組織図デザインの検討ポイント〜機能別、事業部別、マトリクス〜
1964年チャンドラーは「組織は戦略に従う」、1978年アンゾフは「戦略は組織に従う」との理論を主張しました。
日本語訳ではどちらも組織と訳されていますが、チャンドラーの指す 「組織」 とは「組織構造(Organizational Structure)」を意味し、アンゾフの指す 「組織」 とは 「組織能力 (OrganizationalCapability)」を意味しており、「組織構造は戦略に従い、 戦略は組織能力に従う」と解釈することができます。
IT化の進む現代では、サービスの模倣がしやすくなり、市場変化にスピーディーに対応しうる組織体制を構築することが重要な経営テーマとなっています。
人を人的資源、「投資価値を持つ生産資源」としていかに人が力を高め、発揮できる組織にできるが競争優位性となるのです。
今回は、組織能力をどう捉え、組織構造をどう設計して運営していくことが組織力を高められるのか、組織図デザインの検討ポイントを整理します!
(1)組織設計の前提条件
集団と違い組織は、「共働によって効率的に共通の組織目標を達成することを通じて、各個人が得られるメリットを最大化すること」にあります。
個の時代が謳われ、組織に所属しない働き方も選択肢になっている前提の上で、組織に所属するメリットは個人で活動する以上のものであることが重要となります。
「早く行きたければ、一人で進め。 遠くまで行きたければ皆で進め」とのアフリカの諺が示すように、組織だからこその道のりを歩めるか。
そのため、組織が組織たるは下記が設計の前提条件になります。
Q1.組織目標が共有化されているか?
各個人はさまざまな個性があり、やりがいや経済的報酬、成長、名誉、安心など、それぞれの欲求があり、かつ可変的であるため、同じ方向に進むためには共通の目標が必要となる。
目標に対する当事者意識を持てるように、目標とチームを細分化することが重要。
Q2.合理的な分業と共働によってシナジーが生じているか?
個人活動以上の活動成果を実現できなければ、経済的報酬や心理的報酬と享受できるメリットが高まらない。
ただの集まりにならないように、生産性を測ることが必須。
(2)組織設計の観点
①行動心理起点
組織能力は各個人の個力の相乗であるため、人の行動心理を起点とした設計が第一要件となります。
貢献意欲、功名心、挑戦心、競争心、自己実現欲求といった前向きな心理もあれば、不安、不満、嫉妬心、変化への抵抗、リスク回避といった後ろ向きな心理もあることを理解して、どのような仕組みにすると人がどのような行動を起こすのかを想像することが重要です。
②フォーカスオンインパクト
マルチタスクは生産性を著しく低下させる傾向にあります。
組織を設計することは、それぞれの共通目標を定めることが前提となるため、何にフォーカスさせるかが重要です。
個人の活動のパターンと範囲を限定、固定化するからこそ、判断と作業が単純化され、複雑性の低減と習熟の効率化によって組織の活動効率は向上します。
③指揮命令系統
例えば、営業企画をコーポレートに設置すると数値面等の管理的な意味合いが強まり、セールス部門に設置すると現場のサポートの意味合いが強くなります。
このように指示命令系統の設計によってコミュニケーションの流れと内容が変化することを踏まえて組織図の最適解を考えることが重要です。
④戦略合理性
事業戦略と組織が合理的に整合していないと各個人は納得感を持てずに行動力が低下します。
戦略を実行するために組織構造を設計するとの前提に立ち、チーム構成、目標、役割、権限、責任を設計することが重要です。
⑤デメリット受容
各個人の欲求が多様かつ可変的であり、組織構造が権利や機会を決める重大なファクターである以上、everyone happyは極めて難しいことが現実です。
そのため、どのメリットを追求することが最優先なのかを決め、デメリットを振り切らなければなりません。
⑥長期視点
人・組織にはラーニングカーブがあるため、組織構造を変えると業務フローが変わり目先の効率が一時的に低下する可能性が高くあります。
短期的な視点ではなく長期的な視点でメリットを想像することがを優先すると重要となります。
⑦脱マンネリ化
人は変化への抵抗が無意識に高まっていくため、意図的に組織を変えていかないと、組織はすぐに保守化、硬直化、肥大化します。
常にエネルギッシュな文化を作るためには、定期的に組織編成を変えていくことが有効です。
⑧メッセージ性
人の配置は組織の方針を示すメッセージとして現場に受け取られます。
どのような人が抜擢され、どんな機会があり、どの方向に進もうとしているのかがメッセージ性を吟味することが重要です。
⑨最適配置
エース級の人ほど多彩なポジションでの活躍が期待できる、一方、能力に応じて妥当なポジションが用意できないケースがあります。
