ケース25. プライミング効果〜エンゲージメントを高める情報流通〜
▶︎組織と個人のすれ違いを防ぐためにできることは何か?
組織の状況や方向性が分からずに人それぞれ意識していることがバラバラになっていると感じることはないでしょうか?
経営の視点:
・組織方針に沿って優先順位をつけてほしい
・情報をどこまで共有するかの線引きが難しい
現場の視点:
・自分の貢献度が分かるとやりがいがある
・組織の全体像を把握することが難しい
ティール組織やネットワーク型組織、自律駆動といったワードが注目を浴び、その要件として情報の透明さが工夫されるようになりました。
しかし、現代ではさまざまITシステムによって細かな数字の統合分析や、定性情報を集約しやすくなり、可視化がしやすくなった一方で、情報過多にもなりやすく、ベクトルを揃える難易度が上がっています。
そこで、プライミング効果という概念に用いて、組織方針に沿った行動を促進する情報流通の工夫を考察します。
▶︎プライミング効果
マーケティングの分野で応用されている概念で、例えば、ブランド戦略を強みに年間1兆円以上の売上を誇るレッドブルでは、「翼を授ける」と身体的活動を想起させるのキーメッセージとスポーツスポンサーシップ活動のPR活動によって、活力を得たい時に購買意欲が高められるようなプライミング効果が発揮されています。
プライミング効果は下記の二つがあります。
プライミング効果はさりげない場面での情報のインストールによって、人の行動を促進できることから組織開発に応用することができます。
それでは、プライミング効果はどのように工夫できるのでしょうか?
▶︎オープンな経営のメリデメを把握する
部門別の採算を可視化した京セラのアメーバ経営や、財務状況/経営指標を可視化させたオープンブックマネジメントを始め、経営方針や経営会議の議事録といった定性情報を公開するオープンな組織運営スタイルがあります。
プライミング効果を踏まえると、日々触れる情報が無意識に日々の行動に影響を及ぼすことから、下記のようなオープンな経営のメリットとデメリットを想定することがポイントです。
北野唯我さんの著書『OPENNESS職場の空気が結果を決める』の中ではオープンな経営と業績には相関性があるとされ、オープンな経営の阻害要因の一つに、「トップから伝えられた戦略·事実がレポートラインにのっとって報告されるうちに、少しずつねじれ、本来の意図とはまったく違う形で現場に下りてくること」を示すトーションオブストラテジー(戦略の捩れ)が挙げらています。
プライミング効果による意図しない行動が生じるリスクを抑えるには、ただオープンに情報を共有するのではなく、意図した情報が捩れずに浸透されるように設計することが重要となるのです。
そのためには、予め情報流通の目的を精査することや、解釈のすり合わせをタテとヨコの関係でも定期的に行う機会を設けることが望ましく、「〇〇をすると組織貢献にもなる」と因果関係をクリアにすると、戦略に対してベクトルを合わせやすくなります。
「今は利益率が低いから利幅の高い商談に注力した方が良い」、「△△部門の人手が足りていないからサポートしていこう」といった行動が誘発されることが、オープンな経営の理想ではないでしょうか。
『戦略を実行できる組織、実行できない組織』では、下記のような規律を設けることが組織としての実行力を高めるとされ、情報流通の対象、可視化、責任所在の明確化の流れを重視されています。
・第1の規律:最重要目標にフォーカスする
・第2の規律:先行指標に基づいて行動する
・第3の規律:行動を促すスコアボードをつける
・第4の規律:アカウンタビリティのリズムを生む
プライミング効果をうまく活用して、組織の共通目的が浸透して、その目的達成を繰り返すことでチーム効力感が高まっていき、組織の勢いをつけることができます。
※チーム効力感に関する記事
▶︎細部のメッセージングにこだわる
無意識に生じるプライミング効果は、日々の発言がトリガーになります。
そのため、職場内で失敗に対する叱責が多ければ、意図せずとも「〇〇はやってはいけないのか」と行動を抑制する恐怖政治にもなり、些細な賞賛が多ければ「△△はやった方が良いのか」と行動を促進するポジティブ文化にもなります。
立場に応じて、その影響度合いは変わるため、発言に責任を持つことが必要なのです。
会議などの公式の場で、受け手にどんな変化を起こしたいのか狙いを持った総括の役割を機会として設けていくことが訓練になります。
KPIなどの共通指標に関する発言が多いほど、直接プライミング効果が発揮されて、KPI実行率は高まると言えるでしょう。
チームのなりたい姿の共通認識を図り、共通ワードを掲げて、チーム内で飛び交うことも有効です。
また、間接プライミング効果の観点では、日々職場環境で触れる情報の設計も重要です。
例えば、バリューワードをオフィスの至る場面で視覚的に触れられるように設計すると、さりげない場面でバリューに沿った行動が誘発されます。
社内報やSlackチャンネル/スタンプなどもプライミング効果に影響を及ぼすことを想定してMVV浸透施策を設計することも有効と考えられます。
なお、言葉の力は時に強烈にマインドを抑えてしまうため、数字の背景にある意義を補足せずに量的目標のみが一人歩きすると、マクナマラの誤謬に示されるような誤った方向に導いてしまうことに注意しなければなりません。
※マクナマラの誤謬に関する記事
▶︎組織と個人を繋ぐための情報共有
一橋大学の楠木建教授の著書『ストーリーとしての競争戦略』では下記の一節があります。
また、Google社の組織開発を担われたピョートルさんの著書『心理的安全性 最強の教科書』では、成果を出すことや意思決定のために必要な情報にアクセスできることは心理的安全のために重要と述べられています。
情報化社会で個人はさまざまな他社に触れることができ、不平不満は生じやすくなり、ブリリアントジャークのように影響力の高いネガティブな思考は気付かぬ蔓延していることがあります。
意図せずとも日常で触れる情報が人の意志判断に影響を及ぼすプライミング効果を捉えると、組織と個人のエンゲージメントを維持強化するためには、すれ違いを生みかねない情報不足と情報過多のどちらにも陥らないように情報流通を設計して、適切な情報が浸透していることが望ましいのでしょうか。
※本noteでは、人の可能性を拓く組織づくりのための新しい気付きを届けることを目的に、組織論とケースを考察していきます。
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