漫画『どうしても触れたくない』

どうすればいいのかわからない。踏み出したくても、踏み出したその先に見えるものが怖くて、怖くて、仕方がない―。
(ヨネダコウ『どうしても触れたくない」大洋書店)

嶋さん、あなたは一体どんな恋愛をしてきたの。思わず、そんな呟きを零してしまいたくなる。

そもそも作品のタイトル。誰が、何に対して「どうしても触れたくない」のか。嶋さんの心情を中心に描かれていることを思えば、おそらく嶋さんが外川さんに「どうしても触れたくない」ということになる。本当は外川さんに触れたい、もう一歩踏み出したいと思うけれど、「どうしても触れたくない」。だって触れてしまえば、また諦めること、悲しむことになるかもしれないから。

嶋さんは始終ゲイであることを意識していて、だからこそ外川さんの自由な態度に惹かれるのかもしれない。例えば、往来でのキスに人目を憚る嶋くんが「外川さんの声があんまり落ち着いているから、なんだかバカらしくなった」と思うほど。

そんな嶋さんの心の奥底にある不安定な想いが、この作品の後半までふわふわ漂っていて、だからこそラストシーンでの嶋さんの、それでも外川さんと共にあるために一歩踏み出す強さに心打たれるのだと思う。個人的には、外川さんが(嶋さんの好みに合わせて)タバコを吸う際の気遣いを芽生えさせていくといった変化も好ましい。

ヨネダさんの作品はモノローグや擬音語を少なめに、構図やカメラワークのようなコマ割りで登場人物の心情を描き出そうとしているように思える。それがまた心地いい。