【ことわざdeショートショート】欲求不満は恐ろしい
私は無類のモフモフ好きだ。
特に、毛布や掛布団といった肌触りが重視されるアイテムには特に厳しい。
会社の冷房対策で購入したこだわりのブランケットにおいては、10万という目玉が飛び出しそうな金額なのだが、購入までに5年という歳月を要した。
だがそれ以上に好きなのが、大型犬。
大型犬といえば、モフモフ。
モフモフといえば、秋田犬、いや柴も捨てがたいし、プードルの丸みモフモフも悪くない。
この仕事で量産されるストレスも、モフモフにまみれればたちまちのうちに吹き飛ぶことだろう。
だが、それは永遠に叶うことはない。
だって、私は重度の「犬アレルギー」だから。
猫は平気だし、動物園ではどんなにめいっぱい深呼吸をしても、うんともすんともならない。
だけど、犬だけはダメなのだ。
あ~、一度でいい。
モフモフにまみれながら、存分に犬成分を体内に取り込みたい。
そんな叶わない思いを抱えながら、日夜SNSで犬の動画を見ては、一人悶える日々を過ごすのだ。
ある日の、そよ風が心地よい日のこと。
とうとうモフモフ欲求が爆発してしまった私は、虚ろな目を浮かべながら道をさまよい歩いていた。
穏やかな陽ざしが、Tシャツから出ている腕をじりじりと焼き尽くす。
すると遠い向こう側から、何やら白い物体がこちらに向かって近づいてくる。
もしや…。
私は欲求赴くままに、一目散に駆けよっていった。
(あのモフモフに触れられれば、私死んでもいいかも…)
そう思った瞬間、私の額に衝撃が走った。
「…あの~、大丈夫ですか?」
作業着姿の若いお兄さんが、心配そうに覗き込む。
私はガバっと起き上がったものの、立ち眩みで倒れそうになる。
「えっ…?うそ…」
額をさすっている私の目の前にあるのは、大きくへこんだ小型冷蔵庫だった。
救いなのは、そのお兄さんがかなりの犬顔だったことぐらいか。