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1-13 謝罪2

 王国会館を後にして、一人の帰り道、突然体に激痛が走った。胃の辺りが痛い。

 道の脇に行き思わずうずくまってしまった。

 口の中に鉄っぽいテイストが広がる。吐き出した。血だった。

 後からわかるが、胃潰瘍を患ってしまっていた。もちろんストレスからだ。

 何せこの時はまだ中学生で思春期の多感な時期だった。いろんなことに対して鋭敏に感じる年齢でもあった。

 自称神様の組織で実際に目にしたこと体験したこと、信者を標榜する者たちから受けたあり得ない言動は、心身に良くない影響を与えていたのだろう。


 私は近くの公園の水飲み場で口を濯いだ。顔も洗った。そして何も無かったかのように装い、帰宅した。

 親に気遣わせたくなかったのだ。


 家に入ると十数人の顔馴染みの兄弟姉妹たちがいた。(仲間の信者をエホバの証人は男性を兄弟、女性を姉妹と呼ぶ)私を心配して集まってくれたらしい。

 シンイチの一件を他言したわけではなかったが、悪い噂は広まりやすいものだ。
 周辺地域のエホバの証人信者たちは、少なくともなんとなくシンイチが何かやらかしたという噂を耳にしていた。と、同時に私についても事実ではない評判を落とすような噂も広まっていた。

 そう言った噂を聞きつけて心配して来てくれた人、今日私が呼び出しを受けた様子を見て、居ても立ってもいられず駆けつけてくれた人などなどそこにいた人たちは、ほとんどが私を気にかけて来てくれた人たちだった。

 そして、その中にはあの日のもう一人の目撃者である友人とその家族もいた。

 私は皆が心配してくれていることに感謝を示し、なるようにしかならないだろうから必要以上に気にしてはいないと話した。

 塩田一派に嵌められ、窓際族的なポジションに落とされたご夫婦は、私の様子を涙しながら見ていた。この涙の正確な意味は、まだこの時わからなかった。すごく感情移入してくれているな程度の理解だった。

 ところで、この集まりの中に、場の中にあまり面識のない話好きの姉妹がいた。彼女がどうしてここに駆けつけてきたのか違和感があった。私は、なんとなく生理的に嫌な感じがした。


 ちょっとしたお茶タイムが終わり、目撃者である友人家族以外は皆帰宅した。その時を待っていたかのように友人の父親が私に話しかけてきた。

「ねえ、私くん、大丈夫かい?」

私は苦笑いした。

「もしかしたらもっと根が深い問題が出てくるかもしれない。私も会衆が違うからどうこうする権限はない。でもできる限り応援するからね」

 友人の父親も長老だった。隣のエリアにある会衆の主宰監督と呼ばれる役目を担っていた。主宰監督とは名のとおり会衆対して監督として主たる働きをする立場であり、会衆内では一番権限がある。

 友人の父親長老は非常に人格者でフェアな人だった。

 よくジョークを言って周りを笑わせる面白い人なのに、演壇から行う話は明快で人を惹きつけ、この人が聖書をしっかり学んでいることを感じさせた。

 こんなクリスチャンになりたいと思わせる魅力的な人物でもあった。何より聖書の教えを守ろうとする姿勢が常にあった。

 彼の存在のおかげで、彼の会衆は風通しがよく、神の組織の名にふさわしい雰囲気を醸し出していた。後からわかることだが、長老の立場でこれだけ評判と能力と魅力が一致している人は稀有な存在なのだった。

 しかし、このことは次の事実も示すものとなっていた。

 逆に悪い奴が主宰監督の会衆に所属しているなら、地獄を見る可能性が限りなく高くなるということだ。そして私がいる会衆は悪名高い塩田が主宰監督であった。

 先ほど涙を見せていた兄弟姉妹夫婦はその塩田に嵌められ、クリスチャン人生をぐちゃぐちゃにされていた。

 そして、私もどうやら雲行きが怪しくなってきていたのだった。

 エホバの是認を受けた地上唯一の真の組織、エホバの証人は壇上から話す講演者たちから自分たちの組織についてこう聞かされている。おそらく現在でもそうだろう。

 そして私自身もこの時はまだエホバの証人組織が神の是認を受けた真の組織なのだろうと信じていた。



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