悪魔の目的地 第十七話

正月、私は実家に帰ってきている。

夜になるとコウタが迎えに来てくれた。
私はコウタの車の助手席に乗り込んだ。

『おかえりー!!!』

後部座席から女の人の声で言われた。

『え?』

振り返ると、そこにはユウナがいた。
ユウナも、小学校の頃からの同級生だ。

『ユウナ!!え?なんで?ビックリした!言ってよー!』

『ハハッ、言ったらサプライズにならないでしょ!』

『俺が誘ったんだ!俺、流石だろ?笑』

『うん、流石だよ!笑』

『あみ、ご飯食べた?私まだなんだよね。』

『え?そうなの?ごめん、私は食べちゃったから、二人の行きたいとこでいいよ。』

私たちは駅前の居酒屋へ行った。
が、満席で入れなかったため、ファミレスに移動した。

『相変わらずこの二軒しか無いのかよ。笑』

『うわ!あみが都会人ぶってる!笑』

『そういうつもりじゃないけどさ。笑 ユウナは?元気してた?』

『元気だよー。学生が羨ましいでしょ〜。』

『うん!!』
『うん!!』

『ハハッ、社会人、なりたくねー。笑』

私たちは近況報告に大いに盛り上がった。
二人とも、容姿は大人になったが中身は昔とちっとも変わらなかった。
安心する。
心が解放される。
この日、久しぶりに声を上げて笑った。
楽しくて愛おしい時間だった。
私には帰る場所がある。
それがどんなに嬉しいことか。

『あみの実家、引っ越したんだな。』

『うん。って言っても近いけどね。おばあちゃんちにね。』

『へぇ~。そうなんだ。そういえばうちらってさ、あみの家行ったことないよね?』

『いや、俺はある。』

『あぁ、あったね。笑』

『へぇ~。アンタたち昔から仲良かったもんね。』

『まぁ俺はあみの保護者みたいなもんだからな。』

『やめてよ。笑』

『この前もあみに会いに〇〇まで仕事の後行ったんだぜ?』

『え?!嘘でしょ?こっから?何時間かかんの?』

『3時間。』

『なに、アンタたち、付き合ってんの?』

『まさか。笑』

『あみ、ごめんな。俺には心に決めた人が居るんだ。』

『え?!彼女?できたの?』
『コウタ、やるじゃん!』

『いや、まだだ。これから彼女にする予定だ。』

『なんだそれ。笑』


その後はコウタの「心に決めた人」の話を散々聞かされた。
大口叩いていたが、多分まだ告白する勇気はないようだ。
相変わらず、不器用な奴だ。
でも、幸せになって欲しい。
誰よりも。

深夜2時頃、店を出た。
帰りも送ってもらった。

『じゃあ、ありがとね。ユウナも、会えて良かった。またね!』

『うん、また連絡するね!』
『あみ、頑張れよ!なんかあったらまたいつでも言えよ!』

『ありがと。じゃあね。』

『バイバーイ。』
『じゃあな!』



幸せだった。
車が見えなくなったあとも、私はしばらく微笑んだままだった。


翌朝、母と祖母とお雑煮やお節を食べた。
おばあちゃんちのお雑煮、何年ぶりだろう。
ここのお雑煮は特徴的だ。
それを書くと、地域を狭い範囲で特定されてしまうのだが、とにかく私は幼い頃、このお雑煮が大好きだった。
他では絶対に食べることが出来ない、この地域ならではのお雑煮だった。
私のその食べっぷりに、おばあちゃんはとても喜んでいた。

その日は地元の神社に三人で初詣に行った。



どうか、どうか、おばあちゃんが長生きしますように。
癌で苦しむことがありませんように。



そして、夕方になった。

『じゃあ、そろそろ、帰るね。』

『あぁ、もうそんな時間なのね…。駅まで送っていくから、ちょっと待ってて。』

『うん、ありがとう。』

するとおばあちゃんが奥の襖を開けた。

『あみ、いらっしゃい。』

『何?』

『はい、これ。』

ポチ袋と神社の小さな紙袋を差し出す。
お年玉と、さっきの神社で買った御守だった。

『え、おばあちゃん、ありがとう。でも、私もう社会人だから。笑 お年玉貰う歳じゃないよ。』

『何も言わずに受け取ってちょうだい。…ずっと渡してあげられなくてごめんね…。』

目頭が熱くなる。
ポチ袋がぼやけて見えた。

私は受け取った。

『おばあちゃん、ありがとう。』

『身体に気をつけて、頑張るんだよ。』

『おばあちゃんも、元気でいてね。』

『あいよ。またいつでも帰っておいで。』

シワシワで硬いその手と握手をした。

その後、母に駅まで送ってもらい、電車に乗った。
帰りの電車では、いろんな感情が押し寄せてきた。
戻りたくないな。
まだここにいたかったな。
せめて、あともう1日だけ…
お母さんと、おばあちゃんと、みんなと、もう少しだけ、一緒にいたい…。
涙が溢れた。

携帯が鳴った。
メールだった。
開くと、ユウナからだった。
ファミレスで撮った三人の写真が送られてきた。
三人とも楽しそうに笑っている。

『がんばろ…。』

誰にも聞こえない声で呟いた。



📩
《あみ、あけましておめでとう。実家は楽しめたか?》

《あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。はい、お餅たくさん食べて来ました。水野さんは?》

《俺もだよ。今飛行機降りたところ。》

《私も電車です。また連絡しますね。》


水野さんが居てくれるから、私は安心してあの場所に戻れる。
水野さんとのメールを終えると、先程までの名残惜しさも消えていた。

また頑張って、そしたらまた帰ってこればいい。

ちゃんと帰る場所はある。

私は、大丈夫。


空には綺麗な月が浮かんでいた。







続く。

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