朔夜

アフリカの旅人を経て日本へ。

朔夜

アフリカの旅人を経て日本へ。

マガジン

  • ハートにヒビが入るほど綺麗な海を探しに行く物語

最近の記事

ハートにヒビが入るほど綺麗な海を探しに行く物語-12-

あらかたの客は帰ってバンダの下の寝椅子も少し空席が見られた。 帰りの船はいつ来るの?と問いかけたら、船が来たら呼ぶからバンダの下にでも座って待ちなさい、と言われた。 いろいろなことがあってもうクタクタだった。 最初あれだけお金がかかることを気にしていた寝椅子のレンタル料も、もう払ってもいいから静かに休みたいとも思った。 空いた寝椅子に横たわり、リュックからヴァージニアのDUOを出した。 小さな細長い箱には2本しか入っていないが、そのうちの一本に火をつけてゆっくりと吸い込む。吸

    • ハートにヒビが入るほど綺麗な海を探しに行く物語-11-

      ここの国では見返りの見えない善意ほど危険なものはない。 田舎ではどうだがわからないが、少なくともダルエスサラームでは初めて会った素性の知れない人の度を過ぎた親切には必ず黒い下心が潜んでいると考えてよかった。 以前に夜中に友人と道端を歩いていて、大きな蛮刀を持った強盗に襲われた。自分は幸い怪我もとられたものはなかったが、その時の被害を日本大使館に報告しに行った。 その時大使館の領事が直々に話を聞いてくれて、その際に教訓としていろんな人の被害にあった話を聞いた。 仲好くなって

      • ハートにヒビが入るほど綺麗な海を探しに行く物語-10-

        帰りの準備をするために海で水着に入り込んだ砂を洗い流し、体を軽くふいた後濡れた水着の上からそのまま服を着て、日焼け後専用のローションを体に叩き込んでいた。 そうしていると、後ろから「今夜は泊らないのか」と声をかけられた。 ボスの前に対応したスタッフだった。 あたしは「20ドルですべてが済むなら泊まりたかったけど、お金がないから今日はよしておくわ。」と説明した。 彼は英語がよくわからないのか私の発音がいまいちなのか、「なぜ泊らないのか、なぜだ、泊りたいんだろ?」と再び聞き返し

        • ハートにヒビが入るほど綺麗な海を探しに行く物語-9-

          あたしは数時間のあいだにこの島で様々な危険な目にあった。 しかしそれと同時に今まで体験することのなかった経験ももたらしてくれ、あたしはこの島を愛してしまっていた。 最後の帰りの船の時間が近づいていたが、できることならもう少しとどまりたいと思った。 ドイツの邸宅も、洞窟も、まだ辿りついていない。 あれだけ危ない目にあったにもかかわらずあの砂浜の先にもっと行ってみたかった。 ボンゴヨ島は無人島で、泊まれる施設はない。しかしキャンプはお金を払えばすることも可能だった。 キャンプテ

        • ハートにヒビが入るほど綺麗な海を探しに行く物語-12-

        • ハートにヒビが入るほど綺麗な海を探しに行く物語-11-

        • ハートにヒビが入るほど綺麗な海を探しに行く物語-10-

        • ハートにヒビが入るほど綺麗な海を探しに行く物語-9-

        マガジン

        • ハートにヒビが入るほど綺麗な海を探しに行く物語
          12本

        記事

          ハートにヒビが入るほど綺麗な海を探しに行く物語-8-

          岸壁の上の熱い日差しと潮風は既に行きに濡らした服を乾し海苔のようにパリパリに乾かし、海から上がったばかりの体の水気を蒸発させていった。 リュックの中からペットボトルを取り出し、目にしみる海水を洗い流そうと蓋を取り顔に浴びせかけた瞬間、水が熱湯のようになっていて驚いた。 単独での無人島探検とはいえ他の観光客に貴重品を盗まれないように人が来ないような岸壁の上にリュックを置いたままにしていた。 島の周りで生きるか死ぬかの悪戦苦闘をしている間にリュックの生地の上からとはいえ太陽の熱

          ハートにヒビが入るほど綺麗な海を探しに行く物語-8-

          ハートにヒビが入るほど綺麗な海を探しに行く物語-7-

           自分の両の目が追うものはただ動いている岸壁の天井のみだった。 自分が島のどの位置にいるか、あとどれくらいの距離が残されているかも考えることなく、ただ自分が確実に前に進んでいるということのみに集中した。 天井を見ることだけに専念していたので時々不意に現れる横壁や岩に頭や腕をぶつけて悶絶した。 体のかしこが傷んでゆくのを感じた。それでもただビーチに帰ろうという強い意志は傷の痛みを掻き消し、水を掻く手、水を蹴る足に力を込めさせるばかりだった。 時々壁を強く蹴り推進力を利用して

