私が西加奈子に出会うまで③


サイン会にて念願の西さんと対面し、十年越しの夢が叶った気分だった。
自分が生きている間に、百年に一度のスーパースター、大谷翔平をリアルタイムで目撃できる幸福と同じくらいに、西加奈子という作家と作品に出会えたことはこの上ない喜びだ。

実はサイン会の時、お手紙を渡した。西さんへの想いをしたためたほんとうにまとまりのない手紙だ。
読んでもらえるかはわからないが、とりあえずお渡しした。

二週間ほど経ってから、家のポストに絵葉書が入っていた。
つげ櫛のイラストの切手に、東京の地名の消印が押されており、西さんの直筆で返事が綴られていた。裏面の絵は、カミーユ・ピサロの『夜のモンマルトル大通り』だった。
それは二十年ほど前に訪れた夜のパリの街並みを思い出させた。その絵葉書に、膨張したアフロヘアを揺らしながら、程よく煌めくネオンの街並みを、口をポカンと開けながら浮遊していた自分が浮かんでは消えた。

西さんらしい字とあたたかい言葉に、心がじいんとした。
人生で作家さんに手紙を送ったことは二度で、二度ともお返事をいただけたことは奇跡である。
勝手にファンレターというのは、滅多に返事などはいただけないものだと思っていた。
しかも、直筆で形に残るものということが嬉しい。
デジタル全盛のこの世の中、SNSでやり取りすることが当たり前で、それは形として存在せず、時には埋もれてしまって姿を消す。だからこそ、アナログの威力はすごいのだ。

出産する前に、数々の友人からお手紙をもらった。
それはメールで「おめでとう」と送られるより、何十倍も嬉しかった。その人の想いが、より込められていると思うし、その人の字体はその人自身を映し出しているからだ。字には力があると思った。


その友人からのお手紙も、西さんからのお返事も、わたしの宝物ボックスにそっとしまった。


記事を気に入っていただけたらサポートお願いします。それを元手に町に繰り出し、ネタを血眼で探し、面白い記事に全力投球する所存です。