私本義経 九郎
訪ね当てた藤原秀衡殿のお宅、本当に壮麗で、いや、壮麗の一言で片づけるには足りぬほどの見事さであったからだ。
いや。
おみそれしました。
末永いご栄達を。
平伏して言い、そそくさと去ろうとする吉次に、
しばしお待ち願えぬか。
主は真顔で引き止めた。
そのまま館に入らず、町外れのお堂に一夜の宿を求める。
何で俺が、のような、怪訝な様子の吉次に烏帽子を渡すと、たちまち吉次、ああと合点した。
目から鼻に抜けるとはこのこと。
見た目以上に聡い。
烏帽子親は、大人二人のならい。
破戒僧と賤しい商い人でよろしいんですかい?
誰が破戒僧だ。
道々ご自分でおっしゃってたじゃないですか。
自分で言うのはいいんだ!
まあまあまあまあ。
ともあれ私の成人の儀だ。
おごそかに頼みたい。
私も吉次も真面目に頷いた。
髪を切り、烏帽子を着け、今稚児は、大人の男に変わってゆく…
お名はどうされますか。
源義朝九番目の子と聞いているので、九郎、
父上より一字、源氏源流六孫王経基より一字いただき、
義経
と名乗ろうかと。
源九郎義経。
武家らしい、よいお名かと。
おめでとうございます。
おめでとうございます。
吉次も繰り返す。
後は女も勉強して、本物の女も知らねばですな。
吉次のいらぬ一言に、主も私も思わず破顔し、吉次を大いに戸惑わせた。
改めて、藤原邸の門前に立つ。
ああそうか。
大人としてお立ちになりたかったのだな。
時に承安四年三月…
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