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ケース31. 外集団同質性バイアス〜市場変化に強い会議設計〜

▶︎組織が内向きになってしまうのは何故か?

社会に価値を届けることが事業の成長に繋がると理解していれども、いつの間にか市場の変化に自社が追いついていないと感じることはないでしょうか?

経営の視点:
・市場のニーズを適切に捉えて変化できる組織にしたい
・現場の変化を把握することが難しい

現場の視点:
・顧客に喜ばれて誇りに思える仕事をしたい
・目の前のことで頭がいっぱいになってしまう

ドラッカーは「組織の内部には、成果は存在しない。すべての成果は、外部の世界にある」と説いていますが、組織内のコミュニケーションは気付けば内向きになりやすい。
日々のコミュニケーションは慣性が生じやすく流れを変えることは容易ではありません。
新しい視点を取り入れるためのリズムをつくることが必要です。

そこで、外集団同質性バイアスという概念に用いて戦略会議の在り方を考察します。

▶︎外集団同質性バイアス

自分の所属する内集団には多様性があると認知するのに対し、所属していない外集団には均質でステレオタイプであるとみなすバイアスのこと


人は自己肯定感の欲求から自分が所属するコミュニティを特別視したくなるため、コミュニティ外の他の組織を同じような存在としてその特徴を軽視してしまいます。
ビジネスシーンで考えると、井の中の蛙状態で、競合を過小評価してしまうリスクとなります。
特に意思決定がなされる会議においても外集団同質性バイアスが影響を及ぼし、多様な視点や意見が十分に出されづらくなる可能性があります。

自社を取り巻く市場視点を組織内に取り入れていくためには、戦略会議をどのように工夫できるのでしょうか?

▶︎市場の情報を取り入れるアジェンダ設計

方針を検討する会議の場では、手元にある情報で議論が進みやすいため、注意しなければ議論は内向きになります。
そのため、市場の情報を取り入れるアジェンダ設計が必要です。

『戦略を実行できる組織、実行できない組織』の中では、定めた最重要目標と先行指標に基づいて実行していくためにアカウンタビリティのリズムをつくることの必要性が述べられています。
アカウンタビリティを果たすために必要な情報を整理の上で参加者の多様性を考慮しながら、市場の特徴を吟味するアジェンダが有効です。

たとえば、ヤマト運輸はボトムアップの仕組みとしてエリア戦略ミーティングを年に数回行い、経営陣が各地に出向き現場から直接提案や報告を吸い上げる会議体を設計しています。
東日本大震災の際には、現場の声によって社会のニーズに合わせた会社の動きを決められたとされています。

また、サイバーエージェントでは、あした会議という合宿形式の会議を年に1〜2回開催しています。
参加者は執行役員が事業責任者や専門分野の人材を選抜し、市場の動向や強化分野を定め、現場からのアイデアや課題を収集しています。
これにより、中長期のリスクを回避し、攻めと守りの両面に対応できる仕組みを築きました。あした会議によって、2021年末時点で累計売上高約3,259億円、営業利益約455億円を創出したとされています。

市場の情報を取り入れるアジェンダを設けることで、会議の参加者は事前に準備をすることができます。
人は集団の意思決定において合意形成を図ろうと浅はかに判断してしまうグループシンクが作用するため、会議体の目的として市場の視点を取り入れることを確立していなければ、外集団同質性バイアスによって、「A社と違って当社は工夫しているから大丈夫」と他社の動向を軽視して市場のニーズを見逃してしまう可能性があります。

※グループシンクについて

▶︎思考を言語化する発言機会を設ける

外集団同質性バイアスを防ぐには、自己肯定感のための”分かっている振り”を解消することが必要です。
会議は意思決定や問題解決のために重要な場ですが、「B社の強みは〇〇であるから当社の脅威にはなりえない」と”分かっている振り”することは危険です。

その防止策としては、発言機会を増やすことで自主性を養うと同時に、自らwhyとhowを言語化させて、市場のニーズと沿っているかを見つめ直すきっかけをつくることが有効です。

たとえば、グーグルは小さな会議が多く開催されやすいように、オフィスの設計においても共有スペースやカフェテリアを工夫することで、対話を促進されています。

人の集中力の波は15分周期であるため、人の話を聞くインプットと、自分の意見を発言したり考えをまとめたりするアウトプットの時間を15分周期で組むことがポイントです。
会議は参加者それぞれの視点をアウトプットさせるファリシテートが重要となります。
外集団同質性バイアスを防ぐために、事実、根拠、論理を数字で言語化できることが理想です。

ソフトバンク流の会議術を題材とした『最高品質の会議術』では、定例会議はPDCAを回すエンジンと重要視されています。
日常では自身の業務に集中しているからこそ、外集団同質性バイアスを乗り越えて俯瞰する機会をつくれるかで事業の提供価値は変わるのではないでしょうか。

さりげない場面での情報インプットの蓄積が行動に影響するため、情報流通の工夫が組織力を高めます。
※プライミング効果について

▶︎価値向上を追求する健全な市場競争

日本のテクノロジーはiモードが台頭した時代までグローバルを先駆けていたものの、その後のスマホ/クラウド時代において国内競争で互いに鎬を削り合っていた結果、いつの間にか遅れてしまっていたとの意見があります。
資本主義における企業競争は①価値競争②価格競争のどちらかの帰着しますが、他社が顧客に提供するために磨いている価値を認めずに②の価格競争に陥っていては、次第に両社ともに競争力が低迷していきます。
アップルが顧客価値を追求して「行列ができても買いたくなる」ブランド戦略を打ち出している時期にソニーは「手頃に手に入れることができる」機能的価値を追求していた結果、出遅れてしまったとされています。

外集団同質性バイアスに打ち克ち、他社の特徴を認めて、自社のコアコンピタンスに向き合い、それぞれのプレイヤーが競合他社の強みと差別化自社だからこその価値向上に努めることで、顧客に対する価値提供が向上していきます。

そのため、市場の視点を取り入れるために会議体を有効的に活用していくことが肝要です。
会議が内向きであれば、ドラッカーの説く「組織の内部には、成果は存在しない。すべての成果は、外部の世界にある」となり、コストが発生し続け、顧客に提供する価値を創出することができません。
会議はリズムをつくり組織の実行力を高めることもでき、交わされる情報の質、そして思想次第で市場視点で自社の提供価値を考える人財育成としても機能します。

※本noteでは、人の可能性を拓く組織づくりのための新しい気付きを届けることを目的に、組織論とケースを考察していきます。
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