わからなくても、今はそれでいい
「私はこれとか好きだな!」
「うーん、、私はこっちも好きです」
先日の事務所でのやり取り。オーディションに送るスナップ写真を撮ったときに行われた、マネージャーとの会話です。
私とマネージャーでは、大抵選ぶ写真が違います。自分の顔の写りを気にしてしまう私に対して、マネージャーは「鈴木亜美」という素材がいかによく見えるか、バランスの良さが伝わるか等、別の視点から見てくれています。
今回は、そんな意見の違いから生まれる相乗効果から、仕事が立ち行かなくなったときに私を支えてくれた言葉についてお話しします。
◆苦手克服の1枚
オーディションで見せるBOOK(ポートフォリオ)に関しても、自分だけでセレクトしようとすると、どうしても似たような雰囲気の写真に偏りがちです。やっぱり格好良く写っていたいし、綺麗に写っていたい。何よりも顔の写りに目がいってしまうのは、人間の本能として仕方のないことだと思っています。
そんなときの救世主が、マネージャー。え〜その写真選ぶのかぁ、、と正直複雑な気持ちになってしまうときもありますが、そんなときは、セレクトの理由を聞いてみます。
今はこういう仕事をしているけれど、新しいジャンルに行くためには少し違うテイストの写真を入れて様子をみたいとか、この写真を間に入れて飽きさせないBOOKにしようとか。もちろん、単純に「好きだから!」という理由もあり、それはそれで嬉しいものです。
自分では気づくことのできなかった新たな視点から、写真を見直すことができるのです。
中でも、私の笑っている写真を「入れよう」と言ってくれたときには、いつも以上に嬉しかったのを覚えています。
この仕事をしていると、周りには笑顔の素敵なモデルがたくさんいます。そもそも自分の笑っている顔を好きになれなかった私は、自身の理想とする表情を持つモデル達と出会ったことで、不得意としていた「笑う」撮影を、さらに苦手にしていきました。
そんなネガティブな気持ちを抱えて何年か経ったとき、マネージャーが1枚の写真をピックアップしてくれました。それは、珍しく私が歯を見せて笑っている写真。NYの古いビルの一室で、フォトグラファーやスタイリストたちとお喋りしながら、リラックスした雰囲気で撮影されたもの。綺麗に笑えているかと言われたら決してそうではなかったけれど、そこには気取らない、心の底から笑う私が写っていました。
たった1枚でしたが、苦手分野の写真をすくい上げてもらったことは、その後の私に大きな気持ちの変化をもたらしました。綺麗に笑えているかよりも、偽りなく笑っている自分の方が大切なのかもしれない…。
これ以降撮影で笑顔を求められたときには、自分の気持ちを高めていくことに集中するようになりました。綺麗な笑顔を真似てぎこちなくなってしまうよりも、自分の心からの表情が人の気持ちを揺さぶるのだと気づいたからです。
◆今はわからなくてもいい
マネージャー以外にも、例えば友人や家族に「どの写真が好き?」と聞くことも増えました。周りがいいと思ってくれる私はどれなんだろう?自分とは全く違う視点を持った人たちから意見を聞くことを、面白く感じるようになりました。
同じ業界にいるクリエイターの方、全く関係のない職業に就いている友人、家族という立場で私の様々な面を知っている両親。「あぁ、この写真ってそういう風に見えているんだ」とか「目を引かれる写真は一緒なんだね」とか、言われて初めて気づくことも多い。
さらには思いがけず、自信を持たせてくれることも。私の中で「あんまり上手く写っていないなぁ」と思っている写真に対して、人から「これ好きだな!」と言ってもらえると、その一言で「え?そうなの?意外に??」と苦手だと思っていたものがあっという間に肯定されてしまって、こんな自分もいいのかもしれないと思えてくるのです。
逆に、意見を聞いたけれど腑に落ちず、モヤモヤするときもあります。自分と意見が合わず、理解ができないときです。そんなときは、ムキにならずに一旦受け入れておく。あとで随分と時間が経ってから「あのとき言ってくれたこと、今ならわかる…!」そんなふうに思うことが少なくないからです。
現時点の自分がわからなくとも、数ヶ月後、数年後の成長した自分なら、理解できることがいっぱいある。今の私がわからなくても仕方ない。いつしかそんなふうに思いながら、周りの言葉に耳を傾けるようになりました。
今は、セレクトしていてわからなくなったら、最後は周りが選んでくれる写真にすることも多いです。それは信頼でもあるし、挑戦でもあるし、自分を好きになるための一歩でもあります。
◆私の写真の作り方
①好きなものとことん追求タイプ
そうした写真はどのようにして作られているのか。撮影中に指示はあれど、細かな表情や動きは基本、私のイメージから作られています。それは自身が憧れるモデルの姿だったり、美術館で見た絵画だったり、大好きな宝塚で見たワンシーンであったり…過去にどこかで見たものが、私というフィルターを通って表に出てきます。
見たものしか表現できない。だからこそ色々なものを見るし、見てどう思うか、なぜそう思うかを大切にしています。けれど、表現力をつけようと思って無理に見るのとも違う。興味があるものだけ、「好き」をとことん追求します。
撮影では、どんなイメージを要求されるかわからない。かと言って、全てのものに完璧に対応することも難しい。だったら自分の好きなものだけ極めて、あとはそこから派生していけばいい。それでもイメージができなかったときや少しずれているときは、周りの人に言葉で助けてもらっています。
