
不安を消すなら、「目の前に集中する」こと
昨年、アメリカでジュエリーショーに出てきました。パリコレやNYコレクション等で行われるファッションショーとは少し異なり、ジュエリーを身につけて、お客様が座っているテーブルの間を練り歩き、時に立ち止まりながら、時に笑顔で見せていく形式のショーです。
◆ポジション「真ん中」
本番の約2ヶ月前、海外の演出家から直接打診がありました。Castingなしで仕事が決まることを"ダイレクトブッキング"と呼ぶのですが、今回はまさにそれです。モデルとして、とても嬉しい決定の仕方でもあります。
海外からのダイレクトブッキングと聞くと、さぞかし良い待遇なのだろうと思われるのですが、必ずしも全てが好条件なわけではありません。出演料が少なかったり、拘束時間がいつも以上に長かったり、飛行機ではエコノミークラスに座ることが大半だったりします。
今回はというと、フライト代の一部が自己負担になるとのことでした。円安の影響も大きく、一瞬躊躇いましたが…それでもこのショーに出ることに価値がある!と決断し、すぐさま返信をしました。
そうしてアメリカ国内外から集められたモデルは、総勢24名。
中には、有名なブランドのショーを歩いているモデルもちらほら。「あの子、よくショーで見かけるよね」とか、「あそこの2人はこの前の〇〇で歩いてた」とか…周りから聞こえてくる話が世界トップレベルで、凄い。。よく見ると、身長も180cm近い子ばかり。私が1番小さいのでは…?そう思うくらい、勢揃いしたときの並びには圧倒的な華やかさがありました。
今回のショーでは、モデルは3グループに分かれて動きます。その中でも、先頭に立って歩く子、整列したときにセンターにいる子など、モデルの中でも立ち位置があります。
ちなみに、ショーをOpenさせるという意味で最初に歩く人を「ファーストルック」、Closeさせる人を「ラストルック」と呼び、その役割を担うことは大変名誉なこととされています。もしも自分がなったなら、その瞬間の感覚を味わえることはとても貴重な経験であり、また自分のことがいつも以上に誇らしく、そして単純に嬉しい気持ちになるでしょう。緊張感と高揚感がどっと押し寄せてくるポジションです。
私はというと、6人グループの5番目を歩く人でした。先頭で出ていくわけでも、最後に出てくるトリでもなく、いつも誰かと誰かに挟まれて動くポジションで、特に目立った役割があるわけでもありません。ただこの”真ん中”というポジション、少々厄介な気持ちを引き起こします。
今回はジュエリーショーで、着脱に時間のかかるドレスを着ていることもあり、服は1人につき1着、ジュエリーの付け替えもありませんでした。しかし、これが洋服のショーになると、早替えと言って何着も着替えるケースが出てきます。そして私は、洋服のショーでも出順が”真ん中”になることが非常に多いのです。
例えば、ショーの中で最大3着の服を着る人がいた場合(全員がいつも同じ着数とは限りません)、真ん中にいる私は2着、少ないと1着での出演になることが多いのです。当日現場で自分のLOOKを確認し、他のモデルの着数より少なかったときの悲しさったら…慣れていることとはいえ、やっぱり少しショックだったりします。
私の中から"どうして…?"と"やっぱりな…"という2つの気持ちが頭をもたげてきます。正直このポジションが悔しい…。そんなふうに思ったこと、何度もあります。私って先頭を歩くほどの力量や魅力がないのかな…とネガティブに捉えたこともありました。
けれど、所詮は想像。いくら私が頑張って考えたところで、本当の理由はわからないし、考えれば考えるほど心が翳っていきます。だから、考えても仕方のないことは考えない。
それより、着数が少なくても自分に似合う服をあててもらってたら嬉しいし、靴を履いてみて違和感なく歩けるかどうか確認したり、より良く見せられるよう歩き方や着方を考えてみたりと、本番へ意識を切り替えていきます。
この子にはこれを着せたい、この順番で出るんだったらこことここを入れ替えて…私にはわからない色々な考えや想いがあってこの順番になってるんだろう。今ならそう思えます。昔はそんなこと全然考えられなかったけど…!笑
話は戻りますが、今回のジュエリーショー、結果から言うと…終わり良ければ全て良し!です笑 。実は様々なアクシデント・ハプニングに見舞われ、私自身もミスしたりと…途中までは本当にどうなることかと思いました。。が、最後にはきっちりとやり遂げて終了。プロフェッショナルってやっぱり凄い!と改めて感じました。
◆「なんでも着れる」に戸惑う
デザイナーさんに言われたことがあります。
「AMIはなんでも着れるから」
それっていいことなの?当時の私はそれが疑問でした。なんでも着れるって、それは裏を返せば、個性がないってことなんじゃ…。この服は絶対に彼女に着てもらいたいんだ!そんなふうに思ってもらうことこそ、モデルにとって名誉なことなんじゃないの?と。何人かのスペシャルなモデルがいて、私はその人たちが着れなかったものを着る、埋め合わせなんじゃないの?とまで。
確かに、そういう状況もあると思います。でも、だからといって、そのモデルたちが誰でもいいなんて思われていません。スペシャル以外が全然歩けていなかったら、そのショーは失敗に終わります。むしろ、脇をどっしりと固めるモデルたちがいなければ、輝く人も輝けません。
個人で光ることはもちろん大切、それがショーの成功にも繋がっています。ただ私にとってより重要なのは、見ている人が集中してその世界観に浸れるような空間作り。それは歩いているモデル同士のタイミングだったり、距離感、テンポの一致など、多くのことが関係してきます。周りのことをよく見て動かなければできないことでもあります。自分の力を出しつつ、周りとも連携して相乗効果を出したい。いつしかそんなふうに考えるようになっていました。
そもそも本来は、選ばれてそこに出ているだけでも誇らしいことです。はじめは「あのショーに出たい」「オーディションに受かりたい!」と思っていただけだったのに、いつの間にかどんどん上に上に…と目標が更新されている。それに気づいたとき、自分はどうして現状に満足できないんだろう?欲張りな人間だな…と思うこともありました。
でも、この気持ちがあったから真っ直ぐに頑張れたのも事実。最初から「何でもいいや」という気持ちの私だったら、悔しさからくる向上心とか、ガッカリするけど立て直せる強さとか、私はこのメンバーと一緒に歩いてるんだ!っていう自信を持てちゃうポジティブさとか、そんなことは絶対に得られなかったんじゃないかなと思います。
そして今は、上に上にと思っていた気持ちを方向転換して、自分の歩きや服の見せ方、表現するものをより深く掘り下げていきたいと思っています。
それは先輩の深みのある表現力にハッとさせられることでもあるし、後輩の真摯に取り組む姿勢から学ぶことでもあります。リハーサルで勉強になることもあれば、本番のすれ違った空気から読み取ること、終わった後の映像で「あ!この子はこんなふうにしてたんだ!私もこうしたら良かった〜!」という悔しさとともに知ること、控え室のちょっとした会話で気づくことなど。どこでも誰からでも学べることを念頭に置いて、厚みのあるモデルになっていきたいです。
ちなみに「なんでも着れる」は、今の私にとっては最高の褒め言葉です。実は、私が長年憧れる人たちの共通点は、カメレオンみたいに何にでも変身できて、その場に溶け込むことのできる「表現力」なのです。
***
最後まで読んでくださってありがとうございました。良ければフォローとスキ(♡ボタン)もお願いします!
この他にも、instagram、YouTube、twitter(X)、Voicyもやっていますので、ぜひそちらもフォローをよろしくお願いします。
Have a good day:)
いいなと思ったら応援しよう!
