巨岩〔まるさんに捧げる一作〕
いいの?
帰らなくて
いいの
いいの?
帰らなくて
いいの
いいの?
帰…
いいの!!
ミニーの強い口調に、あたしはもう、黙るしかなかった。
巨岩
KA
この岩になってどれだけの時間が経っただろう。
あたしの周りで交わされた、たくさんの約束。
- きっと戻ってくる
- 迎えに来るよ
- 私のことを信じて待ってて
- ちょっと行ってくる
すぐだから
約束が守られることはほとんどなかった。
だからあたしは決めつけた。
この子の家族もすぐ…
小鳥たちが告げにくる。
まあちゃんまだ泣いてるよ。
おかあさん、チラシ追加してたよ。
きょうはお寺の軒下と、酒屋さんの裏手を探してたよ。
落ち葉が舞い散り、粉々になり、その上に白いものが降り積もる。
ミニーの気配は途絶えてしまい、心の声すらももう、あたしに振動与えない。
逝ってしまっても、しばらくは響いてたのに。
あたしに伝わるものなら、あんたたちにも伝わるんじゃないの?
何もたもた探してるのって、揶揄の目で見てるうちに、家族は捜索の手を止めた。
あたしは見つけたのに。
でもその日。
家族は来た。
泣き腫らした目でも、青白い顔でもなく、溌剌とした若さと笑顔で現れた。
手にはそり。
雪遊びしに来たのだ。
もうミニーのことなどとうに忘れたのだ。
あたしの怒りは空気をパキンと凍らせた。
雪中の、凍る直前の水たまりまでも、パキンパキンと凍らせていったが、そんな気配にも気づかずに、親子は赤いそりをあたし近くまで担ぎ上げてきた。
今、乗って滑ろうと…
そのときだった。
少女が突然棒立ちしたのだ。
ミニー!?
え?
母親と、あたしが同時に戸惑う。
だってミニーが!
少女~鳥たちはなんていってたっけ。まあ、ちゃん…確かまあちゃんっていった…~は、きょろきょろとしきりに辺りを見やり、小走りにあたしの裏手にまわって、次の瞬間絶叫した。
ミニー!!!!!!
ミニーは凍った水たまりの中にいた。
レジンとかいう人間の工芸品みたいに。
その口の端はかすかに笑っていた。
間違いない。
ミニーはまあちゃんにみつけてもらいたかったのだ。
あたしの話はこれで終わりだ。
ミニーは氷ごと持って行かれてしまったが、きっとそれがミニーの幸せなんだろう。
あたしがどんなに愛しても、ミニーはあの子を待っていた。
あの子は逝く前も逝ったあとも、あの少女を見守っていたかった。
だからこの場所を選んだのだ。
通学するまあちゃんを、行きも帰りも見れる場所。
ミニーが選んだ場所。
でもミニー、少しはあたしが好きだったよね?
だからここを、最期の場所に…
猫は答えない。
あたしをも埋めてゆくように、あとからあとから雪が舞うばかりである。
ミニーの本当の物語はこちらです↓↓
↑はそれをもとに、
KAが綴った
イメージストーリーです