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ADHDの頭の中(集団リンチ)

記憶の断片

転校先の小学校では比較的平和な日々が続いた。
ただ、ちょっと気になったのは、男の子たちが乱暴だったこと。

転校前の学校は、その地方の中では比較的都会だったせいか、体を痛めつけるようないじめはほとんどなかった。あったとしても意地の悪い女の子が手をつねってくる程度のものだ。

でも、よくわからないけれど、転校先の田舎の小学校ではひとりひどくいじめられている男の子が居たのは憶えている。吃音があり、上手く喋れないのでいじめられていたようだ。けれど、彼については先生も注意していたようで、怪我をするような酷いいじめられ方はしていなかった。

新しい学校にきて、とくに問題が起こるということでもなく過ごしていたが、声が小さく内向的なわたしは似たような状態の女の子たち4人でグループを作っていた。
そのクラスでは班ごとに行動する事が多く、座る座席も班で固まっていた。

わたしはどうもいじめっ子から目をつけられることが多く、同じ班ではないボスみたいな女の子に目をつけられてしまった。彼女は体が大きく、柔道を習っているとかで、柔道で習った技を男の子に仕掛けて問題になるなど、いろいろ問題が多い子だった。
そんなだから、彼女には親しい女子の友だちが居なかったように思う。

「あんたは転校生でいろいろわからないでしょうから、わたしが友達になってあげるわ。感謝しなさい」
といって、わたしに近づいてきた。(本当に余計なお世話だった)
あまり仲良くしたくない相手だったけれど、うちに来いとうるさいので遊びにいったら、おもちゃとか遊び場の自慢が延々続いた。そしてしまいには
「うちのパパは社長なのよ。あんたみたいな貧乏人の子とは違うのよ」
と言い出す。これでは友だちが出来なくて当たり前だ。こんな程度の悪い社長令嬢って何なの?漫画に出てきそうな意地悪をいう子がいるなんて、どういう世界なんだよ?と思いつつ、機嫌を損ねると面倒なので遊びにつきあっていた。
ところが、自分の遊び場である近所の用水路に連れ出し、突然背中をドーンと押された。

すると彼女は、自分で突き落としたくせに
「キャハハハハ!本当に落ちるなんて、なんて鈍くさいの!しょうがないわねー ほら」
といって手を差し伸べてわたしを助け上げた。そして、自宅に戻るや
「ママー、この子川に落ちたのよ。着替えさせて」
(いや、アンタが落としたんでしょ?)
わたしはそのY子のおさがりのジャージを着せられ、家に送られた。

「川に落ちたので、娘のおさがりのジャージを着せてきました」
っておばさんは言ってたけど、落ちたんじゃなくて落とされたんだよ。
わたしは母に、落ちたんじゃなくて落とされたんだと言ったけれど、母は
「そういう子のうちにはもう遊びに行かなければいい」
と、別に気に留めるでもなかった。

思えば母は、この頃父との関係がいよいよ悪くなり、わたしの訴えに反応できるほど心の余裕はなかったのだと思う。

ジャージは洗って返したが、その後誘われてもわたしが無視を続けたので、Y子からは
「助けてあげたのに恩知らず」
と悪口を言われるようになった。自分で落としたくせに助けてあげたって・・・。

それ以降は、読書のところで書いた「親友」との出会いがあり、比較的平穏な日々が続いていた。ただ、わたしと親友、その他2人の4人グループはみんな大人しく、どちらかというといじめられがちな集団だった。

それ以降の学校での出来事は、長い間記憶の中からすっぽりと抜け落ちていた。

そんな中、ある日事件は起こった。

これが、わたしが思い出したことだ。

先生が不在で自習となっているときに、突然学級会が始まった。
「4班の人たちがおしゃべりしてみんなに迷惑をかけたと思います。」
4班(仮)とは私たちのグループだ。おしゃべりっていつのこと?迷惑ってどんな迷惑?
私たちは「そんなことしていない」と訴えても、よくわからない多数決でクラスが4班に迷惑をかけられたと断罪されてしまった。
クラス委員が「4班に迷惑をかけられたと思うひと」と挙手をもとめると、Y子や子分の男子生徒たちがまず手をあげ、それから女の子たちがキョロキョロあたりをみて睨みに負けておずおずと手をあげた。

