The BEATLES (White Album) PMC/PCS 7067-7068
年末なので、レコードの棚卸をしています。
一般的に、レコードプレスは①ラッカ(アセテート盤)マザー:凹 ⇒ ②メタルマザー(マスタ):凸 ⇒ ③メタルマザー:凹 ⇒ ④スタンパ:凸 ⇒ ⑤レコード:凹 という工程を経ます(②③をマザーともいいます)。ビートルズ(EMIレコード)の場合、スタジオで録音された磁気テープは、マスタリングされた後、併設されたカッティングルームでアセテート(ラッカー)盤が切られたそうです(カッティング職人はハリー・T・モスさんと言う方で、ビートルズのレコードをほぼ手掛けていたそう)。レコードプレス自体はヘイズ工場でパッケージ作業まで行われ、イギリス国内へ出荷された模様(他国へはコピーされた磁気テープが渡された)。
・「マトリクス」原盤の整理番号。アセテート盤のカット毎に末尾の枝番が「1」からつけられていきます。その後、アセテート盤がリカットされれば、枝番「2」となり、以降番号が繰り下がっていきます。ただし、最初のカッティング等が失敗すれば、「ハードデイズナイト」のように、いきなり「3」から始まることも。
・「マザー」「スタンパー」アセテート原盤から起こされたプレス用の金属性の鋳型。それぞれ作成順にコード番号が打たれています。レコードに刻まれた、この番号を辿ることで、番号が若いほどレコードの音の鮮度が上がる(と信仰されている)。ちなみに、ビートルズ時代では、スタンパはGRAMOPHLTD(グラモフォンもじり)の10文字が使われ、G=1,R=2・・・D=0で示され、たとえば「1G」なら初盤も初盤となり、「3GAD」ならマザー3番目、スタンパ130番目になるので、結構摩耗して音の鮮度が落ちた盤になる(かもしれない)。まあ、SSAでのライブチケットの席順が「1ブロック目の1列目」になるか、「3ブロック目の130列目」になるか、みたいな感じです。
もちろん、レコード個体の状態がそれぞれ違うので、若い番号だからといって、必ずしも良いとかはない、と思います。実際わたしの持っている「ラバーソウル」は「1G」もありますが、盤が傷だらけで針飛びが3か所くらいあるし、音もノイズだらけでとても聴けたものじゃありません(記念に持っているだけです)。
Ⅰ.PMC - 7067/7068 Mono No.025×××5
No "An E.M.I. Recording" credit (全面An E.M.I. Recordingなし)
マトリクスは全面「1」の1stプレス。
①XEX-709-1 ②XEX-710-1 ③XEX-711-1 ④XEX-712-1
マザー/スタンパー:①5-OH②2-HG ③3-PO④2-LR
(雑感)
英国モノラルは、素晴らしいの一言に尽きます。1曲目のジェット機の音が横に流れるのでは無くて、目前に迫ってくる感覚でまずノックアウトされ、期待感を煽ります。アルバム冒頭の効果音の塊がこれでもかとぶつかってくるようで迫力十分です。惜しむらくは、1箇所「針飛び」があること。ちょっとガックリきました。ジャケットはもちろんトップローディング。ただしポスター等オマケなし。インナーも白。
Ⅱ.PMC - 7067/7068 Mono N0.013×××2
マトリクスは全面「1」の1stプレス。
