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リサーチ7.保険× 画像認識AI〜新時代の保険体験を牽引するTractable〜

保険の起源は、紀元前3世紀のバビロニアやギリシャ、ローマで商人たちが貨物の損失リスクを分散する貸付から始まり、中世ヨーロッパのギルドで共同基金を設立されたことが現代の保険の前身とされています。
17世紀のイギリスで、ロンドンのロイズ・コーヒーハウスが海上保険の引受所として機能し始めたことで保険業界は急速に発展し、火災保険や生命保険などが次々に開発されました。

このように共同によるリスク分散の社会インフラとして歴史の深い保険業界は、下記のような課題に遭遇して、変革を迎えています。

①テクノロジー活用のためのレガシーなシステムからのリプレイスコスト
②サイバー攻撃リスクの増加
③気候変動と自然災害
④個人情報保護などの規制とコンプライアンスの厳格化
⑤ デジタルネイティブ世代の顧客ニーズの変化


今回は、保険業界のAI活用を促進して、デジタルトランスフォーメーションを加速するTractableという海外スタートアップを参考に日常のDXの可能性を考えます!

▶︎多様な進化を遂げるInsurTech

保険業界のテクノロジーを示すInsurTechのトレンドは下記のように多岐にわたります。

①機械学習
より精密なリスク評価を行い、個別の顧客に最適な保険料を提供する。

②ブロックチェーン技術
保険契約やクレーム処理を自動化するためのスマートコントラクトが増加。

③IoT
IoTデバイスで収集したデータを使って個々の状態をリアルタイムにモニタリングし、保険料の調整を行う。

④オンデマンド保険/パーソナライズド保険
顧客のライフスタイルやニーズに基づいたカスタマイズされ、特定の期間だけ必要な保険が簡単に購入可能に。

⑤効率化
保険の申請や管理などのプロセスがスマートフォンアプリなどで簡略化。

上記のように、保険業界では、さまざまな技術革新を通じて利便性が追求されて、プレイヤー間の競争が激化しています。

▶︎Tractable

画像認識AIを活用した保険金請求や損害査定プロセスの自動化によって保険業界を変革しているスタートアップの一つがTractableです。

Tractableは機械学習を専攻し、AIの可能性に着目していたAlex Dalyac、Adrien Cohen、Razvan Rancaの3人の共同創業者によって2014年にロンドンで創業されました。

事故処理の非効率に焦点を当て、スマートフォン等で撮影した画像をもとに自動車および建物のコンディション評価や正確な修理見積が可能にするプロセス改善を開発したことで、大手保険会社や自動車メーカーから高く評価されて急激に事業を成長させています。

Tractableの数百万枚以上の膨大な画像データを学習しており、人間の専門以上の精度で損傷評価を実現して、向上させ続けることに競争優位性を有しています。

たとえば、事故発生時に撮影した写真を元に修理金額を算出する時間は約3分との技術力を強みとしています。
※通常は数日から数週間かかる

また、保険業界ではシステムがレガシーでリプレイスコストが高いことが障壁となっていますが、クラウドで提供されているため、導入が容易でスケーラビリティにも優れており、多言語対応や地域特化のアルゴリズムも開発されていることからグローバル市場での競争力に繋がることが評価されています。

自動車保険会社世界トップ100社のうち、20社以上がTractableを導入し、日本ではSOMPO、東京海上、三井住友海上、あいおいニッセイ同和損保などが顧客となっています。

さらには、自動車リサイクル業者向けに車の写真からリサイクル可能な部品を特定することで、アフターマーケットにも進出されています。

Tractableはこれまで主にInsight Partners、Georgian Partners、Ignition Partnersなどの著名なベンチャーキャピタルから投資を受けて、2021年6月にシリーズDラウンドで6000万ドルを調達し、イギリス初のユニコーン企業となり、シリーズEではビジョンファンドを含めて、6,500万ドルを調達しています。

北米、ヨーロッパ、アジアなどのグローバル展開も強化されたり、台風が多い日本では建物の損害査定事業をメインに展開したりと、市場特性を合わせた戦略を打ち出しています。
建設業界や農業分野への進出も視野に入れており、画像認識AIを強みにグローバルの伝統的な保険業界を変革していく挑戦されています。

▼まとめ

東京海上日動火災保険がフィンランドの衛星スタートアップICEYEと協業して、自然災害に対する保険商品を変革したりと、壮大な変革が注目されるInsurTech。

市場の原理は売り手と買い手のマッチングであり、デジタルネイティブになっていく顧客のニーズの変化に適応できなければ、伝統的な既存産業も生き抜くことができない時代において、テクノロジー活用の動向は重要です。

世の中に確実性がない限り、必要とされ続ける保険業界を新時代を描くInsurTechの動向に要注目です!

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