こんなところにも詩が生きていて。
韓国では日本よりずっと詩集が売れていると何度か聞いたことがある。
確かにドラマや映画に黄金期のハリウッドやヨーロッパ映画のように
詩が引用される場面が多々あってハッとさせられる。
ブームを起こして日本版まで制作された「梨泰院クラス」ではこのドラマの
ために作られた詩まで登場している。
私が最も印象的だったのが韓国版「テラスハウス」とも言える恋愛リアリティ「ハートシグナル」のパート2に出てくる場面だ。
日本では今でも
amebaTVで見ることができる韓国では大人気のシリーズらしい。
ある内向的で静かな漢方医の男性が、自分が心を寄せるヒョンジュという可憐な女性から詩集を借りる。彼女は自分と全く違うタイプの男らしい一番人気の男性に惹かれている。
二人きりの初デートで、彼は夜通し覚えた詩集の中のひとつの詩を思い出しながら
ゆっくり、ゆっくり すべて書いて見せる
(番組ではもっと長かったように思うが一部だけ)
━僕の手に太い糸を繋いでくれる人が
あの木の後ろから来ている
僕たちは
自分では閉められないドアを
ひとつずつ持っているのだが
そのドアを閉めてくれる人が
来ているのだ━
(「ハートシグナル2より」『来る』※作者不明)
書き終わったとき彼女の目をまっすぐに見て言う。
「この詩のなかにある(人が来る)が、ヒョンジュが来るに思えた」
ドラマの脚本ではない。
彼がきっとほかの男性に心を向けているだろう好きな女性に思いを伝えようと一生懸命考えた方法。
一文字一文字丁寧に思い出しながら書いていく姿が真摯で
彼の思いのまっすぐさが伝わってきて
一瞬息を止めてしまうほどきれいだった。
残念だけど
その後彼の思いがヒョンジュを捉えることは出来なかった。
でもあの瞬間
誰かが書いた「詩」は彼だけの「詩」になっていて
その詩の空間に導き入れた彼女の心を揺らしたのだけは
間違いなかった。
人が生きる場所に「詩」がある。
(了)