②自分のご機嫌取り
先に書いた通り、実は笑う撮影には結構緊張します。
そんなときはイメージに加えて、自分が心から楽しいと思えるシチュエーションを作り出すようにします。小物を持っているならそれで遊んでみたり、なければ自分の手を絡ませて遊んでみたり、アップテンポな音楽をかけてもらったり…とにかく周りにあるもので自分の機嫌を取りに行きます。
フォトグラファーやスタッフの方が笑わせようと頑張ってくれることもありますが、それに頼りすぎても難しい。私なんかは捻くれているので、「笑わせに来てるな、、、!」とか思ってますます引きつってしまいます笑
③撮影は一種の実験
撮影を始めた当初は、毎回驚かされることばかり。その中の一つが、自分のイメージしている表情と、モニターに写ったときの表情の差です。
自分ではだいぶ口角を上げて笑っているつもりでも、微笑み程度にしか写っていなかったり、もはやニヒルな笑顔になっていたり。。可愛いモデルさんのふんわり笑顔をイメージして臨んだときなんて、私の顔でやるとこう写るのか(酷い有様)、、、と何度も衝撃を受けました。
基本的に、感情が表に出にくいのかもしれない…そう思ってからは、それを逆手に取るようになりました。
例えば、「柔らかい雰囲気で」と言われたら、私の中では微笑むように意識します。そうすることで、表情としては笑っていないけれど、纏う空気は柔らかくなる。さらに「微笑んで」と指示されたら、ゆっくり一呼吸しながら口角を引き上げていきます。私の中ではだいぶ笑っているイメージでも、写真では微笑み程度で写っているから不思議。
けれどこの差がわかってくると俄然面白いのです。この顔をイメージすると自分はあの顔になる。その引き出しが増えてからは、撮影をより一層楽しめるようになりました。
◆うまくいかないときに成長する
しかし、いくら引き出しを増やしたとしても、自分のイメージが追いつかなかったりうまく理解できないときは必ず訪れます。これまでの経験で培ってきた自分なりの法則が、通用しないのです。
とあるロケ撮影でのこと。モデルとしてポージングを勉強・実践し、たたき込んできたはずの私に、「モデルのポージングにならないように。鈴木亜美の自然体で」と言われたときには、大いに戸惑いました。自然にと言われても、モデルとしての動きが染み付いており、自然に見える私を作ることはできても、それさえ取っ払って普段の私を出すことは、かなり難しいものでした。「撮られる」そう思った瞬間に、体が勝手に動いてしまいます。「カメラを気にしないで」と言われても、カメラにどう撮られるかを常に考えてきた身からすると、それは無理な相談でした。
撮影の最初は、いつももらう指示とは全く異なるそれに、疑問を持ったままやっていました。加えてモニターからは距離があり、自分がどう写っているのかも確認できない状態。それは私にとって物凄く不安なことで、おそらくその不安が写真にも出てしまっていたと思います。中々OKが出ないことも、気持ちをさらに落ち込ませていきました。
そんなとき、フォトグラファーの方とお話しできる時間が。そこで、私に何か至らない点があるのかと聞いたとき(ど直球な質問。笑)、「僕はもう撮れてると思うんだけどね〜」と一言。詳しくお聞きすると、どうやら背景の問題だったよう。動きには問題がなかったとのことでした。
ほっと一息。
その後も特に変わらず、いつもは聞かないような指示が続きましたが、もう不安に思うようなこともなく、とりあえずやってみよう!の精神で、回ったり走ったり…とにかくがむしゃらに動きました。
もちろん、撮影しながらモニターをチェックできる環境が私にとってはベストです。撮る側が目指しているものを理解しやすく、また自分の動きを細かく見直すことができます。
しかしそれができなかったときでも、不安を抱えたまま撮られることはやめにしました。不安に思って撮った写真は、絶対にいいものにはならない。それよりも、とにかくやってみるの精神で臨んだものは、結果としていい仕上がりになっていることが多かったのです。
撮影終了後。
私はとても悔しい思いでいっぱいになり、「全然できなかった」と泣きながらマネージャーに電話しました。いつもと指示が違って戸惑ったこと、モデルじゃない素顔の自分で写ることの難しさ、途中で自信をなくしてしまった瞬間があったこと…つい10分前まで起こっていた出来事を堰を切ったように話し出しました。
「こんなこと言われても困るだろうな…」そんなふうに思い始めたそのとき、うんうんと静かに聞いてくれていたマネージャーが言いました。
「また次のステージに上がる、成長するときだね!」
その言葉は、一日中ネガティブな気持ちが渦巻いていた私にとって、全てをひっくり返してしまうほどの明るい響きを持っていました。
そうだ、なんだか知らない間に何でもできるような気になっていたけど、まだまだ出来ないことも多いし、まだまだ上がるステージがあるんだ。。そんなふうに思ったら、今日起こった出来事も決してマイナスではなく、次への踏み台のようなものだと思えてきたのです。
たった数分でしたが、電話を切ったときには既にスッキリしていて、心地よささえ感じるほどでした。「美味しいものでも食べて帰ってきなね」という言葉に従って、1人足取り軽くランチに向かったのを覚えています。
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