meetup

自社に関心があるものの応募に至らない採用候補者との接点を持つ手段として説明会/Meetupの企画があります。
一度に複数の採用候補者との接点を設ける手段ですが、自社の第一印象を決める機会であることに注意しなければなりません。

また、自社理解が不足している状態では選考の場で相互に質問の意図が伝わらずにコミュニケーションのズレが起きることもあるため、説明会/Meetupはその後の接点におけるコミュニケーションの質を左右するとも言えます。
そして、採用広報と同じく、選考における採用工数を効率化するために、自社とミスマッチとなる採用候補者をスクリニーングするために、惹きつけばかりではなく相性を問うメッセージングも工夫することがポイントです。

<採用候補者のニーズの例>
・興味を持っているが転職活動が億劫でまずは知ってみたい
・あまり理解できていないが知人からお勧めされて理解を深める機会にしたい
・隙間時間に今の自分を見つめ直すために他の環境の情報を得たい

<狙う感情の起伏>
・期待:この選択肢は自分にとってプラスなのかもしれない

<選考企業のアプローチ例>
・テキスト情報では伝えづらいビジョンの本気さ経営トップが語る
・どんな人が活躍しているのか事例を示す
・今のタイミングがいかに好機なのかを市場のトレンドで説明する

(3)人事面談

採用候補者の意思決定材料を収集したり、採用条件に関する期待値を調整するために人事面談を設定することがありますが、採用候補者の視点では入社後の利害関係が少ない相手として、なるべく本音で話したいことや、条件面や働き方などの問い合わせ先となることを想定して、信頼を得られる相手となることがポイントです。

<採用候補者のニーズの例>
・現年収以上の条件が出るイメージを持てていないが、その可能性があるのかを知りたい
・事業に興味が高まっているが、職場環境のイメージがついていないため、質問をしたい
・気になることがあるものの、些細な質問で優先度が低いことで面接では聞けていないため、懸念を解消しておきたい

<狙う感情の起伏>
・安心:判断材料を得ながら合理的に比較検討ができる

<選考企業のアプローチ例>
・基準を明確にした報酬制度で採用時点と入社後の可能性を経済条件を説明する
・採用候補者と相性が良さそうなメンバーの事例を用意して紹介する
・事前に質問を用意してもらい、疑問点を解消する場として案内する

(4)現場面談

入社後のミスマッチを防ぐための相互理解として配属予定の部門の現場面談が有効です。
一方で、採用候補者側が一緒に働く人がどんな人かを知りたいとのニーズに対して、自社を良く見せようとすると期待値ギャップが生じることがあるため、現場面談ですり合わせるべき実態は何かを抑えることが必要です。

<採用候補者のニーズの例>
・一緒に働く人がどんな人かを知りたい
・実際の現場の良い部分だけではなく大変なことも知りたい
・自分の入社後の活躍を想像するために、どんな努力をすると成果が出るのかのイメージを掴みたい

<狙う感情の起伏>
・容認:この人たちとなら大丈夫そうだ

<選考企業のアプローチ例>
・相互理解を深めるためにお互いの価値観を共有する
・活躍している人と退職してしまう人の傾向の差を説明する
・同世代のトップパフォーマーに成長の軌跡を話してもらう

(5)初回選考

初回選考の雰囲気がその後の選考に対する採用候補者のスタンスに影響を与えるため、カジュアルな対話形式か、シリアスな質問形式かを狙って印象づけることがポイントです。
どちらの場合においても、採用候補者にとって自分をアピールする場となることから、話しやすい問いかけ方ができるかで、初回選考を通じた志望度と、見極めるための情報収集の濃度が変わります。

<採用候補者のニーズの例>
・自分の経験や強みを理解してほしい
・自分の志望度をアピールしたい
・自分と相性の良いカルチャーなのかを見極めたい

<狙う感情の起伏>
・喜び:面接を受けて良かった

<選考企業のアプローチ例>
・エピソードを具体的に深掘りする
・面接官が先に自分自身の入社理由を自己開示した上で採用候補者の志望理由を聞く
・選考のスタンスを冒頭に伝える

(6)途中選考

初回選考を経た上で次の選考の場が設けられるのは、相互に初回見極めた上で相互に関心を示していることが前提となります。
そのため採用候補者視点では、自分がなぜ必要とされているのかの納得感を得たい欲求が高まります。
そして、途中選考を経て最終選考に進む場合は、自分に対する理解が深まった上で採用可能性も考えられていると採用候補者の期待値も高まります。
初回とその後の選考官ごとの間で生じる主観の差分を整理して、最終選考では採用候補者の理解ができていると伝わるように、見極めポイントを最小化しなければ内部連携の不安を抱かせてしまいます。

