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会計Column:「期末在庫を減らすとキャッシュ・フローが改善する」という都市伝説の誤解を解くメモ

■「期末の」在庫削減の効果とは

事業部「今期も頑張って期末の在庫削減したよ。これでキャッシュフローもバッチリだよな。」

財務部「期末だけ、ですか?それあんまり意味ないので、やめましょう。

事業部「どういうこと?俺ら、経営企画部からキャッシュフロー改善のための在庫目標はこれだ、達成しろって言われてるんだ。それで期末の商品仕入をギリギリまで少なくして在庫下げたんだけど、ダメなの?」

財務部「ちょっと誤解が混ざってるので、一つずつ確認してみましょう。」

事業部「うん。」

財務部「まず、在庫はできれば少ないほうがいいです。例えば、図のように常に2月分の在庫がある会社は、2月分の在庫額200円のお金を使って在庫を準備している、つまり①元手資金、例えば借金が在庫分だけ200円余分に必要です。それに②在庫の保管費もかかります。」

事業部「うん。元手の話は普段あまり意識しないけどそうなるね。」

財務部「あとは、③お客さんがもういらないって言ったときに、余分な在庫が全部無駄になっちゃいます。」

事業部「でも在庫ちゃんと持っておかないと売り逃しちゃうよ。」

財務部「そうですね、おっしゃる通り、適正水準の在庫は必要で、そこはバランスです。業界によっても適正水準は変わると思います。」

事業部「在庫もち過ぎたらダメだということね。最初の話に戻るけど、それならやっぱり、俺らは在庫減らしたんだからメリットあったってことだよね?」

財務部「そこに誤解があるんです。ポイントは在庫削減が<期末だけ>瞬間的なことなんです。いつも在庫が2月分必要な事業なら、きっと期初に仕入れをしてすぐ在庫水準を戻したんですよね?」

事業部「えっ、うん。やっぱり在庫ないと欠品が怖いからさ。」

財務部「すると、在庫2月分の元手資金が必要なくなったのは一瞬だったということになります。一瞬お金が余っただけでまたすぐ必要になるなら、借金水準は減らせないですよね。倉庫の賃料や人手など、在庫の保管費も下がらないし、なんだったら在庫の受入時期調整とか商品の販売時期調整とか余分な手間かかっちゃってませんか?

事業部「それはそうだね。在庫水準を減らすために普段以上に関係者との連絡を密にして確認したり調整したり、かなり手間をかけて大変だった。でも多少は良いことあるんじゃないの?」

財務部「そうですね、少ない在庫で運営している<かのように見える>ので、期末BSの見栄えは少し良くなります。

事業部「キャッシュフローは?」

財務部「ほとんど変わらないと思います。」

事業部「えっそうなの?」

財務部「例えば商品仕入の代金が数か月後払であれば、期末にいつも通り商品仕入しても当期に支払は発生してないかもしれません。仕入代金の支払が月末締めなら、仕入れを期末月の翌月初に繰り延べた分は1月だけ支払を先送りできるので全く無意味ではないですが、本当に必要な元手が減って資金繰りが改善して余分な借金が減らせるのは恒常的な在庫水準の低下ができたときです。」

事業部「そっか、在庫水準がいつも小さければ、元手=借金も減らせる、保管スペースや管理費用も減らせる、不良在庫化も防げるってことね。」

財務部「そうです。でもこれってすごい難しいことですよね。」

事業部「う~ん、我々も不要な在庫をわざわざ揃えてるわけじゃないしな~。」

財務部「単純に期末の仕入を減らすのではなく、自社で加工している場合は加工のリードタイムを短くして短期間に納品できるようにするとか、販売先との需要予測の精度上げるとか、地道な活動が必要です。」

事業部「でも、経営企画部は在庫が減ったかどうか期末の金額しかみてないよ?」

財務部「定常的に在庫が少なく運営できてるかって評価の方法が難しいんです。かなりシステム化が進んでいるので、全くできないわけではないのですが、全社の各事業を横並びで評価しようとしているせいで、ざっくりと期末の総額でしか管理できていないのが我が社の現状です。でも経営企画部が期末の在庫額だけで評価するなら事業部としては期末だけ減らせばいいやってなりますよね。経営企画部と握る事業評価のKPIを、期末金額じゃなくて毎日の平均在庫数量とかにした方がいいかもしれません。」

事業部「成程、話は分かったけど、我々としては経営企画部が評価項目を変えない限り具体的には動けないよ。評価されない仕事に部内の工数割けないから。
…でもまぁ、見栄えや評価のために小手先の対応するの、個人的にはバカバカしいと思っちゃうな。なにか変えるなら声かけてよ。」

財務部「そうですね。経営企画部と、事業部が正しい方向に努力できるような、もっといい管理の仕方ができないか話してみましょう。」

■まとめ

▼ 一瞬在庫水準さげると期末BSの見栄えは良くなるが、キャッシュフローへの好影響はほとんどない。
▼ 定常的に在庫水準下げるのはとても難しいので、期末BSしか社内評価されていない場合、仮に上記のことを理解していても小手先の期末一時削減に走りがち。取組みに一工夫必要。

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