弔い ー松永久秀ー
多聞山城で保子が逝ったとき、
私は意外なほど衝撃を受けていた。
初の嫁ではない。
他に妾(しょう)もいる。
なのになぜ、こんなにも、衝撃を受くるのか。
保子、だからだろうか。
広橋の家に生まれ、前夫は公家の一条兼冬。
兼冬は二十六になるかならぬかで逝った。
そのあとが私だ。
見目麗しき殿上人のあとに、無骨な武将。
朝廷の対応、足利への対応、近隣国人、有力大名との駆け引き、いつもおもんぱかっておらねばならないこの畿内の地で、保子と私は不可分の、一対の、いわば双将だったのだ。
妻女とはいえ並び立つ才覚は卓越。
霜台(弾正別称)におかれては、惜別止むことなかろう。
長慶様より過分の弔いいただいて、ますます憂愁募っていた。
そんな折、私は聞いてしまったのだ。
この多聞山の城の裏手に世捨てびとの里がかつてあり、その民の弔い場に死者を一夜置くと…
保子は蘇りきた。
***
半年を待たずして、今長慶様ご自身が果てようとしている。
私を右筆としてくれ、畿内治めよと送り出してくれた若き殿が、未だ五十(いそ)の声も聞かぬのに、弟ことごとく失ったあげくの病の果つるところとなる。
秀麗で。
穏やかで。
戦国の波乱万丈の中でも優美であるそのかたが、行ってしまう………………………
戻ってきた保子は姿は同じだったが、内実は悪鬼だった。
かわいがっていた侍女たちを、一人、また一人と噛み裂いて殺した。
血の衝動のままに生きる保子は、もはや優美な公家の女人ではなく、私は我が手でかの女人を焼き殺す羽目となったのだった。
そう。
世捨てびとらの弔い場は、そういう場所であったのだ。
わかっている。
その地はそういう場所だ。
そういう場所なのだ。
使うてはならぬ。
絶対ならぬ。
されど………………
こたびのみは。
正しく蘇るやもしれぬではないか。
いや。
荼毘にふすべきである。
荼毘にふすべきである。
正しく荼毘にふすべきである……
※ 本作はあくまでも、
映画「ペットセメタリー」(1989版)を
モチーフとしたオマージュ作です
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