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茶碗に縁がない

 前回書きたかったお茶碗のこと。

 私は進学を機に一人暮らしを始めた。食器は実家にある物を必要最低限を持ち出した。それらは、一人暮らしが長くなるにつれ、大切な食器へと昇格した。お茶碗もその中の一つで、結婚を機に夫婦茶碗を揃えるくらいしないと別れられないなという謎の思い入れがあった。

 そして、結婚をする。同棲をしてから籍を入れるというヌルリ婚だったので、夫婦茶碗もいつか吟味して買おうとぼんやり夢見ていた。
 
 そんな折に誕生日に義両親からお茶碗を頂いた。木箱に入った高級な茶碗を一つ。夫が義両親に提案したらしい。どういう提案センスだ…。何かがふに落ちなかったが、茶碗自体がかわいくて、使いやすかったので、日に日に愛着がわいた。

 月日が流れて、私は40歳の誕生日を迎える。その半年前に、夫はうつ病を発症した。誕生日当日も、夫は起き上がることもできなかった。私は義母と1才数ヶ月の息子と誕生日を過ごすことになった。昼食も夕食も何を食べたのか思い出せない。ただ、誕生日ケーキを義母と2人で食べたような記憶はある。この時期の夫は、大事なときに限ってダウンしていた。夫が一番辛かっただろうと理性ではわかるのだが、感情がついていかない。

 数日後、遅くなって申し訳なかった、と夫からプレゼントを貰った。洋食器のブランドの包みをあけると夫婦茶碗だった。

 嬉しくなかった。

 40歳の誕生日、普通は、妻が輝くものをプレゼントしたくならないのか。(宝石ということではない。)デザインもとても好みじゃない。なんでついでに自分もお相伴に預かっているのか……。体調があまりよくないなか、仕事の合間にプレゼントを選びに行ってくれた労をねぎらおうとか、喜びポイントを見つけようとしたが無理だった。自分でもびっくりする位、全てが気に入らなかった。もちろん、その場は取り繕ったが、夫にはバレているかもしれない。

 最近、3歳の息子が、このお茶碗を私の分だけ割った。嬉しかった。1年半使用したのに愛着がもてなかったのだ。今は、夜な夜な、自分が納得できる茶碗を探してワクワクしている。ただ、早く選ばないと、また、予期せぬ茶碗との出会いがやってくるので要注意だ。

 

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