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事業成長を加速する採用計画の考え方
会社経営において成長率を考える際に、組織の成長と事業の成長が比例するとの前提に立ってしまいがちですが、事業の成長と組織の成長が比例しないことに、成長率をコントロールすることの難しさがあります。
なぜ事業の成長と組織の成長が比例しないのか?
それは、事業は市場の外的要因を受け、組織は人の内的要因を受けることになるからです。
A.事業成長を左右する要因
:競合他社の動向、顧客ニーズの変化、景気、法律の変化、技術革新など
B.組織成長を左右する要因
:硬直化、コミュニケーション不全、ビジョン形骸化、エンゲージメント低下、マネジメントスキルの不足、職能スキル不足、配置不適合、人手不足、退職など
社内の問題を山積みにしたままでは競争に勝って成長を維持することは難しく、市場では負けているままで活気のある組織をつくることは難しいため、両者を左右する要因は複雑に絡み合います。
その上で、事業が受ける要因はコントロールが難しいからこそ、”組織構造は戦略に従い、 戦略は組織能力に従う”の原則で、組織能力を高めるための採用力を高めることが重要な切り口となります。
多くの企業では採用計画を立てる際に、目まぐるしい変化と不透明な市場環境の中で、短期的なニーズに捉われて、中長期の視点を持つことに苦戦してしまいます。
今回は事業成長を加速することを軸に、採用計画の考え方を整理します。
(1)経営計画と採用計画の連動
採用計画は経営計画に連動します。
その背景は下記の経営戦略⇄事業戦略⇄機能別戦略の連動性で示されます。
①経営戦略:会社としての長期的な方向性を定めるための経営資源の配分を決める
意思決定者)取締役
ex)ビジョン策定、M&A、ファイナンス、グループ会社経営など
②事業戦略:競争環境における企業目標を達成するための事業方針や計画を決める
意思決定者)事業責任者
ex)ビジネスモデル検討、市場分析、業務提携など
③機能別戦略:事業運営に必要な機能の実行方法を決める
意思決定者)部門責任者
ex)組織人事、セールス、マーケティング、エンジニアリング、経理財務、R&Dなど
採用計画の策定は組織人事機能の役割に該当します。
機能別戦略の実行として各部門の人員のニーズを集計した上で、事業戦略、経営戦略と接続することが必要となりますが、現場間、経営間といった各所での優先度と資金のすり合わせで数ヶ月のスケジュールを要することもあります。
また、採用計画を実行する上で資金は人件費としてコストが帳簿上に示されるものの、採用を通じた収益向上は帳簿上に示されることはなく、採用→収益向上までのプロセスには変数が多いことによって数値化が容易ではありません。
そのため、採用計画は事業状況の変化に加えて、意思決定者の意見の変化によって変動性が高いことが前提となります。
経営戦略、事業戦略との接続には相応の知見が必要となることから難易度は非常に高く、多くは上位下達となりますが、下意上達に起案できると、より実現度の高い組織人事戦略が立てられることから、事業責任経験を経た組織人事責任者が重宝されたり、経営層が直接管掌することがあります。
それほど、経営計画と採用計画の連動は難易度が高くも事業の成長率を変える重要な位置づけとなるのです。
(2)採用計画の策定
各部門と経営層とすり合わせをしていく上で、どの機能を拡充し、事業を成長させていくのかを整理するために具体的な月単位での要員計画を立てることが必要となります。
要員計画に過度な不足があれば事業が停滞し、過度な余剰があればコストが増えしまうため、算出ロジックが重要です。
その算出ロジックには主に下記のような材料があります。
①市況変化:各指標に影響を及ぼす外部要因を想定する
②事業計画:何を実現するために配置するのか基準を設ける
③人材配置の構想:経営体制の変更、昇降格、異動の理想を持つ
④区分ごとの一人当たり生産性:人数による各指標の影響度の根拠を持つ
