1-10 巡回訪問2
現在はあるかどうか知らないが、当時は、ものみの塔日本支部により、半年に一度程度巡回監督と呼ばれる人間が派遣されていた。
会衆の運営に問題がないか見て回る役目が彼らにはあった。このため、訪問される会衆の側に問題がある場合、そこの長老たちは当然、巡回監督を煙たがった。
そして私が所属していたところも、地域柄やさまざまな要因から巡回監督を恐れる傾向があった。
このため、歴代の巡回監督の食事や宿舎の提供など、ほとんどがうちの家で行われていた。
そしてそんな中巡回訪問の週がやってきた。
しかし、この時の巡回訪問は異例づくしだった。まずどういう訳か、宿舎提供の募集はなかった。おまけに食事の当番も。
通常は掲示板に表が貼られて、申し込みを行いたい枠に自分の名前を書き応募する。しかし、今回はその表が掲示されなかったのだ。
いつの間にか我が家ではない別の家が宿舎となっていた。巡回監督との食事もなぜかいつもは絶対に引き受けない塩田の取り巻きたちが引き受けていた。
これは、長老たちが会衆の成員と巡回監督との接触を意図的に制限しているようにしか見えなかった。塩田の取り巻きが巡回監督の食事招待や宿舎を独占しているのは、偶然にしては出来すぎだ。
「塩田や林山は例の件が巡回監督に漏れることを恐れているのだろうか?」
そんな考えが頭をよぎった。
彼らの工作により、宿舎の機会も食事招待の機会も与えられないという異例の巡回訪問。私は仕方なく、集会の時に巡回監督に近づいて、話をすることにした。