1-12 謝罪1
巡回訪問が終わったあと、またいつも通りの集会の日がやってきた。
王国会館に行くと、塩田とその取り巻きはホッと一息ついたかのようにリラックスしていた。
なぜわかったのかと言うと、巡回訪問の時は行儀良くしてたのに、またいつものとおり、やれどこのスーパーが安かっただの、通販の番組が面白いだの馬鹿話に興じていたからだ。
ちなみに、王国会館は崇拝を行う場所なので、そこで世俗的な話をすべきではないという通達が本部から再三来ている中でのこの所業だった。
いつも通りの光景を横目に、集会の開始を席で待つ。時間が来ると、讃美歌、祈りから始まり、お決まりのメニューが消化されていく。
集会が終わり、家族で帰宅しようとしたところ、私だけ塩田に声をかけられた。
歩いて帰ることのできる距離なので、家族には先に帰るように伝えた。
何か巡回監督から釘を刺されたのだろうか?それともまた別件を捏造するのだろうか?
そもそも私はこの時点でまだバプテスマ(いわゆる洗礼)を受けていなかった。いわゆる研究生という立場だった。おまけに、未成年でもあった。
なので、私だけ呼び止めて何かをしようという塩田の物事の扱い方は、塩田の持ち合わせている社会的、聖書的常識のレベルをあらわにしていた。
私は塩田に誘導されるまま、第二会場と呼ばれる個室に入った。そこにはシンイチもいた。
「まあまあ、すわって。」
塩田はいつになく下手に出てきた。
私はとりあえず椅子に腰をかけた。塩田が続けて口を開く。
「いや、ほんと悪かったね。勘違いしていて。今日は親子できちんと謝りたいと思って。」
塩田やシンイチが表裏問わずたくさん嫌がらせしてきたことは事実だった。これについて謝るのならわかる。しかしそうではないようだ。
おまけに“勘違いしていた”の意味もわからない。
「私に謝られることはないですよ。エホバに献身を誓った身で何をやったのか、シンイチくん自らきちんと行動し、会衆の長老たちも手心加えることなく取り扱う必要がある、それだけですよね。巡回監督もそうおっしゃってましたよね。」
「まあまあ、それはこれからだから。まあとりあえず、こうやって謝ることは勇気がいることなんだよ。謙遜じゃなきゃできないことだよ。長老がこうやってるんだから、今日はとりあえず謝罪の場を設けたということで、ね。」
自分たちのやったことを棚に上げて、勝手に適当に謝って、それを自ら謙遜だと評価する。
こんなひどい大人、エホバの証人が馬鹿にする「この世」(一般社会を彼らはこう呼ぶ。因みに悪魔サタンの所有物ということになっているので、多少侮蔑的な意味が含まれる)にすらいない。
この謝罪がただ形だけだというのは明白だった。
こんな茶番に付き合いたくはなかった。かと言って、へたなことをすれば神への反逆だ何だとその地位を利用して罪を捏造されかねない。
私はとりあえず当たり障りなく対応し、その場を後にした。
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