⑤過去売上推移と将来売上予測:必要人数の根拠を持つ
⑥過去離職率推移と将来離職率予測:個人の人生選択に100%の予測をつけることは不可能であるため、退職係数でリスクヘッジする
⑦平均年収と仮の人件費予算:いくらまでの予算を確保すべきかを比較の基準を持つ
要員計画で機能ごとに具体的な人数を明確にした上でその不足分を採用するために採用計画として下記を策定します。
①エントリーから入社までの採用各指標の基準値
②採用単価
③月毎の採用人数
④採用スケジュール
⑤母集団形成のチャネル明確化
⑥実現したい戦略構想と組織像
⑦採用競合の動向と差別化の方針
要員計画では事業計画を基準に定量を軸にロジックを立てることになりますが、採用計画では人の集合体である組織の理想像を描くことがポイントになります。
特に⑥実現したい戦略構想と組織像を言語化する中で、イメージが湧かない部分により重要な採用ニーズが隠れています。
ドラッカーは「企業文化は戦略に勝る(Culture eats strategy for breakfast)」という有名な言葉を残していますが、組織は人の栄養バランスと同じく、人の個性の組み合わせによって発揮される組織力が異なるため、カルチャーデザインの視点を採用計画に取り入れられているかで、実現できる戦略と組織の成長が変わります。
採用候補者との出会いもご縁であるため、自社の成長に寄与できる素質の採用候補者を計画外にでも採用できるように、その判断基準を定性的にまとめておくと良いでしょう。
(3)採用計画の実行
初回接点からから入社までには選考プロセスや労務手続が不可欠であることから、各機能の採用計画の達成には数ヶ月(目安2ヶ月以上)が必要になることに注意しなければなりません。
走り出してから非現実的な要件や採用方法だと気付いても数ヶ月の遅れになり、採用から戦力化までのリードタイムも加味すると事業計画の遅れはさらに致命的になります。
そのため、採用計画の実行のタイミングで成功率の高いアクションプランを立てられるかが勝負となります。
成功率を高めるためには下記の観点を具体的に要素分解して人材要件と採用基準を整理することがポイントです。
①任せたい業務内容
ex)小売業界向けの既存顧客100社のカスタマーサクセス対応
②人物像
ex)快活なコミュニケーションを取って顧客との関係構築ができる
③期待したい行動
ex)マルチタスクでも優先順位をつけながら、顧客の要望を言語化してチャーンを未然に防ぐアクションが取れる
④見極め方法
ex)過去の経験において顧客からの信頼獲得を取るための工夫を重ねたエピソードがあるか
採用の難しさは僅かな時間かつ多くは初対面の面接官がそれぞれの主観で人を判断することにあるため、上記はできる限り精緻にすることが、採用の機会損失を防ぐ効率的な目線合わせにつながります。
たとえば、AMAZONでは、Our Leadership Principlesという14項目のリーダーシップの原則を採用段階で見極めることを重視しており、顧客志向や採用、育成、決断、対話などの人材要件を抑えています。
また、人材要件を明確にした上で、実際に採用を成功させるためには相手が感情を持つ人であることを理解して、想定ターゲットの心情変化を捉えるジャーニーマップでタッチポイントごとの課題とアクションを整理していくことが実行のPDCAを回すためのポイントになります。
なお、採用計画の達成の目的は事業計画の実現にあるため、採用計画の実行を追いかけながらも、組織内の変化にも目を向けて、既存メンバーの引き上げも併せて検討することも必要です。
以上のように採用計画は何を前提として策定していく実行するかで、事業の成長率に対する影響度が異なります。
えてして計画を数字に落とし込むことだけに安堵すると、市場の変化に対応できずに、事業の成長と組織の成長の乖離が大きくなってしまうため、目的に立ち返りながら、こまめに磨き続けることがWar for Talent時代の競争力となるのではないでしょうか。