人の能力とポジションの戦略的重要度の掛け合わせの中で、誰を何を任せるのかによって、組織の生産性が大きく左右されるため、戦略に応じた最適配置を勘案しなければなりません。
この際、パーフォマンスを最大化するために、個人の欲求を考慮することがポイントです。
⑩情報流通
組織構造が情報の流れが固定します。
どんなに各個人が情報のシェアを工夫したとしても属人性が高い状態では限界があり、かつ特に情報を上から下に流すこと、下から上から流すことの障壁が高くなりやすいため、情報流通の最適化を考えて組織構造を決めることが重要です。
(3)組織形態の代表例
A.機能部制組織
・高度経済成長期の大量生産、大量消費型のマーケットで重宝された。SaaSのThe Modelなど面を取りにいくビジネスにも向いている。
・単一事業や複数事業でも事業のKFSが一つの機能に収斂している組織に特に有効。
・機能の効率的運用が可能。機能ごとのノウハウや専門性が蓄積されやすく、質の高い専門性を形成することができる。
・機能ごとの専門的なモノの見方に偏りがちで、全社的な発想ではなく自部署の利害を優先した部門主義の発想、セクショナリズムに陥りやすい。
・自部門の都合が優先されるため、市場への目もおろそかになり、マーケットを重視する姿勢が生まれにくくなる。
・サービスに関わるコストの実態が見えにくく、利益責任の所在も不明確になりがち。
B.事業部制組織
・大量生産、大量消費型の終焉によってマーケットイン戦略が必要となった時代の流れで重宝された。
・各事業ごとに機能を確立して事業ごとの完結性が高く、事業責任者の意思決定により組織が動くことができるため、個別マーケットに対して迅速で最適対応が可能となる。
・セクショナリズムが抑制され、機能間の連携が促進される。
・事業責任者の権限と責任が集中するため、負担は大きくなり、適材のハードルが高くなる。
・強力な権限を有する事業責任者が個別事業の最適化を図るため、全社視点の意思決定が難しくなる。
・事業部ごとに機能を設けることで機能の重複が増え、必要な人員が肥大化しやすくなる。
C.マトリクス組織
・企業規模の拡大や複雑化に応じて情報の偏りが生じることを防ぐために重宝された。
・各チームはニつの事業と機能のそれぞれのミッションを担い、二つの指示命令系統を持血、直面する課題に応じて、柔軟に動くことができる。
・二軸の管理で人員を最小限に抑えやすくなる。
・二つの指示命令系統の中でコンセンサス形成が困難となり、現場が優先順位をつけられず混乱しやすい。
※近年では、組織の階層を減らしたフラット型組織が注目を浴びていますが、フラット型組織の前提条件として、構成メンバーのレベルの統一が必要になること、能力に応じて役割を持てない人が出てくること、コミットメントを引き出す求心力のハードルが高まること、情報流通の加速と制限が難しくなることから、今回の記事の主旨から考察対象外とします。
(4)組織設計ステップ
STEP1.プロジェクトの編成
組織構造の変革は、権利や機会の再配分が伴うため、各個人の既得権に基づくバイアスに左右される左右されないように、全社最適で俯瞰した検討が必須となります。
そのため、不平を生まないようにプロジェクトチームの大義と権限を編成することがポイントになります。
また、情報の守秘やメッセージ展開の設計は慎重にならなければなりません。
STEP2.組織課題の整理
現状(As-Is)と理想(To-Be)のGAPを、企画、意思決定、調整、評価、実行の5つの機能の観点から組織課題分析することが有効です。
特に、実行機能上の重複や漏れが誰が何をするのかの混乱を招くため、責任、権限、資源、報酬の4つの運営要件の設計を確認する必要かがあります。
STEP3.ポリシー策定
everyone happyは極めて難しいことが現実であるため、意思決定の土台となるポリシーを策定しなければ、さまざまな立場の観点からロジックがぶつかり収集がつかなくなります。
ポリシーが具体的すぎると窮屈になり、曖昧だと判断軸にならないことに注意が必要です。
STEP4.3Sの検討
下記の3つの視点で検討を進める。
・strucure:最重要管理ポイントを定め、組織編成や人数を検討する。
・system:情報の流れを整理し、会議体や権限を検討する。
・stuffing:ポジションの戦略的重要度を考慮して、人材配置を検討する。
STEP5.移行準備
組織編成の狙いが各個人に理解されなければ、絵に描いた餅に画餅に終わってしまうため、ムードの醸成や研修で理解と受容度を高めることが必要となります。
ミドルマネジメントの説明力もポイントになるでしょう。
STEP6.定着化
人は変革に対してネガティブな印象を持ちやすいため、変革の成果を検証して意義を浸透することで新しい行動や思想を定着化させることが不可欠です。
そのために、当初の目的に立ち返り、新しい行動パターンの変化と成果のモニタリングが必要です。