急に男の子は走り出す。


西原理恵子の漫画の中で、息子っていうのは急に走り出してどこかへ行っちゃうものなのよ、というシーンがあった。

ほう。そういうものか、やっぱり、と思いつつも、自分の息子のことを思うとあまりぴんとこなかった。

うちの息子はどちらかというと慎重派で、恥かしがりや、とても甘えたで、4歳になってもスーパーで少しはぐれただけで、泣きだしてしまうほどなのだ。

だから急に走り出してどこかへ行ってしまうなんて、まだまだ先だ、と思い込んでいた。


しかし、先日、帰り道に息子が急に言い出した。

「ぼく一人で帰るし!お母さんついてこないで!」とやる気満々の顔で宣言し、猛烈な勢いで走りだした。

追いかけると怒るので、はじめてのおつかいばりに、そうっと隠れて見守ってると、案の定突発的に飛び出したり、前を見ていないので、車にぶつかりそうになる。

何度も冷や冷やして、これは心臓に悪い。
なんかあってからでは遅い!と自転車を立ちこぎで息子を追いかけた。

女の子ならまだしも、男の子なんてなんにも周りを見ていない。目の前の蝶々か虫しか見てないだろ、お前ら、というかんじだ。それでも息子は風のように軽快に駆け抜ける。


とても自由で楽しそうなのだ。


うちの子、急にどうしちゃったんだろう。


次の日、息子とドラッグストアへ行き、会計を済ませていると、いつもなら隣で待っている息子が見当たらない。

消えた!

案の定、店を一人で飛び出し、家に帰る途中であった。

「おしっこ出そうやったから、先に帰ってたんや」と。


しかし、急である。

急に走り出して、どこかへ行っちゃうのか、男の子って。

そうやって数十年後に日本から飛び出し、海外に行っちゃうのだろう。

未来の息子の姿がうっすらと浮かんだ。


しかし急すぎて、母は心臓が、どきどきする。


2017.4.12『もそっと笑う女』より

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たみい
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