リサーチ8. HRtech×All-in-One〜人的資本を開花させるPersonio〜
日本では介護や医療、アメリカでは物流、ヨーロッパでは建設と、先進国の多くで、労働市場の供給が需要を下回り、人手不足の課題に直面しています。
人手不足は出生率の低下に伴う単純な労働人口の減少もあれば、技術革新に伴うデジタルリテラシーや専門技術の不足も要因とされています。
そのため、企業の持続可能な発展を促進するための透明性と説明責任を高めることを目的とした国際組織GRI(Global Reporting Initiative)
によって、2000年初頭から人的資本開示に関するガイドラインが策定し始められました。
GRIでは下記の項目の開示が推奨されています。
昨今の日本においても概ね上記のような項目の開示が求められています。
日本と同じように自国の出生率の低下で人口が減少しながらも、移民を受け入れて経済成長を遂げているドイツでは、政府主導で産官学連携体制のインダストリー4.0が掲げられて、その波及効果で、HR techも急速に浸透しました。
特に、人的資本経営に資するような、データ分析や予測分析を活用したタレントマネジメントが注目されています。
今回は、ドイツからヨーロッパを中心にAll-in-One ソリューションを展開するHRtechユニコーン企業のPersonioを取り上げます!
▶︎All-in-One
All-in-Oneとは、対象となるユーザーが複数の異なるSaaSを活用する不便さに対して、利用する複数機能を自社のプロダクトで揃えていく戦略です。
SMB向けのバーティカルSaaSで取り入れられることが多く、ユニコーン企業のServiceTitan、Toastが代表例です。
All-in-Oneの特徴は下記。
All-in-Oneはユーザーの満足度を高め、LTVを最大化する戦略として注目されています。
▶︎Personio
ドイツを中心としたヨーロッパでSMB向けにAll-in-One戦略を展開しているHR techスタートアップがPersonioです。
Personioは、2015年にドイツのミュンヘンで創業されました。
創業者のHanno Rennerは、ドイツの著名な技術大学であるミュンヘン工科大学で機械工学を学びながら、さまざまなスタートアップでインターンを経験して、中小企業のHR業務が非常に煩雑で効率が悪いことに気づき、その問題を解決するために起業しています。
“Unlocking the power of people around the world”(世界中の人々の力を解き放つ)を掲げて、下記のようなAll-in-One機能を提供し、人事部門が戦略的な役割を発揮できる世界を目指しています。
これら従来の非効率的な人事業務をテクノロジーによって生産性向上を図るとともに、データの利活用を通じて人的資本の可視化ならびに活躍を促進しています。
また、自社のAll-in-One戦略を推進しながらも、200以上のアプリとの連携を可能とし、ヨーロッパを中心に14,000以上の企業で利用されています。
特に、ユーザーフレンドリーなインターフェースをテーマとしたUXUIと、地域ごとの法規制やビジネス習慣に対応したカスタマイズ性を強みとすることで、SMBを対象に面を獲得することができています。
PersonioはSMBを開拓するにあたり、ダイレクトセールスやカスタマーサクセスを注力しながらも、フリートライアルによって顧客満足度を握るProduct-Led Growth要素でファネルの確保に成功しています。
Personioは2016年のシードラウンドから毎年のように億円単位の資金調達を重ねており、2021年のシリーズEでは、Greenoaks Capital Partners、Index Ventures、Accel、Lightspeed Venture Partnersから2.7億ドル(1ドル=150円とすると約400億円)の資金調達に成功しています。
※ Lightspeed Venture Partnersは日本ではHRtechの SmartHRに投資。
このように、Personioは顧客満足度の高いAll-in-Oneを展開することで急激に顧客数を増やすことに成功して、人手不足の課題に伴う人的資本の活躍のトレンドに乗ることができている事例です。
Personioは生成AIを活用した機能強化も推進しており、HRtechのポテンシャルを考える先行事例としても要注目です。
▶︎まとめ
日本におけるHR techは高度経済成長期の日本的経営(労働組合、年功序列、終身雇用)が土台となり安定的な大規模採用と従業員管理が特徴となっていることに対して、ドイツは移民を中心とした労働市場の柔軟性に対応しながらHR techが発展してきたとの相違点があります。
日本は慣習的に残業が多いことに対して、ドイツは残業の法規制も強いことで労働時間の管理に対する違いもあります。
しかし、これからの日本は多様性に対応したタレントマネジメントや労働時間の管理が必要になることから、HRtechを通じて、従来の慣習からの脱却が迫れられていきます。
また、ドイツでは労働組合が強く、データ保護規制(GDPR)が厳しく適用されて個人情報の管理が重要な課題となっていることに対して、Personioは技術的にデータセキュリティやコンプライアンスにも対応していることが急激な展開の下支えとなっています。
ヨーロッパではクラウドが浸透してSMB向けには標準化されたプロダクトを提供して、カスタマイズ性が求められることが少ない一方で、日本で従来のオンプレミスが残っていることでカスタマイズ性が求められることもHRtechの浸透の障壁となっています。
少子高齢化で人的資本の活用が事業の競争力に直結していく日本において、組織力を高めてくるHRtechの変革に要注目です!