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1-9 巡回訪問1


 シンイチの盗みという悪行は、聖書の規準からすれば何らかの処分が下されるべきものだった。しかし、何の変化もないまま一ヶ月が過ぎようとしていた。

 その間に開催された巡回大会(大きな会場を借りて、いくつかの会衆が同時に集まる大きな集会のこと)では、模範的な若者代表としてシンイチがインタビューを受け、ステージで拍手喝采を浴びるというイベントもあった。 
 彼や彼の家族は神様に対してどう考えているのか不思議だった。

 おまけに、塩田一家の差金で、取り巻き連中からの私と私の家族に対する村八分が始まってもいた。といっても、私の家は広い範囲で付き合いのある家だったので、会衆というコミュニティで仲間はずれにされたとしても、他にたくさん行くところはあったので困りはしなかった。

 
 この頃私の頭の中にはいろんな考えが浮かんでは消えを繰り返していた。

エホバの証人は神から是認された唯一の組織であると公言している

その根拠として聖書の神の教えに固く付き従っていることを挙げる

長老は神から任命されたとされている

エホバの証人は愛に満ち溢れた組織だとも標榜している

 だったらワタシは神の教えに従っただけなのに。なぜ?

 神の民であったイスラエル人は、集団として腐敗し結果神様から捨てられた。彼らは神の教えを捨て、自分たちの欲望に従った結果、神様との関係を失った。
 これは聖書に記されていることなので、クリスチャンであれば皆知っていることだ。

 物事が神様の意に沿って運ばれない組織に明日はない。これは紛れもない事実だ。

 まだやれることはないか……

 というわけで近々やってくる巡回訪問で、巡回監督に相談してみることにした。

 果たして私がやった事がおかしいのかどうか、広い視野を持つであろう巡回監督に聞いてみようと考えついたのだった。



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