①XEX-709-1 ②XEX-710-1 ③XEX-711-1 ④XEX-712-1
マザー/スタンパー:①3/TM ②1/RP ③1/OH ④2/GGM
・トップオープン(トップローダー)。
・オリジナル黒インナー2枚あり。ポスター、ポートレート完備。
・マトリクスは全面「オール1」、「Sold in UKあり」の1stプレス。
・A面のみ「An EMI 表記なし」残り3面は「An EMI 表記あり」。
(雑感)①面は、USSRの冒頭のジェット機音が真正面から向かって来ること。迫力がすごい。バンガロービルからホワイルマイギターの流れは、もう鳥肌が立つくらいすばらしい。イントロのピアノの音が瑞々しい。クラプトンのギターも全編キレキレ。②③面のマザー1の音質もとても良い。②は、ポールのマーチンギターの音がとても綺麗です。ブラックバードがあんなに表情豊かに聴こえたのは初めてです。③は、Zeppelin顔負けのハードロック。ヤーブルースなんてもうド迫力でリンゴのドラムの張りが良い。そしてヘルタースケルター。凄まじいの一言です。ジョンの6弦ベースがゴリゴリと吼えている。どのカバーよりも、やっぱり原曲が一番ハードです。そして次のジョージのロングロングロングがなんと心に沁みることか!地味ではあるがこの曲がここに配置されているのは絶妙としか思えません。ここでもエンディングの最後の「ドン」の音が素晴らしい締め方です。
トータルで言えば、針飛びもないし、チリパチノイズは当然あるが、ローノイズでストレスなく聴くことができます。これぞ「ホワイトアルバムMono」盤の醍醐味だと思います。残念なのは、自分のオーディオがチープでステレオ針なので、十分にMono盤の実力を引き出せていないことです。
Ⅲ.PCS - 7067/7068 Stereo No.0333×××
マトリクスは全面「1」の1stプレス。
①YEX-709-1 ②YEX-710-1 ③YEX-711-1 ④YEX-712-1
マザー/スタンパー:①4/GM ②6/OAG ③2/GOH ④1/M
・レーベルは2枚とも深い緑(ダークアップル)で、全面「An E.M.I. Recording」の表示「あり」。
・「Sold in UK~」あり。
・トップオープンでサイドが「折り返し₍フラップ)」。
・ジャケット裏面上部に"Stereo"の印字あり。
・付属品はポスターのみ。ポートレイトなし。保護紙(Spacer)なし。
・インナーが黒ではなくて、使いまわしの当時リリースされたレコードの広告入りの紙インナー。ジャケットは結構黄ばみが出ている。
・エンボスの凸は認識できる。エッジ部分の抜けはない。
・Garrod & Lofthouse Ltd.謹製。
・表面コーティングはまだまだ十分に光沢がある。
(雑感)
ジャケットの通し番号は「No.0333×××」安定の6桁。この時期のレコードはモノ⇒ステレオへの過渡期でもあり、つまりは当時の家庭ではまだステレオ装置が常備されてなく、モノ針でステレオ盤を聴いていたらしいです。そうなると、相当レコード盤に負荷がかかり、よくレコード評では、この時期のビートルズのアルバムは溝が荒れたものが多いといいますね。EMIのステレオ盤のアルバムには、一応ジャケットに「ちゃんとステレオ針で聴いてね」との"Notice / 注意文言"もあったけど、はたして理解できた家庭がどれほどあったでしょうか?
