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愛って宗教みたいなもの

仕事が終わり。帰宅するとエアコンか音楽か、
というくらいにすぐ部屋を音楽で満たす癖があります。
(クリスマスソングって聞いているだけでしあわせになる。)

自己紹介にも書いた“無人島に1冊だけ持っていくなら江國香織さんの本”。その中でもこの本の世界観がもっとも好き。

『ウエハースの椅子』

大学生の頃、江國さんの本を初めて手に取ったきっかけとなった本。
ぱらぱらとページを流し見ていたらすごくきれいな文章ばかりで
そしてロマンチックというか甘い世界観のものがたりなんだなと感じて
手に取ったのを覚えています。
(そしてその世界観は決して嘘じゃなかった。)

途中まで読んで唐突に、恋人には奥さんとこどもがいるという設定を知る。それはとても自然に(当たり前のことのように)知らされる。
ええええ、ってなる。
なるけど、その文章がなければ全くそれを感じさせない世界観がすごいなと感じた。
それなら恋愛として完璧じゃないか、とすら当時は思った。
(そう思わせてしまうのが江國さんなんだよな。)

主人公の恋人はいつも突然にやってくる。

>お風呂あがりオードシャルロットを肌にたっぷりすりこんで、ハーブティをのんでいたら恋人が来た。

オードシャルロット。この響きだけで大人の女性の香りがする。
この一説をみてからお風呂上りに好きな香りのクリームとかオイルをつけるのを真似するようになった。
あたたまった身体に香りがしみ込んでいく幸福感。

そして約束していないからこそ、いつでも待っていられるということ。
約束しているから会うんじゃなくって
会いたいと思ったときに会いに来てくれているんだと思えるところ。
そういう世界観も美しいなと思った。

そしてこの小説の中でもっとも好きな一節。

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>「私が死んだら、あなたかなしい?」
「かなしいよ。とてもかなしい」
恋人がそうこたえたので、私は重ねて、なぜ?と、訊いた。
恋人はそれにはこたえずに、
「じゃああなたは?」
と私に訊いた。
(中略)
かなしくないわ、と、私はこたえた。昔、父に教わったとおりに。
そう言いながら、でも私はほとんど泣きだしそうだった。
恋人に死んでほしくなかった。それでそう言った。
でもあなたは死なないで、と。
「馬鹿だね」
恋人は小さく微笑んだ。
(中略)
それは私の望んだ返事ではなかった。
私は恋人に、心配はいらない、と、言ってほしかった。
永遠に死なないことにするから、と。
でも恋人は、そう言ってはくれなかった。勿論。

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わたしの知る限りで最も美しい文章であり世界観だと思っている。

この小説から感じるのは
“愛って宗教みたいなもの”
なのではないかということ。

相手に “愛される” “愛されない” じゃなくって
わたしが “愛されていると信じきる” か “信じきれない” か、みたいな。
(信じ“きる”って強いことばだね。意思を感じる。)
そういう意味で、恋人はずっと(いい意味でも悪い意味でも)変わらないでいてくれて、変わってしまったり揺らいでいるのは主人公の心のほうで。

正しいことを言ってほしいんじゃないって気持ち、
女性なら大なり小なりあると思う。
ちゃんと大人だから。分別もあるから。この恋は行き止まりだとわかっているから。

だけど信じさせて。

みたいな気持ちを主人公からずっと感じ続ける。
(引用箇所の最後の「勿論。」にはそんな意思を感じた。)

ごちそうさまでした。★★★★★

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