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「咳がとまらなくても休めない」: セントルイスのマクドナルドの店員は、ストライキに参加した

ウェブマガジンのFast Companyに連載中のRestaurant Diariesシリーズでは、食品業界に生きる人々が、コロナウィルスの時代をどう生きぬいているかを取材している。今回はコロナウィルス流行以前から、体調に不安を抱えてきたマクドナルドの店員が、ストライキ参加を決意するまでの経緯を話した記事を日本訳した。
ライター: Yasmin Gagne https://www.yasmingagne.com/
原文: https://tinyurl.com/y9fyvqrg
(2020年4月3日掲載)

ベティ・ダグラス(62歳)は、セントルイスのマクドナルドのクルーメンバーとして14年間働いてきた。レジ係からドライブスルーまで、必要な業務はすべて経験済みだ。多くのマクドナルド従業員と同様、時間給で働き、COVID-19の流行以前には病気休暇を取ることができなかった(米国でウィルス流行が認識される以前は、食品サービス従事者の約75%は、病気休暇を許されていなかった)。

危機対策として、米国マクドナルドは直営店の従業員に病気休暇を導入した。しかし直営店は全体の5%にすぎず、ダグラスのようなフランチャイズ店の従業員を守るには不充分だ。3月18日に成立したFamilies First Coronavirus Response Act(※)は、従業員500人以下の企業で働く者で、コロナウィルス感染の疑われる者に対して、一定の条件を満たした場合、病欠手当を支給するとした。しかし、フランチャイズ事業の多くは複数のレストランで構成され、従業員数は500人を超えるため、新法の適用は困難である。ダグラスは、米国連邦レベルでの賃上げ要求運動(※)に関わっており、マクドナルドでの現在の働き方は、自分のような従業員のリスクを高めるとうったえている。

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ベティ・ダグラス: 14年前に両親が体調を崩し、介護と仕事の板挟みになりました。育ててくれた両親の世話をしたくて、新しい仕事を探して色々応募したところ、最初に連絡をくれたのがマクドナルドでした。それからずっと社員として働いてきたので、店内のどの部署のことも一通りこなせますが、最近はレジやドライブスルーを任されています。障害のある兄と2人の息子がおり、そのうちの1人は自閉症です。私が一家の大黒柱なので、この仕事をやめるわけにはいきません。

数ヶ月前に咳がひどくなったので、病院に行ったら、気管支感染症と診断され、吸入器をもらいました。同じようなことがもう一度あって、コロナが流行るずっと前のことでしたが、私は「(呼吸器系疾患などの)リスクのあるグループ」であるとされたのです。具合が悪くても、そのときは仕事を休めませんでした。医者からの診断を受けて、私は仕事に戻る気になれず、休みたいと上司に相談しました。しかし上司からは穴を開けるなと説得されて、充分な休養を取れませんでした。休みたいなら無給の停職扱いとし、シフトから外すとも言い渡されたのです。仕事中に咳き込みがひどくなったときも、早退させてもらえませんでした。基本的に有給の病気休暇はないのです。なんの補償もないので、休むことができない環境です。

コロナ問題ですべてが停止した時も、店にとって主要メンバーとされていたので、仕事を続けました。感染リスクの高い基礎疾患もあって、体調もよくないのですが、それでもスマイルで接客を続けなければなりませんでした。接客自体は好きなのですが、この状況でやっていくのはきびしいです。会社からは手袋と手指消毒液を渡され、手洗いは義務付けられたものの、マスクの支給はありません。[編集部注: マクドナルドは現在、非医療用マスクを各店舗に送るよう善処しているとコメント] 店内でも協力しながらのオペレーションですから、2メートル離れて社会的距離を保つことなど不可能です。危険手当もありません。それどころか、勤務時間そのものは短縮されて、仕事に行く回数は減らないものの、労働時間そのものが減っているので、給料は減っています。もしウイルスに感染している従業員がいたら、ドライブスルーの窓口からお客様を感染させてしまうかもしれません。

私の息子は19歳なので、育児手当などの申し込みは特にしていません。でも食べざかりの子どもたちが出かけないで家にいるとなると、その分なにか用意しておかないといけません。生活に余裕がないので、私たちの家には冷蔵庫がなく、作り置きもできない状態です。私だけでなく、同僚の多くは育児問題などの生きづらさを抱えています。私も健康保険には未加入で、医療費を捻出できないとわかっているので、緊急時以外はただ耐えるしかないのです。

先週の火曜日に、他のマクドナルド店14店舗に働く従業員と計画をして、ウォーク・アウト(※)に参加しました。就業中に店を出たのです。うちの店舗の同僚は、仕事を失うかもしれないと恐れていますが、私たちにはストライキをする権利があります。だって病欠もとれないので、具合が悪くても働かなければならないし、フルタイムの社員なのに、会社は勝手にパートの労働時間を割り当てているのですから。

この状況にうんざりしたんです。マクドナルドは世界でも有数の大企業なのに、理念も守るべきものもないのでしょうか?こうなってくると、組合を作って交渉するしかありません。企業側が理念もなく中立だと主張するなら、それは私たち従業員を守ってくれないのと同じです。ここで従業員が何もしなければ、皆にとって状況は悪化するでしょう。

※1 Families First Coronavirus Response Act: 略称FFCRA。コロナウイルスの経済的影響に対応することを目的とした議会法。公平なコロナウィルス診断の機会、14日間の有償の病欠休暇、食料補助のフードスタンプの配給などを定めた。
https://en.wikipedia.org/wiki/Families_First_Coronavirus_Response_Act

※2 Fight for $15: 連邦全体の最低賃金を15ドルすることを含めた労働状況改善要求を行う団体。
https://fightfor15.org/

※3 ウォーク・アウト: 労働条件の改善や学費値上げ反対などの要求の拡散や交渉の進展を訴え、就業中・授業中に一斉に抜け出すこと。抗議者たちが物理的に居なくなる、または町へ出ることによって、授業や業務が機能しなくなり、要求を可視化するねらいもある。
写真解説
・ヘッダー画像: Fight for $15のRabi Pastoresによる著者近影
・文中画像: Fight for $15撮影の著者近影。マクドナルドのユニフォームを着ている。

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萩谷 海
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