この盤も経年によるチリパチノイズもあるが、キズと思しきノイズも結構あります。盤のコンディションに関しては、表面に擦り傷が多い。その割には、音質は素直にきれいに聴こえます。別所有のホワイトアルバム・モノがすさまじくラウドでKOされたことを思えば、綺麗で繊細な音で「泣き別れ」じゃない見事なステレオ音源です。ステレオ盤は冒頭からジェット音は右左へと流れるし。モノ盤の下から突き上げるようなリッケンベースの底力を鑑みれば、低音の物足りなさを若干感じますが、ボリュームを上げることでより広がるステレオ感はすばらしいです。所有しているUS盤がより高音にシフトしていることを考えると、このUK盤は比較的スタンダードなカッティングだと思います。モノでは音がひとかたまりでぶつかってくる感覚なら、ステレオは楽器が独立して隅々までよく聴こえる感覚です。とはいえ、この盤の「へルター・スケルター」のエネルギーは、やはり桁外れです。ボリュームを上げて、スピーカが空気を震わせるほど、この曲のジョンの6弦ベースは尋常のゴリゴリ感ではないと感じます。モノ・ステレオ盤の優劣は人それぞれですが、あんまり比べる意味もないので、わたしはその日の気分でモノとステレオを聴き分けて楽しんでいます。
Ⅳ.SWBO-101 Stereo A240×××3
USA.Capital ; Scaranton Press
①SWBO - 1 -101 - H70 ②SWBO - 2 -101 - H68
③SWBO - 3 -101 - H74 ④SWBO - 4 -101 - H67
USAオリジナルでリムに"Capital"ロゴあり。初期プレス。
レーベルは、アップル。シリアルナンバーあり。
(雑感)
音質的に、やや高音が強調されている気がします。米国ステレオは、各楽器の分離が良く綺麗に聴こえます。英国と米国ではカッティングが違うので、聴こえ方に違いがありますね。ノイズもないので、非常に聴きやすいです。ある意味ボーカルが飛び出ていないので、満遍なくミックスされている感じがします。ただ、リッケンベースは英国盤同様ゴリゴリしています。ジャケットは英国盤とは違い、サイドローディングでUSA仕様。ポスター等オマケは完品。写真には修正あります。
☆なお、ジョージがあまりの音の酷さにブチ切れしたというUSA盤のマト枝番は「J33」らしい。彼の要望でリカットされた「J34」以降が正規プレスらしいですが、この話自体が眉唾物とのウワサも。彼自身がこの時期にアメリカにいなかったし、たとえメンバーでもキャピトル相手にリカットまで要求できないだろう、というのがソースらしいです。知らんけど(笑)。
【マザー・スタンパー雑感】
他人様のブログや文献を読んでると、このアルバムのマザー・スタンパーにはある種の傾向があるらしいです。
曰く、若いマザー・スタンパーは、AB面よりもCD面の方が多い
曰く、CD面に若いマザー・スタンパーが含まれている場合、AB面はかなり進んでいるマザー・スタンパーを持つケースが多い(例:C面:2GM / D面:1G等)
「ホワイトアルバム」は、1967年の「Sgt.」からほぼ1年以上待たされた感のある発表だったし、世間の期待感も相当あったでしょう。時代的にもレコードがそろそろモノラル録音からステレオ録音へ本格的に移行している時期ですし、ホワイトアルバムも最後のモノラル録音ともいわれている(アルバム:イエローサブマリンはステレオ⇒モノへの”偽モノ”として)こともあり、このアルバムからモノとステレオの製造比率が逆転してステレオ優位に進んだとも。そういう意味では、ステレオ盤はリリース段階から、相当数のマザー:スタンパが用意されたものと思われます。レーベル「An E.M.I・・・」"あり"も"なし"も混在して、スタンパも1桁も3桁も混在。所有盤もマザー1で4番目のスタンパからマザー6の531番目のスタンパまでボラティリティが大きい。一枚のマザーから530枚以上のスタンパってすごくない?単純にアルバム単位で100万枚プレスしたとして、一枚のスタンパから2000枚取ったとして総計500個のスタンパが必要になる・・・。スタンパ一枚のプレス数もバラつきがあったろうから、マザー数も含めたらスタンパ500枚以上になりますね。自分のプアな耳とチープなオーディオでは、スタンパの先後までわからないですしね。6マザー/531番スタンパのモブザクみたいなザコ盤でも、それなりにちゃんと聴こえる。1Mの面との違いを言われても聴き分けられません。やっぱり、マザー・スタンパに拘るのは単なる自己満足だと感じる次第(単にレア盤を持っている、という自己満足)。
