シンエヴァのメタ構造とのキャラの対応の考察
ネタバレ注意
この記事はネタバレです。
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(ネタバレ回避のための文字数稼ぎ)
未視聴の方はご注意ください
はじめに
前回の記事で「ゲンドウが庵野監督ならば、シンジは庵野監督の子供であるエヴァという作品そのものに対応している」と書きました。
庵野監督の内面を邪推し断定するような語りになり、あまりいい文章にならなかったという反省はあるのですが、シンエヴァが庵野監督が内省を吐露する作品であった以上はある程度は不可避なのかもしれません。今回の記事もとりとめとない妄想に近いような語りになっています、ご了承ください。
この記事では前回では語りきれなかった「シンジ=エヴァという作品そのもの」とメタ構造をおいた場合のキャラの対応を緩く感想を交えながら考えてみたいと思います。
ゲンドウとシンジ
ゲンドウとシンジの二人に、庵野監督とエヴァとの関係性を重ねれば格闘シーンとその後の対話もまた違ったエモさがあります。創造者と作品の間で、ときに滑稽なようでも切実で魂を削るような戦いが25年間も繰り広げられてきたのでしょう。
ゲンドウは「補完計画にあたってシンジが必要なのかわからなかった」と語ります。それは庵野監督が旧エヴァをどう扱えばいいかわからず完全に別物で上書きすることも考えていたことを示唆しているのかもしれません。
「他人の思いを受け継ぐことができるようになったのか、大人になったな」という言葉もエヴァという作品が成熟し、呪縛されてない様々な人の思いで溢れる器にまでなったという感慨でしょうか
長年望まれたゲンドウとシンジの和解に、監督とエヴァとの和解を重ねる、素晴らしい構図です。
人類補完計画と槍
ゼーレはスポンサーなど、庵野監督に上から圧力をかける象徴と考えられ、ゼーレの人類補完計画は商業上都合がいい完結の仕方ではないかと想像できます。
ではゲンドウ、そして庵野監督の人類補完計画、アディショナルインパクトとはなんだったのでしょうか。
その目指すところは、ガンダムのニュータイプの概念をファンにも期待する富野由悠季監督のように、ファンを高次に導くような理想のエヴァの制作ではないかと考えます。それは劇中でエヴァに呪縛されたファンの象徴であるインフィニティのなりそこないを高次の存在に昇華しようとしたようにです。
そしてその実現方法は「エヴァの呪いを終わらせない」という選択によるものだったのかもしれません。
アディショナルインパクトは槍を消滅させることを前提としていました。では槍とはなんの暗喩なのでしょうか。それは作品の終結だと考えられます。
「ニアサードインパクトは不完全だったアニメ版最終話の暗喩である」と、前回の記事で書きましたが、不完全に停止させたものこそが槍でした。Qでの「やりなおし」も同様に槍がキーアイテムになっており、旧劇場版の終結に対応してるようにみれます。
庵野監督は呪いを終わらせないことで、無限の中でいつかは理想のエヴァが見いだせると考えていたのかもしれません。それは「生きてさえいればいい、だって生きてるんですもの」という無限を生きる選択をしたユイのようなおぞましさを連想させます。
想定外の第三者から第三の槍があたえられ再度の終結の機会を得たことで「作品が存在さえしていればいい」から「作品がどう存在すればいいか」に進歩したのもシンエヴァのエモい点のひとつと自分は感じています。
ヴィレとミサト
ではその槍をつくりだし届けたヴィレとミサトは何に対応しているのでしょうか。
それはエヴァに多数含まれる過去のアニメや特撮作品のオマージュ的要素等の庵野監督が純粋に楽しめる創作部分と考えることができます。
ヴンダーまわりは露骨にオマージュや曲そのものが使われています。最後の作戦名は宇宙戦艦ヤマトにちなんだ「ヤマト作戦」ですし、ミサトも最後は反動推進型エンジンを使った特攻、つまり古典的なオマージュを頼って力にして槍を届けます。
ヴィレがエヴァを普通のアニメの枠内に押さえつけようとする力の象徴ならば、仮にヴィレが完全勝利した場合、シンエヴァは凡庸なアニメ作品のように普通の終わり方をしたという妄想もできるのかもしれません。その拮抗があったからこそ緊張感が生まれ、ゲンドウ(庵野監督)の目論見どおりに、補完計画が進行できたと言えるのかもしれません。
アスカ
アスカはヴィレと近い存在ですが、古典作品のオマージュではなく旧エヴァの庵野監督が気に入ってた部分のセルフオマージュ、つまりクローンなのかもしれません。
Qで打ちのめされたシンジをひっぱり第三村につれていき、食料を無理やり食べさせたのはアスカです。旧エヴァの自己肯定できる部分の存在が、エヴァという作品を立ち直らせる最初のきっかけになったことの暗喩といえるのかもしれません。
アヤナミレイ(仮称)
アヤナミ(仮)もシンジに食料を食べさせた存在で、想いとともにS-DATを渡して、シンジをゲンドウに立ち向かわせる決意をさせます。
