1-17 この世1
前にも少し触れたが、証人たちは一般社会のことを「世」と呼ぶ。
キリストがこの世のものではないとか、サタンがこの世を支配しているという聖書の記述からそう呼んでいる。これにはサタンの所有物なので何となく侮蔑的な意味合いを含んで使う人が多い印象がある。
ところで、この世にある中学校に通う中学生であった私は次の進路をどうするか、そろそろ決めなければならない時期に来ていた。
私は、将来は宣教者になりたいと思っていたので、高校は通信制にして、余った時間を語学の勉強と宣教活動に振り分けたいと考えていた。
私の親は基本的に私の決めたことには反対はしない。だが、ここで問題が起こった。
担任の教師からものすごい反対が起こったのだ。
普通のエホバの証人なら神のための活動をしようと決意した時にこうなったわけだから、サタンの妨害だとかいうのだろう。しかし私も私の親も至って冷静だった。
三者面談の時、担任の教師は親にこう言った。
「せっかく偏差値がこれだけあるのに、もったいない。いい学校に行って大学進学した方が絶対に良いと思います。」
親は微笑みながら私に何か答えるよう合図してきた。私は担任教師にこう答えた。
「先生。私は将来的に宣教者になりたいので、この道のプロになるべく、早い時期から取り組みたい。だから、この学校にしたいです。」
たぶんこんなことを言った気がする。
「食べていけるんですか?そんなんで。ねえ、お母さん。」
先生の問いに母親はこう答えた。
「はい。食べていってる人はたくさんいます。ですけど、まだ時間が少しあるわけで、家でも話し合ってみますね。」
「ええ。一度きりの人生。ぜひそうしてください。大学に行って見聞を広めてからでも遅くない。」
担任の先生は、比較的宗教活動については公正に取り扱ってくれる人だった。個人的にもよく話したりして決して関係は悪く無かったと思う。
大人なってわかるわけだが、イレギュラーな生徒は面倒だったはずなのにいろいろと親切にしてもらっていた。
先生も私のためを思って言ってくれたのは明らかだった。ちなみにこの時、担任から指摘された事があった。
それは少しだけ成績が下がっている事と、体調不良の件だ。
「お母さん。こいつ、ちょっと検査とかした方がいいかもしれません。たまーにですけど顔色悪い時があるんですよ。なんか心配ごととかあるか聞いてもないって言うし。」
「あら。」
「何か心当たりありますか?お母さん。」
「ありますねえ。」
「やっぱり。大事な時期だし、検査して下さい。」
担任は何となく私が何か抱えてると察していたみたいだった。
ただ、話しても仕方のないことだし、いわゆる一般社会の人には関わりのない話である以上、私から何があったのか話すことはなかった。