【"An EMI表記"とシリアルナンバーについての雑感】
「ホワイトアルバム」の見分け方ポイントのひとつに、レーベルの左側にある"An EMI Recording"の表記の有無があります。また、このアルバムジャケットにシリアルナンバーが刻印されていることも有名ですね。
「表記なし」がより初盤に近いとされていますが、油断なりません。
結構、表記とナンバリングの順番が一致してないケースが多いです。実際、わたしのレコードは、全面「An EMI表記なし」よりも「表記あり」のほうがナンバリングが若い事もあります。だいたい「表記あり」は、ナンバーが7桁やら、マザーも5以上とかスタンパー3桁やら、マトリクスも2混じりが多い印象があります。よく聞くのは、両面「表記あり」両面「表記なし」の二枚の組合せ(以下あり・なし)。一枚の表裏で「あり、なし」の組合せはたまにあるらしいです。まあ、バラバラです。そもそもヘイズ工場で「あり・なし」両方のレーベルが用意されたらしいですし。こうなると、「あり、なし」で盤の若さを測るのはあまり意味がないように思いますね。ガイド本でも「ほぼ同時期のプレス」と書いているので。やはり、マトリクス、マザー、スタンパーで盤の初期盤度は判断すべきかもしれませんね。
こういう組合せから考えられることは。
①リリース後、オーナー間を渡る中で故意に入れ換えられた。
②レコードがプレスされる際に既にレーベルが混ざってる状態。プレスも、とにかく早くしないといけないので、マザーやスタンパーの組合せなんか気にしている場合じゃないし。さらに大量のイニシャルオーダーのため、レコードとジャケットが山積みで、EMIヘイズ工場の社員さんは商品を完パケするのに、もうナンバリングとかレーベル表記とかマザースタンパーとかの順番なんかも気にしてられない状況だったと思われます。そもそもスタンパーコードとか、「・・・今日は100番目までプレスした」とか単なる事務上の業務日誌に記入するくらいでしょうし。
あと、細かい見分け方ポイントしては、ジャケットが「ワイドスパイン」かどうか?話が長くなるので、またの機会に。
【その他雑感】
ビートルズ初めての2枚組のオリジナル・アルバム、かつてなかったジャケットへのエンボス加工&通し番号印字、殺到する予約注文……。ポスターとポートレイトのオマケまで加えると、想像するに、当時EMIのヘイズ工場の工員さんたちは相当錯綜・混乱した状況だったでしょうね。"完パケ"=レコード+黒インナー+ポスター+ポートレイトですが、保護紙(tracer)を加えるかどうか?で問題があります。これをパッケージとするかどうかでアルバムのコレクション的価値が違うそうです。そもそも保護紙はあくまで積みあがったポートレイト用の"仕切り"だったようで、レコード詰めする工員さんの中でも、それをオマケの一部と考えた人と不要なゴミと考えて捨てた人といたらしいです。オークションでは、この保護紙の有無で値段が違います。保護紙が残っているのがすごい)。
ビートルズはEMIでの稼ぎ頭なので、録音スタジオを我が物顔で押さえていたりとかしたそうです。いくら人気グループであろうと、EMIはビートルズの専属レーベルではなくて、他にもクラシックも含めて多種多様なアーティストを抱えていたから、ビートルズ以外のプレスの順番を決めるのは阿鼻叫喚でしょうね。文献によると、同時期に生産体制に入ったPretty Thingsというグループのアルバム『S.F. Sorrow』は、EMIではプレスできず、全量外部プレス工場(Orlake)へ委託せざるを得なかった、ということで。
ちなみにわたしは、盤がチャンと聴けたら、多少のノイズやジャケットの破れやオマケの欠品、レーベルへの落書きとか全然気にしない人なんで(ただし、針飛びは気持ちが萎えて心が折れます)。
以前何かのコラムで読んだのですが・・・。
「 Revolution9 」の例の声は、”ナンバー無いん?” ”ナンバー無いん?””ナンバー無いん?”って聴こえるそうです。
シリアルナンバーのことを尋ねているのでしょうか?