大事なのは“自分優先”にならないこと 井谷俊介/パラ陸上 短距離100m・200m【後編】|挑戦のそばに
今なら「自分がアスリートだと、自信を持って言える」
パラ陸上短距離 100m・200mの日本代表、井谷俊介選手。
2016年の事故で片足を失い陸上を始めた彼は、わずか数年
で日本代表に上り詰めるも、目標としていた東京大会の
代表から落選。一度は競技への情熱も見失いましたが、
「自分の目標は周りの人を笑顔にすること」と人生を振り
返り、より強くなって復活しました。その過程で、アス
リートとしての自覚も、大きく変わったと言います。
「カラダ作りの面は大きく変化しました。2021年までの自分は、今思うと競技への向き合い方も、勢いだけで結果を出していた部分があった。でも、自分自身の成長が見えなくなった時、ちゃんとやらなければいけないと実感したんです」
同じパラアスリートの山本篤選手(パラ陸上 走り幅跳び)と
合宿などを行い、その行動を見て『自分はこのままだとあと
数年で終わってしまう』 と感じた彼は、食事やトレーニング、
日々の生活も緻密に考えるようになりました。今でこそ、
「自分がアスリートだと、自信を持って言える」と、コンディ
ショニングの重要性を口にします。
「1日1日を積み上げていかないと成績は出ない。それを実感してから、トレーニング時も“これが今後の自分にどう役立つのか”など考えるようになりました。食事も、以前はアミノバイタルを練習後と寝る前に飲むぐらいでしたが、今は朝起きてまず飲んで、食事後に必ず飲み、トレーニング後にも飲む量を考える。そんな風に思うようになってから、今年だけでも体重が5~6㎏増えて、カラダも絞れました」
練習自体を大きく変えなくても、筋肉量の変化をデータで見
て、食生活も見直して筋肉の付け方から考えていく。そんな
日常生活が、確かに結果に繋がっています。
「あとは、やっぱりコンディションを整えていくのにアミノバイタルはすごく重要だなって、身をもって感じています。なくてはならないものだし、力になってくれる、ありがたい存在です」
大事なのは自分の気持ち。胸にその戒めと夢を刻んで
最大の目標だった大会に出られなかったからこそ気付いた、
自分の想いや悔しさ。だからこそ、今年のパリは必ず出たい。
「出るんだ」という強い思いがあります。
「前回はリレーの枠を争う状態でしたが、200mは個人で代表になれそうな状況でもある。前回よりも手応えが大きいので、成長を実感しています」
そのためにはまず、今年5月に神戸で行われる世界パラ陸上
競技選手権大会での結果が必要です。
「ここまで100mへの想いが自分の中でも強かったんですけど、今は200mの成績も良い。神戸では200mでメダルを獲って、そのまま内定を勝ち取りたいです。東京の時はいくら練習しても足りないんじゃないかと不安の方が大きかったですが、今はプラン通りに一つずつ積み重ねていくだけだと思っています」
まだ、やることはたくさんあります。
200mではコーナーワークを磨くこと、義足は曲がる時にバラ
ンスを崩しやすく力をセーブする瞬間があるので、その精度
を上げること。フォームや技術面も調整が必要です。
ただ、大事なのは自分の気持ち。
また“自分優先”にならないことです。
「東京の時に、本番が近くなると自分の心が乱れて、目標を見失うことが、すごくダメだと知りました。ここからパリまでの数か月間、自身の夢は何なのか、忘れないようにしたい。そうじゃないと、また“自分が”メダルを獲る、になってしまう。そうならないように自分を戒め、胸にその夢を刻んでおきたいと思います」
挫折と失望を味わい、乗り越えてきた彼なら、きっと大丈夫。
そう周りも信じる中で、彼は改めて未来への夢を口にします。
「東京大会以降は、子どもたちのパラアスリートへのリアクションも変わったし、大人も含めて理解が進んでいると感じます。今後は、ただ知ってるだけじゃなく、パラスポーツを応援する人たちを増やすのが重要。僕たち選手みんなの競技力が上がれば、 自然にそうなるだろうと思っています。そして僕の中には変わらず、義足の子どもたちを支援したい想いがある。パリの後は事業として義足メーカーと提携したり、地域行政ともコラボしたりしていくのが、近い将来の目標ですね」
自己ベストを出すと、周りの人がこんなに喜んでくれる。
だったら金メダルを獲ったらもっと喜んでもらえる。
そんなピュアな願いを叶えに、パリでこそ、誰かにとびきりの
喜びを届けたい。井谷選手はその瞬間のために、全てをかけて
戦います。
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