悪魔の目的地 第六話

バーンッ!

何かを叩きつける音がした。

『マジでお前何考えてんだよ!なぁ!なめてんだろっ!』

ある日の業務開始前、激しい物音と共に河本が誰かに喚いていた。
思わず、溜息が出る。
そして周りを見渡す。
今日は誰が餌食となっているのか…。

カオリがいなかった。
私は嫌悪感MAXで悪罵のする方へ向かった。
タケルも駆けつけていた。

『なぁ!やる気ないなら帰れよ!』

『…。』

カオリが俯いていた。

『何の騒ぎですか?』

『は?おめーは黙ってろよ。関係ねーだろ!』

『外まで聞こえてます。』

言い終わると同時に、手元にあったファイルを投げつけられた。

『お前らマジで使えねーんだよ!どんなけ迷惑かかってんのかわかってんの?』

「そっくりそのまま、風呂敷にでも包んで御返しします。」
…とは、思っても言えない。

『じゃあテメェがこれやっとけよ!』

足元に落ちていたファイルをこちらに蹴ってよこした。

私はそれを拾った。

『8:30までにやっとけよ。偉そうに首突っ込むならお前がやれ!』

そう言ってゴリラは去った。

『あー。マジでうるさっ。カオリ、大丈夫?』

タケルが言った。
カオリは俯いていた。
今日、カオリは定休明けだった。
休み明けの朝が、これだ。
可哀想でならない。

『いいよ。私、今やることないし、ちゃちゃっとやっとくわ。カオリやることあるでしょ?そっちやっておいで?』

『もう無理かも。』

『え?』

『もう、無理だよ…。』

そう言って私の横を通り過ぎていった。


あ…
カオリもきっと、辞めちゃうんだ…。
そう思った。


数日後、カオリは来なくなった。
店長にも、そして同期の私たちにも、何の連絡もなかった。
夜逃げだった。

電話をしたが、繋がらなかった。
おそらくスタッフ全員の番号を着信拒否したんだと思う。

私は、空っぽになった。
私は今、何のために働いているんだろう。
誰のために働いているんだろう。
自分のため。夢のため。
それって、本当?
なんでこんな奴に支配されているんだろう。
守りたいものが、一つも守れない。
いつも誰も助けられない。
気がつけばもう手遅れで、もう誰も戻ってきてくれない。
マコのこと、守れなかった。
カオリまで、守れなかった。
仲間は守りたかった。
私が守ってるのは何だろう。
河本なのではないか…。

私は一体、何をしているんだろう…。
きっと、もっと、何かできたはずなのに。 


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