【毎週ショートショートnote】○○詐欺
「何だか臭いと、思っていたんです…。まさか自分が引っかかるとは思わなかった」
そう言って老齢の男性が、しょげた様子でコーヒーを啜った。
今、世間を震撼させている「○○詐欺」の被害者ということで、早速近所の喫茶店で話を聞かせて貰うことになったのだ。
事件後、男性の生活は一変し、家の外壁や玄関には誹謗中傷のビラが連日のように貼られていくのだという。
好きなものを目の前にすると人はその誘惑に負けてしまうものだ。
何とも胸くそ悪い。
「最後に何か、ありますか?」
すると彼は一言一言噛みしめながら、
「後悔しています。私は長いこと、豆やナッツ系を好んで食べてきたんだが、まさかあれが、あのちょっと潰れた銀杏だったなんて思わないじゃないですか。『ちょっと』ですよ、『ちょっと』。
あそこまで潰れるならいっそぺしゃんこの状態で置いておいてくれればまだ良かったのに。あの臭さが最上級になる状態に止めておく犯人の狡猾さに、私は心底腹が立っていますよ」
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