夫がメキシコから帰ってきた。
関空まで息子と一緒に迎えにいったのだが、’あの’ラピート(難波~関空を運行する南海の特急電車である)に乗れるだけで、コサックダンスでもなんでもいい、小躍りしたい気分になった。
ホームにラピートが入ってきた瞬間も、
「ほらっラピート!来たよ!」と、息子へ言う’ふり’をしながら、実は自分が大喜びだった。
母親の異様なテンションとは裏腹に、息子は冷静に喜んでいた。
正直なぜラピートにそれほどの高揚感を持てるのかは、自分でもよくわかっていない。
さて夫である。
30時間のフライト(乗り継ぎ、待ち時間込)で、死神のような形相であった。
小型スーツケースと、でかいバックパッカーを背負って、髪もぼっさぼさ、死神のような顔、もうどこの国の人で何をしてる人なのかよくわからない。
ロスでの乗り継ぎで、メキシコから来たというだけで、怪しまれたそうである。
妙に納得した。
着いて早々、息子が何か食べたいと言い出したので、空港内の飲食店街を探すが、どこも満席で人が並んでいる。
なにせ30時間フライトでふっらふら、
「これ以上は待てない!」と、死神のような顔をした夫はすたすたとフードコートのような場所へ行ったのだが、どこも満席、やっとのことで席を確保するも、キレぎみの夫。
疲れているからイラつくのだ。
しかし、夫がキレたらわたしも倍返しでキレるという、ラテン方式をとってる我が家は、感動の再会も束の間、すぐに言い合いだ。
ラリーを数回繰り返し、私たちは551の豚まんを食べて数秒後にはもとに戻っていた。
腹が満たされれば、平和なのだ。
息子は両親の下らないけんかには感知せず、終始平和に豚まんを頬張っていた。
わたしへのメキシコ土産は、アクセサリーと、手のひらサイズのでっかい丸い水晶だった。すごい存在感だ。
織田無道を思い出した。
鉱物好きなので水晶はうれしいが、これをチョイスする辺りが、ふつうの夫ではないな、と思うのであった。
2017.2.21『もそっと笑う女』より