憂いを帯びた女の顔は美しい
22歳の冬、好きな男に振られた。
初めて付き合った人だった。
家にいても、街にでても、
思い出が全力で追いかけてくる。
日常に居場所をなくした私は
ふと思い立って台湾に行くことにした。
初めての外国。初めてのひとり旅。
ガイドブックで見つけた路地裏のゲストハウスに着くと、私の顔を見るなり女主人が尋ねた。
「あら、失恋?」
なぜかばれてしまった。
「陰のある表情に真っ赤なリップ。憂いを帯びた女の顔は特別に美しくみえるものなのよ」
確かに、当時の私は赤い口紅を好んで使っていた。独りでもつよく生きられそうな真紅のルージュ。気が緩むと泣きそうだった私のお守り。
そんな私を労わるように彼女は言った。
「でも、大丈夫。旅が全部忘れさせてくれるわ」
次の日、彼女に勧められて朝市に出かけた。賑やかな露店で食べたおかゆは滋味深く、思わず笑みがこぼれた。
ひとつの恋を失っても、私は私の人生をまだ愛せるし大丈夫。そんなことを思える朝が来た。
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