見ると、男子のうちの何人か、薄笑いを押し殺している奴がいた。
いじめられ慣れたわたしは気づいてしまった。
(しまった。はめられた・・・)

身に覚えのないことで断罪され、みんなの前で謝ることを強要された。
でも、悔しくて嗚咽が上がってきて言葉にはならなかった。

だが、火の付いた男子生徒の中から
「罰があたえられるべきだと思う!」
と、声が上がった。
「迷惑かけられた全員が4班にげんこつ」
と提案し、机に頭を突っ伏すようにさせられ、順番にげんこつで頭を殴られた。

女の子たちは、小さな声で「ごめんね」といい頭をなでていく子もいたが、男子は面白がって助走をつけて勢いをつけて殴る子もいた。
いくら子供の力だとは言え、30人以上の人間に拳で殴られているのだ、平気でいられるわけもない。私たち4人は、気分が悪くなり、吐き気も出てきて保健室に行くことになった。

いきなり4人の女の子が全員具合が悪く保健室に休みに来たのだ。
何も起きていないわけがない。
具合の悪い原因は保健室の先生の知ることとなり、教頭先生に連絡が入った。

教頭先生は保健室にきて、私たちにそのまま休んでいるように言い、教室に向かった。
私たちが休んでいる間に教室で教頭先生から話しがあったようだが、その内容は私たちには知らされなかった。

リンチは隠蔽された

翌日以降、クラスでその話題が話されることはなかった。
あんなことをしておいてと思ったけれど、彼らにとって私たちは迷惑をかけた悪いやつで、自分たちはそれを制裁しただけなのだ。
多分、教頭からも話があって箝口令をしかれたのだろう。

世間に知られれば大問題だ。だから、学校は隠蔽を選んだ。
たとえわたしがそれを何処かに訴えたとして、教室という密室みたいなところで行われたことだ。当事者に口裏を合わせられれば実証することさえ難しい。

そもそも彼らの言い分が本当に正しかったのなら、先生がいる場面で断罪すればよかったのだ。先生が居ない日を選んだということは、つまり最初から狙って弱い立場のものを断罪したということだ。

私たちは(少なくともわたしは)おしゃべりをして迷惑をかけた憶えはないし、ADHDだけれど、多動のない注意欠陥型でおとなしいほうだった。
おしゃべりどころか、無口で主張の少ない方だった。
すごく悔しかったけれど、その後そのような断罪ゲームが行われることはなく、わたしも思い出すのが辛いので、心に蓋をしてしまって、忘れ去っていた。

たとえばおしゃべりで迷惑をかけたとして、それが頭をけんこつで殴られる理由になるだろうか?私たちはクラスメイトに暴力を振るったことも怪我をさせたこともない。

おそらく彼らは「悪いことをすれば親に叩かれる」という経験をしてきたのだと思う。暴力はいけないけれど、親には子どもがどのように育ってどのような人間になっていくかということに責任がある。だから悪いことをすれば叩くのだ。

けれど、彼らは私たちにとって親でもなければ先生でもない。
たとえばそれで怪我や障害が残っても責任を取ることができない。
後頭部を殴って、怪我も後遺症も残らなかったのは、単に運が良かっただけだ。勢いをつけて殴れば、子供の力でも延髄に傷をつけて障害が残った可能性だってある。彼らのやったことは、大人がやれば立派な集団暴行で、傷害罪で収監される案件だ。

憶えのないことで断罪され、全員から殴られたことを思い出したことは、わたしの心にダメージを与え、その日、怒りで心臓がドキドキして眠れなかった。せめて、わたしの被害妄想であってほしいと、当時の同級生に連絡をとって話を聞いてみようかと思ったほどだ。

ともかく・・・世の親御さんに言いたい。

あなたたちが子どもに体罰を与えれば、子どもにはそれが悪いことをしたときの当然の罰と認識され、クラスメイトをこんな形で断罪するような事件も起こるのだ。

体罰は犯罪の温床だということを忘れないでほしい。


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