前回の記事で、アヤナミ(仮)はエヴァの浅い商業利用であり表層的コピーの幻影である「そっくりさん」ではないかと書きました。
「そっくりさん」は第三村でありのまま受け入れられ、汗水ながし泥に塗れエヴァという作品と接点がないようなご婦人と労働をし、子供ともふれあいます。
それは旧エヴァの酷さを考えればありえない、作品そのものではどうしても為し得なかったまるで健全なアニメかのような振る舞いなのですが、時間と幻影がそれを実現させてしまいます。
シンジというエヴァそのものの前では幻影は幻影でしかなく、アヤナミは消えてしまいますが、作品が生きる糧(つまりお金)を与え、理想の在り方を提示する重要な役割を果たしたといえます。
(情緒がない話ですが現実にパチンコによる莫大な利益がなければ映画はつくれなかったと言われています)
カヲル
シンジの幸せを願い行動しつつも、幸せを誤解していたと吐露するカヲルはメタ構造からは解釈が難しいキャラです。
エヴァという作品の幸せを願い具体的な行動をし影響を与え、庵野監督がだした答えが自分の想定と違っても肯定してくれる存在を時系列にあわせて当てはめようとしてもなかなか完全にはなりません。
なんとなくですが、師匠的存在である宮崎駿監督を連想させます。Qでのピアノの連弾は風立ちぬへの主役声優としての参加と当てはめることもできるのですが、風立ちぬの公開はQのあとですし、「やりなおし」を旧劇と解釈した場合とも時系列が狂ってしまいます。
宮崎駿監督、そして富野由悠季監督への師事でえた様々な経験や、エヴァンゲリオンブームあとなんどか行われた対談などを総合したイメージ、といった感じでしょうか
ユイとレイ
庵野監督にとってのユイはアニメ・特撮文化であると前回の記事に書きましたが、庵野監督が考える理想のエヴァンゲリオン的な側面も含まれているのでしょう。
「碇くんがエヴァにのらずにすむように」と初号機のなかに残っていたレイは、ユイのクローンという点で理想のエヴァの断片と解釈できます。
ニアサードインパクトであるアニメ版の不完全な最終回も、Qのやりなおしも理想のエヴァの断片を無理やり取り戻そうとあがいた結果とも言えるでしょうか。
マリ
カヲル以上に解釈が難解で、各所の感想をみてもその特異さを消化しきれてない印象です。
懐メロ好き、ユイとシンジに執着、ゲンドウと同じ目線、そしてシンジを現実に連れ出す存在。
もっとも多いのは庵野監督の伴侶である安野モヨコ先生でないかという解釈です。たしかに人生の伴侶がマリのようなポジティブなパワーを持つのも事実でしょう。
しかし、なんとなく腑に落ちない感覚が強くあります。もし庵野監督が結婚を素晴らしいものだとそのパワーを描くのであればもっと作品に馴染む丁寧な描かれ方がすべきですし、執着と救済の対象もゲンドウになるべきです。
そもそも庵野監督がそんな素直にのろけられる人間ならエヴァの呪いは生まれていないのではとすら思ってしまいます。
シンエヴァで特異で特別な存在であるマリはどう解釈すればしっくりくるのか、その答えは「ありのままのエヴァという作品を純粋に求める視聴者」なのではないでしょうか。
何故ならば、アニメは視聴者がいなければ成り立たないというのが真理であり、視聴者それぞれのなかにそれぞれのエヴァがあるというのも真理だからです。
視聴者がいなければただの映像データでしかない、とばかりに原画になり静止しかけたシンジを助け出したのはマリでした
つまり、安野モヨコ先生と解釈できるのはひねくれた監督が意図的に仕込んだひっかけで、エヴァという作品を現実に連れ出し旅立ったのは視聴者であり、エヴァはあなたの傍にあることにいつか気づきますようにという監督のツンデレの発露なのかもしれません。
そうするとマリの「どこにいてもかならず探し出す」というシンジへの強い執着も理解し受け入れることができます。閉じていたエヴァを解放し、現実に連れ出すのに視聴者は間違いなく関わっているのですから
終わりに
こんな妄想に近い長文を最後まで読んでくださってありがとうございました。
こういう考察はしょせんはほぼ結論ありきのこじつけですので、異論やツッコミどころも多大にあると承知していますし、この解釈が絶対的に正しいと押し付けるつもりは毛頭ありません(エヴァ考察を読み慣れてる方々には今更の蛇足注釈でしょうが)
作品は感じたことがすべてですので、もしこの解釈でよりシンエヴァという作品から感じるところが増えたのであれば幸いです。
なお、マリが視聴者であるという解釈はどなたかの感想を思い返してみてしっくりきたという形で自分で考えついたものではないのですが、失礼ながらどなたの記事かを失念してしまいました。また探してみようと思います。
追記
七烏未奏様の記事でした、ありがとうございます
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