また、採用温度感に応じたクロージングの用意をすることも必要になるため、途中選考時点で何を目的にどの程度を見極めるかを詰めることが必要です。

そのため、途中選考の体験設計の重要度は高いと言えます。

<採用候補者のニーズの例>
・初回選考で伝えたことは共有しておいてほしい
・初回選考では伝えられなかったことをアピールしたい
・自分の評価ポイントを知りたい

<狙う感情の起伏>
・信頼:自分のことを理解した上で選考を進めている

<選考企業のアプローチ例>
・前回選考で話されたことを冒頭に振り返る
・事前に前回の面接官から申し送りを得て詳細を確認する
・何を評価していて残り選考でどんなことを知りたいのかを伝える

(7)最終選考

それまでの接点を経て志望度が低ければ辞退しているため最終選考に進んでいる以上、採用候補者側も自分がなぜ採用されるのか納得感と決め手となる要素があれば意思決定も想定していることが前提になります。
そのため、最終選考は最後の関門として重要な見極めるの場である同時に志望度を握る勝負所としての位置づけであることも重要です。
それまでの選考過程で、見極め事項とアトラクト事項を抑えて最終選考を設計をできているかで他社に対する優位性が変わります。

<採用候補者のニーズの例>
・自分を理解した上で判断してほしい
・最後の見極めるとしての納得感がほしい
・選考を受けたことに悔いがないようにしたい

<狙う感情の起伏>
・驚嘆:これほど相性が良いと感じる企業は他にはない

<選考企業のアプローチ例>
・最終面接で確認したいことを事前に伝える
・入社後の想定役割の期待を説明して覚悟を問う
・最終面接前に人事面談で懸念を解消しながら最終面接の心構えを補足する

(8)オファー面談

オファーを提示することは貴重な枠を仮押さえしてその期間の他採用候補者の選考を遅れさせることになるため、機会損失とならないように着実にクロージングできるかが採用スピードに影響を及ぼします。
採用候補者の意思決定までの時間の制約を把握した上で、検討材料を見誤らずに提供することが必要です。

<採用候補者のニーズの例>
・入社後の解像度を高めて、事前に聞いていたことと入社後のギャップが生まれないように他の選択肢との比較をしたい
・家族や関係者の了承を得られる説明材料がほしい
・自分にオファーを出した理由で自信を得たい

<狙う感情の起伏>
・敬愛:これまでの接点で自分を正しく評価してくれている

<選考企業のアプローチ例>
・現職や他社と比較した入社後の想定役割の期待値を説明した
・自社に入社するメリットを言語化した情報を渡す
・各選考官の評価と期待を添えたオファーレターを提示する

(9)クロージング

オファー面談で意思決定材料を提供した上でもオファー承諾に至らない場合は、感情に対するアプローチが必要です。
人は合理だけでは判断できないことにクロージングの難しさがあります。
ここで会食やオフィスツアー、オファーレターといった手段を起点考えてしまうと無鉄砲になるため、それまでの接点で相手の感情の起伏を捉えて、採用候補者の個性に応じたアプローチを取れるかが重要になります。

<採用候補者のニーズの例>
・いざ現職を離れようとすると情が込み上げて踏み切れず、相当の覚悟をつくりたい
・他社選考で猛烈なアプローチを受けている嬉しさに対して差を感じてしまい、もっと必要としてほしい
・熱烈に必要とされるほど入社後の期待の大きさに不安があり、冷静に考える時間がほしい

<狙う感情の起伏>
・恍惚:自分をこれほど必要としてくれる企業は他にはない

<選考企業のアプローチ例>
・会食で転職理由と自社のマッチ度を振り返りながら入社後の希望を話し合う
・他社の動向を把握して、模倣と差別化で他社以上の熱意を示す
・意思決定までの期間とその間の接点の約束をして、それ以上のアプローチをしない

(10)入社前サポート

オファー承諾から入社までは辞退リスクがあることに注意が必要です。
マナー上の義理はあれども法的な拘束はなく、オファー辞退は可能であるためです。
承諾時に意思を固めたはずの採用候補者でも、「本当にこれがベストなのだろうか?」と不安が余儀切る可能性を考慮し、その後に他の情報が入ることを想定して、自社に惹き続けるためのアプローチが重要となります。

<採用候補者のニーズの例>
・入社後のイメージを安心するためにコミュニケーションを取り続けたい
・入社前にキャッチアップイメージをつけておきたい
・他社や現職からアプローチを受けて悩むため改めて合理的に判断したい

<狙う感情の起伏>
・平穏:このまま入社を迎えて問題なさそうだ

<選考企業のアプローチ例>
・納会などの社内イベントに招待する
・任せる予定のミッションを遂行する上で参考となる情報を提供する
・人事面談を挟み、率直な心境の変化を確認する

ハードスキルだけではなくソフトスキル含めて選考を通過していく自社にマッチした採用候補者は限られていくことから、以上のように採用候補者の選考体験を工夫できるかで採用力は変わり、事業の成長率も変わります。

事業成長の狙いや組織の成熟度合いによって採用候補者のターゲットも変化していくため、採用候補者体験は常に磨き続けることが必要です。
採用候補者体験を磨くために、採用候補者の声を参考材料として取り入れているかでWar for Talent時代における組織づくりに差がつくのではないでしょうか。

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