          ハートにヒビが入るほど綺麗な海を探しに行く物語-7-

          ハートにヒビが入るほど綺麗な海を探しに行く物語-6-

          満ち潮は打ち寄せるたびに高い位置にある乾いた岸壁を海水で濡らしていった。 既に肩ほどまでの高さになった水域の驚異的な上昇の速さに対して、落ち着こう、焦る必要はない、自分は泳げないわけではないし岸壁に捕まるとこさえあれば息継ぎもできる、と自分に言い聞かせた。 しかし体中に虫が走るようなざわざわとした感覚と、透明な海に自分の嫌な汗が染み出ているのを感じ、どんなに気持ちの上で焦燥感を消そうとしても体が不安を感じているのを隠せなかった。 もしサメが実際に襲いかかってきたらどうしよう

          ハートにヒビが入るほど綺麗な海を探しに行く物語-6-

          ハートにヒビが入るほど綺麗な海を探しに行く物語-5-

          無人島の岸壁に探検しにきたあたしは潮の満ち引きの考えが全くなかった。 無謀にも潮が引いた島の周縁を探検してきたが、潮は満ち、帰り道は海の底に沈みつつあった。これ以上進むと危ないだろう。 しかし元にいたビーチに帰ろうと決意するよりも、もう少し往生際悪く先に進んでみたいという気持ちがあった。 砂浜の先の海は今まで歩いてきた道より深く、肩まで水があった。 どうせここまで来たなら島の反対側まで踏破してみたいと思ったのだが、ドイツの邸宅が建っているという島の先端は幾分か近くはなってい

          ハートにヒビが入るほど綺麗な海を探しに行く物語-5-

          ハートにヒビが入るほど綺麗な海を探しに行く物語-4-

          半分洞窟のようになったこの不思議な形をした島の周りをたどっていくとなにがあるのだろう。 何かきっと素敵なことが待っているに違いないとわくわくしながら、気合いを入れなおすようにリュックを背負いなおし歩き始めた。 しかし歩いて数分もたたないうちに滑った。 あたしがはいてった靴はトレッキングと水遊びどっちでもいけるようなゴムスリッポンだった。 あの足の甲の所に穴がいっぱい空いているやつだ。 帰国した友人からもらったもので使いこんであったので底の裏が擦り減り、あんまり摩擦がないの

          ハートにヒビが入るほど綺麗な海を探しに行く物語-4-

          ハートにヒビが入るほど綺麗な海を探しに行く物語-3-

          ボンゴヨ島のトレッキングルートの森の入口へ立つとそれは一本の道のように見えた。 少し様子を見るつもりでとりあえず目の前にある道を進んでみた。 ボンゴヨ島に来ている客はトレッキングなどには興味がないらしく森の中はあたし一人だけだった。 あたしがボンゴヨ島に行くきっかけとなったインターネットに載せられた旅人の情報によると、自然の岩のくぼみに海水がたまってできたタイドプールやシャークラグーン、洞窟、ドイツ植民地時代に使われていたドイツ人がかつて住んでいた邸宅跡地があるらしい。

          ハートにヒビが入るほど綺麗な海を探しに行く物語-3-

          ハートにヒビが入るほど綺麗な海を探しに行く物語-2-

          サンゴの石を使った土台の船着き場の周りはどこまでも続く干潟だった。 緑の水草の上に木を一本くりぬいて作ったような朽ちた小舟が2、3艘横たわっており、それは今はもう使われてないようだった。 海沿いには白い石灰が塗られた綺麗な建物が並び、スペインやチリの海沿いの街を思わせた。 きっとこの海沿いの豪奢なお城のような建物はすべて外国人によって建てられ、外国人のものなのだろう。 港にはたくさんのヨットやクルーザーや帆船が浮かんでおり船の上には優雅にマリンスポーツを楽しむ白人がいた

          ハートにヒビが入るほど綺麗な海を探しに行く物語-2-

          ハートにヒビが入るほど綺麗な海を探しに行く物語-1 -

           「自分の行きたいところに行くのに誰か一緒に行く連れがいなかったら、   いつまでも自分の行きたい場所や夢を諦めるの?   私は一人でも私の行きたい場所に行く」 今でこそ一人で行きにくい場所に行くにも強気でそう発言して、おひとり様でどこに行くにももう怖いものはない女になったが、 かつてあたしは知らない場所に一人で行くことができない弱い人間だった。 これは、そんな誰かと一緒でなければ行動できなかった女の子が、初めて一人で旅に出始める物語。  2000年代も一桁の時代が終わり

          ハートにヒビが入るほど綺麗な海を探しに行く物語-1 -

          5年間行方不明だった愛車と再会した話

          5年前のある日突然、いつも停めていた駐輪場から、愛車はいなくなってしまいました。 初めての購入は十数年間以上前、19歳の時、目標の大学に行くために借金をして予備校に通い、新聞配達所で住み込みで働き、ようやく借金が返済し終わり、合格のお祝い金と貯めたお金を合わせて大学の通学のために初めて購入したものでした。 初めて買ったバイクは通学以外にも、ツーリングに使い、東京から山梨まで旅をしたり、奥多摩を走ったり、京都や大阪などいろんな場所を一緒に旅してきました。 会社員になってから大阪

          5年間行方不明だった愛車と再会した話