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【掌編小説】色は匂えど

 窓を開けると、寒気が私の部屋の中に吸い込まれてきて、それが私の顔をかすめ、顔に冷水をかけられた心持ちになった。だが、やはり顔に触れられたのは液体ではなく気体で、独特でいて哀切な匂いを運んできた。外の空気が季節はもうすぐ冬であることを教えてくれている。空を見ると、雲一つない青空で、この広い空に太陽が一つ圧倒的な存在感で、でも孤独を感じさせるような寂しさで居座り、私の家の庭を照らしている。冬になりかける時の光の中に見える土の色の麗しさを形容したいといつも思うのだが、どうしてもできない。そのもどかしさを感じながら部屋の中の方へ振り返ると、イーゼルに立て掛けられた描きかけの自画像が「どんな色も、もとは生命の色だと思うし、自然の色だと思うから、クレパスやペンキや絵の具や染料の色はそのまねだと思っている。極彩色の中で、生きものの生命の色はますますかすんでいく」と喋り出した。わたしはその言葉にはっとさせられ、急いでその描きかけの自画像に取り掛かった。

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