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イッセー尾形の舞台を死ぬまでに一度は見ておきたい。④


こちらの記事の続編です。


木屋町から河原町に抜け、のらりくらりと会場へ向かった。夜の御池通りを歩くのが好きだ。道が広くて自転車だったらなおよし。独身時代に寺町夷川のアパートに住んでいたので、この界隈は毎日行き交った道で友達の店もたくさんある場所。今は違う地域に住んで、結婚して、子供を産んで、あの時と全く違う生活を送っている。だからゆかりさんと二人夜の河原町通りを、あーでもないこーでもないと喋りながら歩いているのがとても不思議でならない。あの時のわたしとゆかりさんは別々の場所で存在していた。ゆかりさんはどんな人生を送っていたのだろうか。

荒神口を過ぎると会場が見えてきた。開演10分前。老夫婦が先に入っていき、追いかけるようにわたしたちも中へ入る。チケットを切ってもらい、ホールへ入ると、もうすでに席がほぼ埋まっていた。年齢層は割と高く、着物を着ているのは私だけではなかったが、見るからに高そうな着物の方がほとんどであり、なんちゃって着物姿で、すんまへん、すんまへんと海老のように腰を曲げながら席を探す。6列目の真ん中あたりでとても見やすい席だ。
席についてすぐに照明が暗くなる。開演だ。

クセあり中学教師に扮したイッセー尾形が舞台の真ん中に登場。風刺がきいた内容で、客の年齢層が高いのでドッカンドッカン受けている。ここは戦前の芝居小屋か?と思うくらいの威勢の良い笑いに会場で包まれ、タイムスリップしたような気分になった。横でゆかりさんも肩を揺らしている。一つのネタが終わるたびに、舞台袖に衣装とカツラなどの小道具が置いてあり、客の目の前で次のキャラクター扮装をしていくという流れになっていて、ネタが終わり舞台を降りた時の「何者にも扮していないイッセー尾形その人」になるのだ。それがその道ウン十年の寡黙な職人のような横顔で、わたしたちはその瞬間さえも緊張感を持って見守るのである。2時間休みなく客に見られ続けるってどんな心境なのだろう。この広い舞台で、たった一人で、空間を支配し続けるのだ。並大抵のパワーではできない、現に一つのネタに全力投球されるので、終わったあとは常に深い深呼吸をして整えていらっしゃる。そしてスポットライトが当たった時のイッセー尾形は、まるでこの世に生を受けた赤ちゃんのように、自由自在に無邪気に色んなキャラクターを演じる。タモリが雑誌のインタビューで「自分はテレビに出ている時が自然体で、家にいるときの方が演じている感じがする」と答えていたことを思い出した。イッセー尾形もきっと舞台上にいる時が解放されている瞬間で、世界に対して、喜劇という自己表現で大勢の観客を喜ばしているのだと思った。

ネタバレになるので詳しいことは書けないが、『神主による邪気払い』というネタで、「邪気だって人の子よ!」というフレーズに爆笑、ゆかりさんに思わず、え、どーゆーこと?と聞いてしまった。
あと紙芝居屋さんのネタで、たくさんの手作りお面を使用されていたのだが、それが一つ一つ非常に愉快な顔をしていて、絶対にゆかりさん、これ欲しいと思ってるに違いないと内心思い、終わってから「あのお面、欲しいでしょ?」と聞くと、大きく開眼して「欲しいです!」と前のめりになった。「あのお面グッズにしたら絶対に売れると思わへん?キーホルダーとかバッジとか、私だったら買うけど」「うん、ほしいほしい」「尾形さんに教えてあげよっか?」「そうですね」などとウザ客の会話をしながら会場を後にした。

阪急の地下に降り、冷えてきたので真っ赤な道中着を着ると、ゆかりさんは「は!写真取らなきゃ・・!」と慌てて、バッグの中からスマホを探し始め、急にマネージャーモードにスイッチが入った。
「では舞台のチラシを持って、宣伝しましょう」と指示が入ったので、言われる通りにチラシを持ち佇んだ。ゆかりさんのカメラモードのシャッターは5秒くらい時間がかかるので、その間ずっと静止しなければならず、こいつら何やってんだ、みたいな顔をしながら通り過ぎていく人を尻目に、わたしはフリーズした笑いでその場に佇んだのである。



おわり












おまけ




宣伝写真



この間抜けなポーズで5秒静止はきつい






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たみい
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