リサーチ10. IoT× バイタルデータ〜主体的な予防医療を実現するOura〜
現代の医療技術は日進月歩で進化を遂げており、テクノロジーの観点での中で注目を浴びているのが「バイタルデータ」の活用です。
バイタルデータとは、心拍数、血圧、体温、呼吸数など、人体の基本的な生命指標を指します。
かつては病院でしか測定できなかったバイタルデータが、IoTの革新を通じて、今やウェアラブルデバイスとして日常生活の中で簡単にリアルタイムで収集・解析できるようになりました。
たとえば、医療従事者は患者の状態を常に把握でき、心臓の不整脈や突然の血圧上昇など異常が発生した際には即座に対応することが可能となっています。
IoTを通じてバイタルデータが生活者の身近なテクノロジーとなったことで、予防医療の観点でも新時代に突入しています。
継続的にデータを収集・分析することで、自己の異変に気づくことができ、潜在的な健康リスクを早期に発見することができたりします。
今回は、生活者個人がIoTでバイタルデータを活用して生活習慣を改善していく社会を実現することで注目を浴びているフィンランドのユニコーン企業Ouraを取り上げます!
▶︎IoT (Internet of Things)
IoTは、インターネットを介してさまざまな物理的なデバイスやセンサーが相互に接続され、データを収集、共有、分析する技術のことを指します。
これにより、従来は独立して機能していたデバイスが相互に連携し、新たな価値やサービスを生み出すことが可能となります。
例えば、家庭内の冷蔵庫や洗濯機、照明をスマートデバイス化することで、インターネットを通じて連携され、遠隔操作や自動化が実現します。
IoTは、実世界の変化をセンサーのような入カデバイスが感知し、それを電気信号に変換して出カデバイスから実世界に戻す構造となりますが、データの大半はネットワークを通じてクラウドに送られて保管されることでデータの利活用ができ、センサーも温度や湿度、光、加速度、力覚、距離、画像などを感知する多様な技術が進歩していることが特徴です。
PtoPの場合は世界の人口が限界を決めることに対して、MtoMだとモノ同士なので、ほぼ無限に多様な組み合わせが実現でき、通信インフラの発展とゲートウェイとなるスマートフォンアプリの拡充で、IoTの普及は加速しています。
今回の主題とするバイタルデータ以外にも、下記のような取り組みがあります。
このように、IoTは計測によって従来の不可能を可能を変革する世界を実現しています。
▶︎Oura
身近なウェアラブルデバイスを通じたバイタルデータの利活用を提供するユニコーンスタートアップがOuraです。
Ouraは2013年にフィンランドで設立され、Oura Ringというスマートリングを展開しています。
創業者のPetteri Lahtela氏が自分自身の健康状態を把握するための術を模索したことから開発が始まりました。(Petteri Lahtela氏は現在CEOを退任)
初期段階では、睡眠の質が健康に与える影響に着目し、睡眠データを正確に計測・解析できるデバイスの開発を目指されています。
2025年1月時点でOura Ringは、心拍数、体温、呼吸数運動量、睡眠の質、深い睡眠、浅い睡眠、レム睡眠、ストレス、レジリエンスなどのデータを計測し、ユーザーがアプリで自身の健康状態を自己認知して、習慣づくりや日々の活動に関するフィードバックを提供しています。
※指が人体の中でも特に皮膚が薄くApple Watchなどの手首に巻くデバイスより正確なデータが取得できる。
Oura Ringは軽量でありながら高い耐久性と1週間のバッテリーを持ち、お洒落なデザインも特徴として世界各国で人気を博しています。
特に2020年以降のコロナパンデミックにより、健康管理ブームが到来したことで、急速に広まりました。
北欧のウェルネス思想に根差し、日々の健康を維持することで燃え尽き症候群を防ぐことをコンセプトに掲げており、Xの創業者ジャック・ドーシー氏や、SalesforceCEOのマーク・ベニオフ氏、俳優のウィル・スミス氏が利用していることもブランド認知度の向上に寄与しています。
スマートリングの後発は出てきていますが、Ouraは下記のような観点で競争優位性を築いています。
①新機能の追加
②新たな地域や国へ進出
③ヘルスケア企業や医療機関、フィットネスブランドとの提携強化
また、法人向けのSaaSも仕掛け、ダッシュボード機能「Oura Team」により、経営者や人事が、各スコアの平均値やトレンドを把握することで、健康経営を推進することを可能としています。
プロバスケットボールリーグの NBA の導入事例もあります。
シリーズAでは、アメリカのForerunner Ventures(Warby ParkerやAwayに投資)、フィンランドのLifeline Ventures(Woltに投資)などから2,000万ドルを調達して、シリーズCでは、Square やSalesforce Venturesなどから1億ドルを調達して、ユニコーン企業としての評価を得られました。
日本ではOne Capitalが出資されています。
2024年12月にはフィデリティなどからシリーズDで2億ドルを調達して、累計資金調達額は日本円で約860億円相当に及んでいます。
Ouraは健康意識の高まりを追い風に展開を進めており、バイタルデータの収集と解析によってさらなるサービスの高付加価値化が期待されており、IoTによる社会変革を感じる事例です。
▶︎まとめ
バイタルデータの利活用は、個々の患者に最適な治療法を提供するための基盤となることから、従来の医療な統計的なデータに基づいて画一的な治療が行われざるえなかった課題に対して、一人ひとりの身体状態や生活習慣に合わせたパーソナライズドな医療を実現する突破口としての可能性が期待されます。
バイタルデータの利活用が進む一方で、データのセキュリティとプライバシー保護も重要な課題となりますが、こちらもブロックチェーン技術や暗号化技術を利用したデータ保護の革新が進んでいます。
保険業界ではユーザーにアルコール感知センサーや急ブレーキ感知センサーなど、安全運転にかかわる各種センサーを車に搭載してもらい、そのデータをみて保険料を決めるアクティブ·インシュランス(能動的な保険)が取り入れられたりと、IoTを通じたパーソナライズドなサービス開発が行われていたりします。
Oura Ringのようのスマートデバイスは多くの生活者の日常に浸透するポテンシャルがあります。
バイタルデータの普及によって主体的な予防医療が活発化して、進歩していく医療の未来に要注目です!