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わたしの愛するスパイスカレー

京都で一番好きなスパイスカレーの店といえば、ラトナカフェだ。堀川通を西へ一本入った通りのひっそりとした場所。
インド旅で出会ったご夫婦が、現地で家庭料理を学び、日常のカレーを提供しているとのことで、皿からはみ出るナンがついてくるようなレストランのカレーではない。
ご飯は玄米か白米が選べて、カレーも野菜、肉系、魚系と選べる。そこに付け合わせのサブジ、ダルカレー。口直し、もしくは味変でレモンのお漬物のようなものが、さっぱりとして美味い。食後のチャイもカップにたっぷり注がれ、飲み終えた頃には全てが整った、と感じられる。
店内は町屋を改装していて、坪庭にさす木漏れ日、漂うスパイスの匂い、全体に流れる異国情緒の雰囲気、少しおしゃべりな旦那さんと、キッチンからほとんど顔を出すことのない奥さんがまたグッとくる。
どうぞご自由に、と書かれたアルバムには、夫婦が旅した各国の写真と共に、少し斜めからの視点の旦那さんによる一言コメントがまた眺めていて楽しい。
当時この店のすぐ近くで働いていた私は、週二、三回くらい仕事終わりに通いつめるほどファンになり、店主にすぐに顔を覚えられてしまった。スパイスレッスンにも参加し、神戸のインド人街でスパイスツアーをしたのも良い思い出である。結婚し、子供が産まれて、家が離れてしまってからも時々無性に食べたくなり、家族で食べに行った。
それくらいこの店を愛していたのだが、残念なことに数年前に閉店したのである。心底ガッカリした。あのカレーが、もう食べられないのかと思うと人生の数%の楽しみを奪われた気分。

それから数年、大宮高辻通りにある『ムジャラ』というカレー屋が美味いらしい、と噂を嗅ぎつけ、夫婦で向かった。バンドマンらしき店主と、真っ青な壁色と店内に飾られる楳図かずおと水木しげるのグッズがひしめき合っている。当たり障りのないかんじよりも、独自の世界観を押し出してくるのは嫌いではない。
早速スパイスカレーを食すと、チャクラというチャクラが開き切るのではないかと思うほど、スパイスの祭りだった。非常に攻めている。それが第一印象だった。
先日久しぶりに夫と昼飯を「ムジャラに行こう」となった。しかし家から車で25分ほどなのでわざわざ行くには・・という距離感。お互い午後から予定が詰まっていたので近場の店にしたかったのだが、ここは一つ、「本場の味噌ラーメンを北海道まで日帰りで食べに行く」感覚で向かった。
到着すると先客は二人のみ。テーブル席へ通され、夫は迷うことなく「三種がけの大盛りで」と頼んだ。私は三種の普通盛りを注文。待っている間にどんどん客が入ってきてあっという間に満席になる。カウンターには、会話から察してこの辺の在住であろう留学生二人と日本人女性。黙々とカレーを食べてすぐに店を出た若い男性と中年男性、見るからにカレーマニアそうなカップル、「持ち帰りで〜」と弁当を注文しにくるおっさん。そして我々中年夫婦。皆一様にスパイスをわざわざ求めにきました、と顔に書いている。
人間観察を終える頃には、カレーがやってきた。以前よりも付け合わせが増えているのは気のせいか。カレーのお祭り、ここに開幕!という見た目で何から手をつけていいのかスプーンが迷うことったら。え、これも美味しい、これも、これも・・と過剰なほど思考が忙しい。しかも以前のような尖った若者のパンクス的スパイスカレーというよりも、こなれたいぶし銀の落語家のようなまとまり感。これは美味い。こっちの方が断然好きだしたべやすい。飲み込むようにあっという間に完食し、店をでる。非常に充実。大盛りを食べた夫は「胃がはち切れそう、でも美味かった」と顔を歪めていた。
また行きたい。




最初気づかなかったが、カレー、ごはんともにおかわり無料、と貼り紙が。
もう、スパイスのお祭り
壁には映画ひなぎくのポスター。よく見ると京都みなみ会館の文字。全てがなつかしい。青春。
楳図かずお先生と水木しげる先生のコラボ。慌てて、水木ファンの友人に写真を送りつける。



赤塚不二夫の世界観も混在



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